「まちづくり」で大逆転!~追放された転生令嬢、都市開発チートで王家を超える~
いつもお読みいただき、ありがとうございます。前世の知識を活かして理想の街を作り上げるリディアの奮闘記、どうぞお楽しみください。現代の都市計画の知識があったら、中世ファンタジー世界でどんな街が作れるのか想像しながら書いていたら、とても楽しくなってしまいました。
「リディア・ヴァンベール。領民を惑わす危険思想を広めた罪により、王都からの追放を命ずる」
王城の謁見の間に、冷酷な宣告が響いた。
リディアは膝をついたまま、じっと床の大理石の模様を見つめていた。
美しいブロンドの髪が肩に流れ落ち、青い瞳には諦めにも似た静けさが宿っている。
周囲の貴族たちからは、安堵と嘲笑の声が漏れ聞こえてきた。
「やっとあの女の妄言から解放される」
「街を一から作り直すだって?正気とは思えない」
「平民出身のエリー様の方が、よほど常識をお持ちだ」
王太子エドワードは、隣に控える聖女候補のエリーと手を取り合いながら、リディアを見下ろしていた。
「君の突飛な考えには、もううんざりだった。街は作るものではない。何百年もかけて自然に発展してきたものを、一朝一夕で変えようなどと......愚かしい」
エドワードの言葉に、貴族たちは頷いて見せる。
「そんなに『まちづくり』がしたいなら、領主のいない国有の荒れ地をくれてやる。せいぜい励むがいい」
最後まで、誰一人としてリディアの真意を理解しようとはしなかった。
彼女が本当に民のことを思って提案していたことを、信じてくれる者はいなかった。
リディアはゆっくりと立ち上がると、深々と一礼した。
「承知いたしました。お心遣い、ありがとうございます」
その声には、もはや怒りも悲しみもなかった。
ただ、静かな決意だけが込められていた。
* * *
王都から東へ三日。
荒涼とした大地を行く馬車の中で、リディアは窓の外を眺めながら、これまでの出来事を振り返っていた。
実は彼女には、前世の記憶があった。
現代日本で都市計画に携わっていた専門家として、効率的な街づくりや住環境の改善に情熱を注いでいた人生。
この世界に生まれ変わった時、彼女は自分の知識を活かして、より良い社会を作りたいと願っていた。
女性が政治や経営に参画することは珍しくないこの世界で、リディアは積極的に領地経営に関わろうとした。
上下水道の整備、効率的な住宅配置、街路の計画的な設計......
しかし、彼女の提案はことごとく「非常識」として退けられた。
「街というものは長い年月をかけて自然に発展するものだ」
「人工的に作り上げようなど、神への冒涜に等しい」
「先祖代々続いてきたやり方を変える必要がどこにある」
保守的な貴族たちは、変化を嫌った。
新しいものへの恐れと、既得権益への固執が、彼らの目を曇らせていた。
そんな中で、平民出身ながら従来の価値観に忠実なエリーの存在は、まさに理想的だったのだろう。
「でも......」
リディアは小さくつぶやいた。
「本当に民のことを考えたら、もっと良い生活ができるはずなのに」
馬車が大きく揺れ、彼女の思考が現実に引き戻された。
目的地の荒れ地は、もうすぐそこだった。
* * *
リディアが到着したのは、わずか五十世帯ほどの小さな村だった。
建物は老朽化し、道は舗装されておらず、上下水道などない。
典型的な中世の村落の姿がそこにあった。
しかし、リディアの目には別の景色が見えていた。
平坦で水源に恵まれた土地、周辺国との交通の要所になりうる立地、......可能性に満ちた空間。
「これなら、できる」
まず着手したのは、住宅の改良だった。
断熱材の概念を導入し、採光と通風を考慮した間取りの提案。
村人たちは最初、戸惑いを見せた。
「こんな建て方、見たことがない」
「本当に大丈夫なのか?」
しかし、実際に改築された家の快適さを体験すると、彼らの反応は一変した。
冬は暖かく、夏は涼しい。
湿気がこもらず、採光も十分。
「これは......素晴らしい」
「まるで別世界のようだ」
次に着手したのは、上下水道システムの構築だった。
この世界の技術でも実現可能な範囲で、衛生的な給排水システムを設計。
感染症の予防効果は絶大で、村全体の健康状態が劇的に改善した。
そして、計画的な街路の整備。
効率的な物流と美しい景観を両立させた道路設計は、訪れる人々を驚かせた。
噂は瞬く間に広がった。
「東の荒れ地に、理想の街ができたらしい」
「住宅の天才がいるという」
商人、職人、学者......様々な人々が、この小さな村を訪れるようになった。
そして、多くの者がそのまま移住を希望した。
