真実の愛を見つけたと五人目の婚約者に婚約を破棄されました。相変わらず妹が動いていたようです。
姉妹のお話です
「エリザベッタ、僕と君の婚約を破棄してくれ。僕は真実の愛を見つけてしまったのだよ」
これで婚約破棄は五回目ですわ。また、ジャスミンの仕業ね。
◆◇◆
私と妹のジャスミンはシキニート伯爵家の娘として生ました。家族四人と親切な使用人、領民に囲まれて幸せに暮らしていました。しかし、幸せな日常とは突如として壊れるものであります。
私が16歳になり成人した次の日、仕事に向かう両親が馬車の事故に巻き込まれ帰らぬ人となりました。
泣いてる場合でありませんでした。私とは、妹は、両親が大切に守ってきた家を、領民を、金の亡者たちから守るために力を尽くさなければならなかったのです。
両親が亡くなってから早5年。優秀な部下と両親が娘が当主になった時のために、と残してくれたノートのおかげで、苦労はあったものの、なんとか両地経営は無事軌道に乗りました。
妹と私はこの5年で、辛さも嬉しさも悲しさも全てを二人で半ぶっこしながら過ごしました。本当にジャスミンは大切で大好きな妹です。
そんな中で私に起こったことは、4回の婚約破棄ですかね?
私の今の婚約者のラグナ様は私にとって5人目の婚約者です。一人目はダリアン、二人目がルシウス、あら?二人目はロリエンでしたっけ?もう忘れてしまいました。
婚約破棄の原因は全て『他の人を愛してしまった』とか、『君以外の守りたい人ができてしまった』とか、『君は僕無しでも生きていけるから』とか、でしたね。
毎度毎度、伯爵当主とはいえ、婚約者を蔑ろにしている私の非を問われなくて安心します。あの方達と話すよりも妹と話す方が楽しいですから許してほしいです…。
五人目の婚約者とは婚約してからも一切の手紙のやり取りをしませんでした。
彼がお飾りの婚約者と、お飾りの婿を望むならそれでもいいかと思い、私は放置しました。
彼は男爵家とはいえ、私は4回ほど婚約破棄をされた21歳の女。原因は全て向こうの家が原因となっていますが、そんな女、しかも年増しの女が婚約者になってしまった17歳のラグナ様はかわいそうですからね。
そんな婚約者のラグナからこの前、初めて手紙が届きました。
少し解読困難な部分もありましたが、彼がわざわざ私の元に足を運ぶような用事というものが少し気になりましたので、今日、仕事に折り合いをつけて会うことにしました。
我が家の客室で会うことになっているのですが、相変わらず、婚約者と会う部屋には妹のジャスミンがいます。
「あら、ジャスミン、何をしているの?」
「いつも通りですわよ、お姉様」
また、やったのね、と思いながら、私は妹の頭を一度撫で、お部屋で妹共に婚約者を待つことにしました。
時間に遅れた彼は、どかどかとと音を立てて入ってきました。
礼儀のなってない入り方だと感じましたが、いちいち小言を言っても致し方ないので無視することにしましょう。
「エリザベッタ、僕と君の婚約を破棄してくれ。僕は真実の愛を見つけてしまったのだよ」
私は、開始早々本題に入る彼に驚きはしましたが、無駄な時間を使わずに、願ったり叶ったりなことを申し出てくれることがありがたく、うっかり、二つ返事で了解してしまいました。
「かしこまりました。では、そのように」
「は?悲しむとか、ないのか?」
流石に即答での了承はプライドを傷つけてしまったかしら。
「私などと婚約してくださった感謝でございますよ。新しい方がどなたであれ私は邪魔しませんので。あ、この書類にサインしてくださいませ。婚約破棄の書類ですわ」
思ってないことが流れるように口から出てきます。
サインをしていただくと、写しのうち一枚を彼に渡し、本体はすかさず金庫へしまうように、もう一枚もいつも通りにお願い、と、執事にお願いして渡します。この後何かが原因で、婚約破棄の書類が破られてしまったりしたら大変ですからね。
「よし、僕はこれで自由の身だ。結婚しよう、ジャスミン」
「では、こちらにサインしてください」
妹のジャスミンは待ってましたという勢いで、ラグナ様に一枚の書類を差し出しました。彼は書類の内容を見ずに書き始めます。婚約届とでも思っているのでしょうか?
