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【短編小説】ヒコーキ燃やして愛tonight

掲載日:2025/12/20

 賞味期限切れ商品の無いコンビニに入ると、レジには素肌に支給品の制服を着た女が立っていた。

「42番、ショートホープのスーパーライトを下さい」

 おれは浮き上がった乳首を見ながら注文をする。レジの女は制服のジッパーを下げて

「はい、叶わない願いが引きずる影ですね」

 と言った。

 おれはその白乳色をした乳房に吸い込まれていく。

 レジの女が訊く。

「コンドルは?」

 乳首の見えない乳房に存在意義はない。

「飛んでいく、精液の様に」

「ロケットは?」

 だがおれは視線を外せない。

「爆発する、性欲の様に」

 その先に希望があるなら。





 真夜中に目が覚めた。

 もう九月だと言うのに熱気の溜まり場になった窓際は、遮熱カーテン越しにも異様なまでに暑く、おれはクリーニングに出しそびれた汗臭い薄手の毛布に身を埋めた。


 かつて真夜中はおれの時間だった。ダークマターよりもおれのイマジネーションが空間を埋め尽くしていた。

 いまはどうだ?

 疲労と倦怠、連休明けの労働が既にレバレッジを掛けて笑う。


 寝返りを打つ。

 さっきの夢で見たレジの女はどんな顔をしていたか、もう思い出せない。どうせ夢ならヤっとけば良かった。

 ナメクジとか蛇の性行みたいに夢と現をスクランブルさせて、お支払いはスペルマペイでお願いします!無責任に過ごせる瞬間、長男や取締役からの解放!おれはついにおれから解き放たれて……



 中止だ中止!!

 いますぐその90年代深夜映画を止めろ。


 ベッドの上に身を起こす。

 別に暑くて目が覚めた訳では無い。

 アルコールの分解が終わった訳でも無いし、通りを挟んで向かい側にあるコンビニの前に停車して荷下ろしをしているトラックのエンジン音がうるさい訳でもない。

 トラックのラジオが聞こえる。

 今日あった事件、明日の天気、半年先の選挙、半年前の事故。


 カーン!

 9.21 ランボルギーニvs真夏の東京、60分一本勝負!

 結果は真夏の東京が圧勝。

 慣れないストップ&ゴーを繰り返したランボルギーニが高速道路への逃げ切りを図ったが、試合時間20分、猛暑日の永福町駅前信号待ち固めでランボルギーニは炎上TKO。

 車載消火剤を全て使い切って死亡した。

 この悲しい事故を乗り越えるべく我々はフェラーリだとかカウンタックを見る度に保冷剤を投げつけることにしている。

 卵投会と言う団体を参照されたし。


 げほ、げほ。

 咳をしてもひとり。


 咳が止まらないのだ。

 煙草の吸い過ぎか、空気の乾燥、労働の過剰、セックスの欠落、栄養状態の悪化などいくつかの理由が考えられたがたぶん全部だろう。

 おれは駅前で拾った太宰治を飼っているが、便所に行く度に窓から見える富士山で泣くものだから、部屋に転がっていたスポーツ新聞で塞いだところ、いつしか新聞記事のAV女優とねんごろになって出て行ってしまった。

 おれが帰った時、部屋には「恥の多い人生を送ってしましたが、あなたもそうでしょう(※ 探さないでください、の意)」と言う置き手紙があった。


 おれは寝汗でヨレた寝巻きを脱いで素肌にジャージを羽織った。

 外に出ると、まるで磁石に砂鉄が吸い付くように体に湿気と熱が集まる。

 おれはバイクに跨ってその空気を押し退けて行く。


 太宰が出て行った時、部屋にあった金は無事だった。しかしAVの類は全て無くなっていた。

 何割かはまだ観ていない。恐らく観ないまま死ぬかも知らないなと思っていた。

 最低限文化的な老後と言うのは、それらを手元に保存しておくこれらの事ではあるまい。

 それに最低限健康的な生活と言うのは、運良く入れた施設で職員の尻を揉む事でもなかろう。


 坂道を南へ下り、住宅街から畑を抜けると、フェンスの向こうに飛行場が広がっていた。

 高々と備えられた何畳も有りそうな巨大な光が、停車中のプロペラ式の飛行機を照らしている。


 つまり、そこには、死だけがあった。

 新しいのか古いのかもわからない飛行機はまだ燃やされていない。

 それはおれが不自由だからなのか、自由に囚われているからなのか、クオリアだとかメメントとか言っているからなのかは分からない。


 白いジャージを着た男が訊く。

「おじいさん、これは何と言う映画ですか?」

 おれは素肌に支給品の制服を着た女じゃないことを露骨に残念がりながら答える。

「野外露出投稿29 ちぃ26歳」

 秋葉原の駅前で女がマイクロビキニになる。古き良き時代。それは過去の話だ。


 俺はいずれ曖昧になる。

 白いジャージの男は訓練された笑いを返す。それは憤りの酒になるか、または同僚の女に向ける性欲になるか分からない。

 おれはいつかの夜に見た飛行機たちを思い出す。真っ暗な夜の闇に浮かび上がるように照らされた飛行機。


 ただおれがそれを理解しようとしなかろうと、誰かに伝わろうと伝えられなかろうと飛行場はそこに鎮座して飛んだら飛ばなかったらする訳だ。


 

 コンドルは飛んでいく(精液の様に)

 ロケットは爆発する(性欲の様に)


 素肌に支給品の白いジャージを着た女が微笑む。おれは曖昧に勃起しているだろう。

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