第0話「はじまりの鼓動」
暗闇だった。
音もない。形もない。重力もなければ、空もない。
ただ……「ナニカになりたい」っていう、もやもやだけがあった。
最初に“それ”が感じたのは、
渇きだった。
この世界には、なにもない。
自分が何者なのかも分からない。
そもそも、自分が“ある”のかすら、分からなかった。
でも、確かに思った。
「なんか、生きてみたいなぁ……」
そう思った瞬間、世界がちょっとだけ“ザワッ”と動いた気がした。
小さな泡のような、誰にも気づかれないような動き。
だけど、それは“それ”にとっては、人生最初の――いや、“命”最初の手応えだった。
それから、長い長い時間さまよった。
星ができて、爆発して、
水ができて、風ができて、
なにかチョロチョロ動く生き物が現れて、
でっかいのが地響き立てて歩きはじめた頃。
“それ”は、ふと思った。
「あ、あれ……いいな」
それは……でっかい、もっふもふの……鼻が長くて毛むくじゃらの生き物だった。
仲間と群れて歩いていて、
時々、雪の中で子どもに鼻を巻きつけて持ち上げて、
時々、空を見上げて“何か”を思っていた。
なんだか、惹かれた。
理由なんて、ない。ただ、心が動いた。
「……乗ってみるか。あいつの“人生”ってやつに」
そうして、“それ”は初めて、「命」というものの中に入った。
それは重くて、暖かくて、ドクンドクンとうるさくて。
でも、めちゃくちゃ気持ちよかった。
「うわっ、これが……“生きてる”ってやつか……!」
こうして“それ”は、
最初の命を始めた。
名前もない魂が、マンモスとして初めて世界に立った、その瞬間。
世界はまだ、荒くて冷たくて、厳しい。
でも、そこには風があり、雪があり、仲間がいた。
そして、命があった。
「この命、何度目だっけ?」
それは、まだ何も知らない魂の、
最初のひとつめの「命の記憶」だった。