この神が送り届けよう 番外編
「よし、では次の世界へ行くぞ」
そう言って白いドアに手をかけたのは、何も無い白の世界を支配する神、城田保和糸。
髪や肌、目の色まで真っ白で、上裸に白いコートを羽織っている。好物はグリーンカレーだ。
基本的に万能だが、本人はあまりやる気が無い。白いドアを通じて、様々な異世界を巡る力を持っている。
「わーい!次はどんな世界なの?アメリカ?」
「普通の海外旅行じゃないですか!!異世界でもなんでもねえ!!」
流れるようなボケとツッコミを披露したのは、二人の高校生。ボケたのが高校3年生の野崎真美で、ツッコんだのが高校2年生の瀬名川瞬だ。
彼らはオカルトマニアである真美がノリで試した転移魔法によって、白の世界に迷い込んでしまった。
城田は面倒で1ヶ月彼らを放置していたが、放っておくのもそれはそれで面倒なので彼らを元の世界に送り届けることにしたのだ。
ただし、神様ランキングがボクシングの神、モハ〇ド・アリの一つ下である城田の力では、直接元の日本に彼らを送り届けることはできない。様々な異世界を巡って日本に辿り着く必要がある為、三人で旅をしているというわけだ。
「今回は寝相の世界だ。如何にダイナミックな寝相で寝られるかによって勝敗が決まるぞ」
「なんだそれ!?勝敗があんのかよ?」
「はいはーい!私寝相の悪さには自信があるよ!前は寝ながら四人五脚してたらしいし!」
「あと三人どこから連れて来たんですか!!」
「うむ。我も寝相には自信があってな。この間は小学校に記念品としてピアノを贈ったぞ」
「それ寄贈だろ!!関係ねえ!!」
「見て見てー!私の膝綺麗じゃない?」
「それ膝小僧!!どんどん脱線してますよ!?」
三人が大騒ぎしていると、突然アナウンスが響き渡る。
『寝相選手権に参加する選手は、会場に集まりやがれこの野郎!!』
「アナウンス口悪いな!?」
「よし、では会場へ行くぞ。原付はあるか?」
「徒歩でいいだろ!!ていうかお前神なんだからそんな庶民的なもん乗るな!!」
会場へ着いた三人は、受付で参加申し込みをし、早速トーナメントへ向かった。
まず最初は瞬だ。
「俺は寝相良い方なんで期待しないでくださいね?」
「分かった!ゲームしとくね!」
「せめて見といて貰えます!?」
とは言いつつ、瞬は普通に行儀良く眠っただけであっさり敗退。すごすごと戻って来た。
「もー瞬くん!もっとダイナミックじゃないと!」
「そんなこと言われても……。寝るだけなんで……」
「うむ。次は真美の番だな。ベストを尽くして来るが良い。我は真美に100フィリピンペソ賭けるぞ」
「それベストじゃなくてベット!!あとなんで通貨フィリピンペソなんだよ!!」
真美は意気揚々と布団に向かい、そのまますぐに眠りについた。
すると真美は大きく動き出し、頭を起点にしてクルクルと回り始めた。
「おいブレイクダンスじゃねえか!!寝相エグイな!!」
「「「ウオオオオオオ!!」」」
観衆からは大歓声が上がる。期待の新星の登場に、期待の輪が広がっているのだ。
『勝者、真美ーー!!』
「いえい!勝ったよー!城田さん、チョキタッチ!」
「せめてグータッチだろ!!なんだチョキってやりにくい!!」
「うむ。では次は我の番だな。寝相天下無双と呼ばれた我の寝姿を見るが良い」
「地味な天下無双!!」
城田は静かにベッドへ向かうと、そのまま横になった。白いベッドも相まって、何もいないかのようだ。
「判定しにくいじゃねえか!!めんどくせえな!!」
眠りについた城田は突如空中へと浮き上がり、横になった姿勢のまま回転し始めた。
「ああなんか狂ったコンパスみたいになってる!!」
「流石城田さん!規格外だね!まるで京セラドーム名物、いてまえドッグのよう!」
「例え合ってます!?」
そのまま城田は勝利し、目を擦りながら戻って来た。
「もう少し眠りたかったぞ。今夢の中で確定申告していたというのに」
「お前個人事業主なの!?」
「わーい!この調子で勝っていこー!」
城田と真美は順調に勝ち進み、決勝は二人のマッチアップとなった。
二人はそれぞれベッドで横になり、眠りにつく。
すると二人は立ち上がり、どこからか取り出した木剣でチャンバラを始めた。
「何してんだ!!戦えてんのすげえな!?」
二人のチャンバラを固唾を飲んで見守る観衆。そして最終的に城田の木剣が真美の首元へ向かい、すんでのところで止まる。
『し、勝負ありー!!勝者、城田ーー!!』
「「「「ウオオオオオオ!!」」」」
「何を見せられてんだこれは……」
無事チャンピオンになった城田と準優勝の真美は、お互いを称え合いながら戻って来た。
「まあ何はともあれ、よくやってくれたよ。これでこの世界はクリアか?」
「うむ。では次の世界へ向かうぞ。次は布団の世界だ」
「何が違うのか教えて貰える!?」
こうして三人は、寝相の世界をクリアしたのだった。
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