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12話

7月7日の夕方。

行き先も告げられないまま約束した、累くんとのデート。

行先は、近所の浴衣レンタルスタジオだった。

そこで私はピンときた。

今日は、商店街の七夕祭りの日だった。


「愛姫たん、浴衣は何色がいい?」


スタジオの中には、色とりどりの浴衣がずらりと並んでいる。

私はハンガーにかかった浴衣を、一着ずつ手に取る。


これは、柄が好きじゃない。

これは、ちょっと大人すぎる。

これは、私には……色が強いかな。


「……うーん」


気づくと、結構な時間悩んでしまっていた。


「めごたん……?」


累くんの声にハッと顔を上げる。

その視線は、不安そうな顔をしていた。

……しまった。

心が三十路の私は、つい“選ぶ癖”が出てしまう。

普通の5歳児なら、もっと直感で決めるはずだ。


「……なに……お兄ちゃん……?」

「めごたん……そんなに浴衣着たかったんだね!」


完全に勘違いしている累くんは、どこか誇らしげだった。

……鈍感だな、この人。

でも、その顔を見て、私はふと思いつく。


「お兄ちゃんなら、何色がいいと思う?」

「え!?俺が選んでいいの?」


目を丸くする累くん。

私がこくんと頷くと、嬉しさを隠しきれない様子で隣に来た。


「めごたんの浴衣、選べるなんて……嬉しいな」


いつも服を選んで買ってきてくれるのに、なにを今更と思ったけど、浴衣は特別なんだろう。

非日常で、今日だけのものだから。


「じゃあ……これかな!」


累くんが選んだのは、

ピンク地に、小さな赤い花が散りばめられた浴衣だった。





商店街のスピーカーから流れる音頭、人のざわめきと下駄の音が、夏を連れてきていた。

着付けとヘアセットをしてもらった私は、少し誇らしい気分だった。

累くんも甚平姿で、いつもより大人っぽい。


「めごたん、かわいいね」


その一言で、全部報われる。

お祭りには、家族連れやカップル、友達同士。

そして、私たちみたいな兄妹もいた。

私は5歳児をいいことに、屋台の前で立ち止まってはねだっていた。


「めごたん、そろそろ帰ろうか。最後に食べたいものある?」

「うーん……あ、あれしたい!」


指さしたのは、商店街の中心に飾られた七夕飾り。

色とりどりの短冊が、風に揺れていた。


「また、願い事書くの?」

「うん!だめ?」

「いいよ。書こうか」


私は、受付で短冊を1枚取った。

後ろを振り返ると、累くんはスマホを手にしていた。


「お兄ちゃんは、書かないの?」

「……うん。さっき、家で書いたからね」


少し、歯切れの悪い返事。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「え!? あぁ、大丈夫だよ」


私が近づくと、慌ててスマホをポケットにしまった。


「すぐ書くから、待ってて!」


私は短冊に、願い事を書く。

家では思いつかなかったけれど……今は迷わなかった。


「お兄ちゃんが、つけてあげるよ」

「え!だめ!」


隠す間もなく、短冊を取られてしまう。


「……え」


累くんは、文字を見て、固まった。


【かぞくみんなで、たのしく、すごせますように】


私の願い。

私と、お兄ちゃんと、パパ。

三人で過ごす時間が、少しでも増えますように。


「……叶うといいね」


そう言って、短冊を飾る累くん。

笑っているのに、どこか悲しそうだった。


「……お兄ちゃん、帰る?」

「うん。帰ろうか」


星がきらめく夜道。

私は、累くんの手をぎゅっと握って、家へ帰った。

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