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三題噺もどき4

うまくいかない

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくさんじゅうに。

 




 カチカチと時計の針が時間を進めていく。

 一定の速度で鳴る秒針の音は、時と場合によって精神的な煽りになる。

 いい意味でも悪い意味でも。

「……」

 基本的に、いい意味で働くことが多い私だけれど。

「……、」

 今日はどうにも。

「……、」

 思うように行かない。

「……――っはぁ」

 手に持っていたえんぴつを、思わず投げそうになる。

 それをとどまっただけでも奇跡のようなものだ。

 投げかけたえんぴつを、静かに―それでも少々荒々しく―机の上に置き、ため息をつく。

 すこし芯が欠けたような気がしたが、気のせいだろう。

「……」

 思いつめたような溜息になったせいで、それにも少し苛立ちを覚える。

 何をそんなに追い詰めるのだろう、たいしたことでもないのに、と。

 いつも通りの仕事をしているだけなのに、なんでこんなに思い通りに行かないのか。

「……、」

 猫背を伸ばしながら、椅子の椅子に体を預ける。

 机の上に広げられた紙から視線をそらすように、天井を見上げる。

 ギシ―と悲鳴を上げる椅子の声など、今日は聞きたくもない。

「……」

 見慣れた天井。

 何かがあるわけでもない。顔のように見える模様も、お気に入りのポスターも何もない。真っ白な壁が広がっているだけ。

 ただ、埋め込まれた電球が、何もせずにそこにいるだけ。

 私が使うこともないから、存在している意味もない。

「……、」

 首が少し軋む。

 このまま折れてしまうのではないかと思うほど。

 いっそ折れてしまえと思わなくもない。……その程度では死にもしないのだけど。

「……」

 視界だけを動かせば、やかましく鳴り続ける時計が見える。

 秒針を進めるたびに、私の何かを撫でていく。

「……」

 その少し先に、鳥籠の頭の方が見える。

 丸い天井をしたそれは、今は空洞だ。

「……」

「……、」

「…………―――」

「……何してるんですか」

「……ん」

 うめき声のように漏れた返事と共に、声のした方へと頭を動かす。

 相変わらずノックもしない、私の従者がそこに立っていた。今日はご機嫌がいいのか、腰に巻くタイプのエプロンをしている。……暑くてハーフパンツを履いているのか、この角度ではスカートを履いているように見えなくもない。

「……なにって」

 何をしているんだろう。

 何かがあったわけでもないのだけど。

 なんとなく、微妙な違和感と不安とが混ざったような、よくわからない気分で。

 それのせいで思うように事が進まなくて、どうにもイライラしてしまって。

 何もかもを投げ出したくなりそうになって。

「……なんだろうな」

 訳も分からず、暗闇に浮かぶ、真っ赤な口紅を塗った、三日月を思い出しそうになって。

「……休憩にしますよ」

「……うん」

 そうしたら、声が聞こえて。

 そこにコイツが立っていた。

「……」

 私は。

 何度コイツに。

 掬われるのだろう。





「……今日はお休みしたらどうですか」

「ん~……」

「また何かあったら困りますよ」

「そうだなぁ……」

「…………ご主人」

「……休むかぁ」









 お題:えんぴつ・スカート・口紅


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