うまくいかない
三題噺もどき―ななひゃくさんじゅうに。
カチカチと時計の針が時間を進めていく。
一定の速度で鳴る秒針の音は、時と場合によって精神的な煽りになる。
いい意味でも悪い意味でも。
「……」
基本的に、いい意味で働くことが多い私だけれど。
「……、」
今日はどうにも。
「……、」
思うように行かない。
「……――っはぁ」
手に持っていたえんぴつを、思わず投げそうになる。
それをとどまっただけでも奇跡のようなものだ。
投げかけたえんぴつを、静かに―それでも少々荒々しく―机の上に置き、ため息をつく。
すこし芯が欠けたような気がしたが、気のせいだろう。
「……」
思いつめたような溜息になったせいで、それにも少し苛立ちを覚える。
何をそんなに追い詰めるのだろう、たいしたことでもないのに、と。
いつも通りの仕事をしているだけなのに、なんでこんなに思い通りに行かないのか。
「……、」
猫背を伸ばしながら、椅子の椅子に体を預ける。
机の上に広げられた紙から視線をそらすように、天井を見上げる。
ギシ―と悲鳴を上げる椅子の声など、今日は聞きたくもない。
「……」
見慣れた天井。
何かがあるわけでもない。顔のように見える模様も、お気に入りのポスターも何もない。真っ白な壁が広がっているだけ。
ただ、埋め込まれた電球が、何もせずにそこにいるだけ。
私が使うこともないから、存在している意味もない。
「……、」
首が少し軋む。
このまま折れてしまうのではないかと思うほど。
いっそ折れてしまえと思わなくもない。……その程度では死にもしないのだけど。
「……」
視界だけを動かせば、やかましく鳴り続ける時計が見える。
秒針を進めるたびに、私の何かを撫でていく。
「……」
その少し先に、鳥籠の頭の方が見える。
丸い天井をしたそれは、今は空洞だ。
「……」
「……、」
「…………―――」
「……何してるんですか」
「……ん」
うめき声のように漏れた返事と共に、声のした方へと頭を動かす。
相変わらずノックもしない、私の従者がそこに立っていた。今日はご機嫌がいいのか、腰に巻くタイプのエプロンをしている。……暑くてハーフパンツを履いているのか、この角度ではスカートを履いているように見えなくもない。
「……なにって」
何をしているんだろう。
何かがあったわけでもないのだけど。
なんとなく、微妙な違和感と不安とが混ざったような、よくわからない気分で。
それのせいで思うように事が進まなくて、どうにもイライラしてしまって。
何もかもを投げ出したくなりそうになって。
「……なんだろうな」
訳も分からず、暗闇に浮かぶ、真っ赤な口紅を塗った、三日月を思い出しそうになって。
「……休憩にしますよ」
「……うん」
そうしたら、声が聞こえて。
そこにコイツが立っていた。
「……」
私は。
何度コイツに。
掬われるのだろう。
「……今日はお休みしたらどうですか」
「ん~……」
「また何かあったら困りますよ」
「そうだなぁ……」
「…………ご主人」
「……休むかぁ」
お題:えんぴつ・スカート・口紅