「できたぞ、ジャスミン」
「ありがとうございます」
「じゃぁ、これで僕らは晴れて…」
「はい、ただの無関係な他人ですわね」
「…は?」
ラグナ様はジャスミンが何を言っているのかわからないと言うふうに目を丸くされます。
「どうされたのですか?狐にでも化かされた顔をして」
実際に化かされているのよ。彼は。あなたという女狐にね。とぼける妹に私は、やれやれと首をすくめます。
「では、お姉様もこちらにサインをお願いします」
ジャスミンから書類を受け取ると、内容に目を通します。信頼できる相手であれ、契約書を読まないなど論外ですからね。毎度毎度、私の当時の婚約者の性格に合わせて、彼女はこの書類の内容を変えていますし。
「ど、どういうことだ?ジャスミンは僕と結婚をすると…」
私が書類に目を通している最中に彼は戸惑った声で呟きます。
「あら、私、そんなこと一度でも言いましたっけ?」
これが妹、ジャスミンの得意技です。まるでジャスミンが自分に好意を持っていると、相手が勝手に勘違いをするように仕向けるのです。もちろん、周りの人には、ジャスミンが彼に好意を向けているようには見えませんので、どれだけ彼が騙された、と訴えても彼が滑稽なだけです。
彼女はあくまで姉と婚約者の仲を取り持ちたく、友人に相談しながら行動している健気な妹なのです。
私はサインをし終えた書類を婚約破棄の時と同様に写しの一枚を彼に、写しのもう一枚と本体を執事にわたしました。
私がふと前を向くと、全く頭の回ってないラグナ様がいました。
しょうがないので、放心状態の彼にしっかりと、現状を伝えることにします。元婚約者のよしみで、何が起こっているかを教えてあげることにした、というよりは、この流れがすでに5回目なので早く終わらせたいという気持ちの方が強いかもしれません。
「あなたがサインした書類、一つ目はもちろん私との婚約破棄、あ、破いても意味はありませんよ。本体はもうすでに、金庫の中ですし、もう一枚の写しはあなたのご実家に現在送っておりますから」
本能なのか、頭で理解してなくても、この書類の存在のまずさを感じたのか、婚約破棄の書類を破ろうとした彼にそう告げる。
「二つ目は、そうですね。私とラグナ様の婚約解消については双方の性格の不一致のための双方合意の上のこととし、絶対にお互いのことを悪く言わないこと、そして、私たち姉妹と今後社交上での必要最小限以外の関わりを持たないことについての契約ですね。どちらもこの契約に関して、破ったら莫大な違約金が発生しますのでお気をつけを」
「さ、詐欺だ。ふ、二人で共謀して僕を騙したな?」
「騙した、とは?」
「僕に婚約破棄をさせて、僕に恥をかかせる目的だったのだろ」
「何を言っておられるのですか?そんなくだらないことに割く時間は私にも妹にもございませんわ。そもそも、あなた様に恥をかかせたいならば、あなたが他の女性と楽しそうにしていることをご両親にお伝えすれば良かった話ですしね」
自分の不貞について私が知らないと思っていたようで、ラグナ様は驚き顔です。
「は、は、?なんでお前がそれを…」
お口が悪いですわよ、とは言わずに言葉を返します。
「街を歩いていた時にあなたを見かけた身内がいたらしく、彼女がそのまま、ラグナ様の女性関係を調査をしてくださったのです」
たまたま歩いていたわけではなく、不貞を見つけようと狙って歩いていたジャスミンが見つけた話ではありますが、そんなことを事細かに伝える必要はありませんわ。一ヶ月ずっと張り込みを続けていたジャスミンも元気だけれども、その間のラグナ様も随分お元気でしたわね、若いからかしら?
「この婚約破棄の仕方が双方にとって最大の利益だと思いますが…?」
私がそういうと、彼は悔しそうに唇を噛み、何も言わずやにドタバタと部屋を出ていかれました。
あら、ラグナ様は焦りからか、左手すぐに出口があるのに彼は右に曲がってしまわれましたわ。
そんな彼にジャスミンは
「ラグナ様、お出口は右手ではなく左手ですよー。お気をつけてー」
と声をかけます。おちょくっているようにも聞こえてしまいますよ。
「これで一件落着ですわね、お姉様」
彼の気配がなくなると、ジャスミンはニコッと可愛らしい笑顔を浮かべています。
「今回の方は弱みを握っているから別にいいかも、という話ではなかったっけ?」
私は呆れた声で彼女に問いかけます。
「そうとも思ったのですが、少し関わってみて今までのお姉様の婚約者の3分の1程度も学や礼儀がなく、お姉さまの隣には立たせてられないと思いまして」
「あなたがいたら私、結婚できないわよ」
私はわざと困ったような口調で言いうの。妹は、そんな行動も演技と分かってか、いなか、
「あら、それでもいいではありませんか。我が家はあまり、血筋を意識している貴族ではありませんし。お祖父様も養子でこの家を継いでおりますわ。私たちもこの家を守り継いでくれる養子を育てればいいだけですわ」
と明るい声で返してきますの。
「まったくもう…」
私は可愛い妹の頭を撫でました。
これは、ジャスミンには内緒の話なのですが、結婚適齢期で容姿端麗、しかも伯爵家の娘のジャスミンへの求婚絶えないのです。私が全て断っていますが。
だって、ポッとでの教養も性格も何もかもジャスミンに釣り合わない男にジャスミンは任せませんよね?
どうやら、私もジャスミンも妹離れ、姉離れはまだ先なようです。
呼んでいただきありがとうございました!
お互い共依存気味な姉妹のお話でした!