15話
日曜日のある日。
今日は、朝からマネージャーさんが家に来ていた。
「……やだ」
累くんは、リビングのソファに座り、あからさまに拗ねている。
向かいに座ったマネージャーさんは、慣れた様子でため息をつきながら言った。
「そうは言っても、もうお前も16になるだろ?」
「撮影、苦手なんですよ、俺」
どうやら、累くんの宣材写真を変更するかどうかの話し合いらしい。
宣材写真。
事務所のホームページやパンフレットに載る、めちゃくちゃ大事な写真。
今使われているものは、10歳くらいの時に撮ったらしく、今の累くんとは顔立ちが全然違う。
それにしても。
なにをそんなに嫌がっているのか、私にはよく分からなかった。
私は、累くんの隣にちょこんと座る。
「……お兄ちゃん、緊張する?」
そう聞くと、累くんは少し考えてから首を振った。
「うーん、緊張とは違うんだけどね。めごたんを置いてくの、嫌なんだよね」
……やっぱり。
「なるほどな」
マネージャーさんは、何か思いついたように私を見た。
「じゃあ、愛姫ちゃんがついて行けば問題ないな」
「でも、めごたんのことは公表してないから、簡単に連れて行けない」
「そこは、俺に任せろ」
マネージャーさんが、にやりと笑う。
嫌な予感はしたけれど、結局、私は撮影に同行することになった。
━━━━
スタジオは、なんだか落ち着かなかった。
白い壁。
大きなライト。
忙しそうに動く大人たち。
「結城、制服パターンと私服パターンいくぞ」
「はい」
スタッフさんたちが、累くんの前髪を整え、服を直している。
「愛姫ちゃんは、お兄ちゃんの仕事姿、初めてだよね」
「うん」
スタジオの隅で、私と手を繋いでいたマネージャーさんが、そっと話しかけてきた。
その時。
「……娘さんですか?」
女性のスタッフさんが、マネージャーさんに声をかけた。
「いえ、親戚の子です。芸能に興味があるみたいで」
「えー!そうなんですか!可愛いですね。すぐ売れそう」
……これか。
マネージャーさんの言っていた“いい案”というのは、親戚の子設定だったらしい。
スタッフさんが、私に目線を合わせてしゃがみ込む。
「こんにちは。お名前は?」
「……」
私は、反射的にマネージャーさんの後ろに隠れた。
そこまでは、さすがに打ち合わせしていない。
「すみません、人見知りで。それに、芸能は大人になってから考えさせたいと思ってるので」
マネージャーさんは、にこやかにそう言った。
「ですよね。子役からって大変ですもんね。累くんもそうですけど」
「ええ。将来の選択肢は、できるだけ残しておきたくて」
……そうか。
累くんは、幼い頃から子役として働いてきた。
そして、これからも芸能界にいる人。
やりたくない仕事を、簡単にやめられるわけじゃない。
そう考えると、芸能界ってすごい世界だ。
「結城くん。少しだけ目線外して」
「はい」
シャッター音が、スタジオに響く。
……かっこいい。
完全に、転生前の記憶が騒ぎ出す。
(高校生でこのビジュは反則でしょ……)
その時だった。
「ねえ。今日の前髪、どう思う?」
累くんが、撮影の合間にこちらへ来て、なぜか私に聞いてきた。
「……かっこいい」
「ほんと?」
その一言で、累くんの表情が一気に柔らぐ。
「じゃあ、これでいくか」
それからも累くんは、撮影の合間ごとに私のところへ来ては、服、表情、立ち位置の確認が入った。
私も、オタクの血が騒ぎ、気づけば私は真剣に合否判定をしてしまう。
結果。
私が「いい」と言った写真だけが残り、その中から数枚が、宣材写真として使われることになった。
まさか自分が、累くんの人生における最重要チェック役になるとは思わなかった1日だった。




