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16話

季節は、あっという間に冬になった。

朝、カーテンを開けると、外は白くはないけれど、空気が冷たい。

テレビでは、毎日のようにクリスマス特集が流れていて、白いひげのおじいさんが、楽しそうに笑っている。


「めごたんは、サンタさんに何お願いしたの?」


累くんは、ここ数日、同じ質問をしてくる。

朝ごはんの時間も。

夜、歯を磨く前も。

寝る前に布団をかけながらも。

私はもちろん、サンタさんの正体を知っている。

でも、今の私は5歳児で、夢を壊す訳にはいかない。

それに……

正直、欲しいものが少し困る。


本当なら、妹特権を最大限に使いたい。

累くんのサインとか。

使い古しのパーカーとか。

そういうのが欲しい。

しかし、それを欲しがる5歳児の妹は、どう考えても変だ。


「うーん……新しいお洋服……かな?」


これが無難で現実的で、家族の負担にならない答えだった。

朝食のトーストをかじりながら言うと、累くんは、ぱちぱちと瞬きをした。


「え? そんなのでいいの?ほんとに? おもちゃとかじゃなくて?」


どうやら、拍子抜けしたらしい。

私は、口をもぐもぐさせながら、こくんと頷いた。


「じゃあ、お兄ちゃんからも、サンタさんにお願いしておくね」


そう言って、累くんは少し嬉しそうに笑うと、学校へ行く準備を始めた。


「じゃあ、学校行ってくるから、今日もお留守番お願いね?」

「はーい」


玄関へ向かう途中、累くんはキッチンに目を向ける。


「マネージャーさん、お願いします」


キッチンで洗い物をしていたマネージャーさんは、「はいはい」と軽く手を上げた。


ドアが閉まる音。

足音が遠ざかる。


リビングには、シンクの蛇口から流れる水の音と、テレビのニュースの音だけが残った。


「……ねえ、おじさん」


私はトーストを全部食べ終えると、空になったお皿を持って、キッチンへ行く。

マネージャーさんは、そのお皿を一度シンクに置いて水を止め、しゃがんで私と目線を合わせてくれた。


「うん? どうした?」

「あのね、もうすぐ、クリスマスでしょ?」

「そうだね」

「クリスマスの前の日は、クリスマスイブって言うんでしょ?」

「よく知ってるね」


私は、少しだけ声を小さくする。


「……その日ね」

「うん」


「お兄ちゃんの、お誕生日……」


そう。

12月24日のクリスマスイブは、結城累の誕生日。

未来では、ライブやイベントが組まれて、ファンみんなで祝う特別な日だが、今はまだ普通の誕生日。


「おじさんも、もちろん知ってるよ」


マネージャーさんは、少しだけ優しい声になった。


「愛姫ちゃん、何か考えてたの?」


私は、ぎゅっとスカートの裾を握る。


「あのね……」

「まだ、ちゃんと決まってないんだけど……」


一瞬、迷ってから、言った。


「お手伝い、してほしくて」


すると、マネージャーさんは、ふっと笑って、頷いた。


「もちろん」

「おじさんに出来ることがあったら、何でも言って」

「うん……!」


胸の奥が、少しあったかくなる。

こうして、累くんには内緒で。

サンタさんとは、別のもうひとつのサプライズが、静かに動き出したのだった。

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