リディアの街は、着実に成長していった。
* * *
十年後。
現王の健康状態が悪化し、エドワードが新王として就任することが内定した。
しかし、王都では深刻な問題が山積していた。
従来型の住宅では、増えた人口を収容するのが難しくなってきたのだ。
浮浪者がうろつくようになり、治安も衛生状態も悪化してきた。
さらに、都市インフラの老朽化も進行し、住宅があっても快適からは程遠いくらしとなった。
「東方領地では、道や家が壊れる時限がわかっていて、あらかじめ順番に作り直すそうだ」
「縦横につながった家があり、貧しい者でも屋根のある暮らしができるとか」
「やはり、リディア様の提案を聞いておくべきだったのでは......」
「あの方の知識があれば、こんなことには......」
そんな声がささやかれ始めていた。
一方、正式な聖女となったエリーは、あまりの激務に体調を崩しがちになっていた。
エリーの治癒魔法は、一対一で眼の前の人を癒やすもの。
衛生状態の悪化やインフラ老朽化に伴い病人・怪我人が急増したことで、対応が追いつかなくなったのだ。
婚約時代にはエドワードと共に国内をまわり市民を治療する試みも行っていたが、今は昔。
最近は貴族を癒やすのがやっとであり、高位貴族に限定しようかという話もできていた。
「国内を一気に癒やしてくれるなら良いが、今のままでは全く追いつかない」
エドワードは焦りを隠せずにいた。
国政の混乱が続く中、東方から届く報告は衝撃的だった。
「リディア・ヴァンベールの領地が、大変な発展を遂げております」
「人口は既に一万を超え、他国からも視察団が訪れているとか」
「『東方の奇跡』と呼ばれ、各国の王族も礼を持って接しているようです」
エドワードの顔は青ざめた。
自分が追放した女性が、今や各国の王族と対等に交渉する立場にいる。
その事実は、彼のプライドを激しく傷つけた。
「馬鹿な......あの生意気なリディアが......」
しかし、現実は残酷だった。
リディアの街は日に日に発展し、王都は衰退の一途をたどっていた。
自由な開発を可能にするため、追放時に独立統治を認めてしまった。
今から召し上げれば諸国の批判は免れないだろう。
そして、ついにその時が来た。
王都が、頭を下げてリディアに救いを求めることになったのだ。
* * *
「東方伯爵リディア・ヴァンベール様」
豪華な執務室で、リディアは来客の報告を受けていた。
かつての公爵令嬢は、今や独立した領主として、各国から敬意を払われる存在になっていた。
「王太子エドワード殿下がお見えです。いかがいたしましょうか」
「あら、お約束があったかしら?」
「いえ......突然のご訪問で」
「困ったわね……王都を出る時に先触れを出してくださればよかったのに……。
この後隣国の皇妃さまと昼食だから、15分だけお会いしましょう」
執務室の扉が開かれると、エドワードが現れた。
王国の一令嬢だったリディアだが、今は普通の貴族では面会が取れないほどの人物になっていた。
しかたなく王太子自らリディアに会うために、長旅をしてきたのである。
早馬を出さなかったのは、自分が来たら最優先されるはずというエドワード最後のプライドだった。
「リディア......息災だったか」
「これはこれは、王太子殿下。ご機嫌よう。おかげさまで何とかやっておりますわ」
リディアは軽く会釈した。
「実は折りいって......王都を立て直してもらえないかと」
エドワードの声は震えていた。
「あら」
リディアは扇子を優雅に開いた。
「殿下、以前『街は作るものではない』とおっしゃられていたのでは?」
エドワードの顔が赤くなった。
自分の言葉が、そのまま返されたのだ。
「各国から都市計画のご相談をいただいていてとても忙しいので、すぐには難しいと思いますわ」
リディアの声は、穏やかでありながら、力を秘めていた。
以前なら王家の指示を断ることなどなかっただろう。
自分の信念を貫き、本当に民のために働いた結果が、今のこの地位だった。
「真に価値あるものは、時が証明してくれるのですね」
リディアは窓の外に広がる美しい街並みを見つめながら、静かにつぶやいた。
理想の街は確かに存在していた。
そして、それを作り上げたのは、誰からも理解されなかった一人の女性だった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。現実世界でも新しいアイデアが受け入れられるまでには時間がかかることが多いですが、真に価値あるものはきっといつか認められる日が来ると信じています。もしよろしければ、感想やご意見をお聞かせいただけると嬉しいです。




