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異能怪奇伝[原]  作者: 卵焼き
【三章:封妖学異変】
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第八話:神なんて②

 禍津日神(まがつひのかみ)は、頼に向けて紫のオーラでできた剣の切っ先を突きつけた。


「おい、その体を人間に……歩野宮に返せよ。クソ神が」


 頼の言葉には応じず、禍津日神(まがつひのかみ)は剣の先にさらにオーラを集中させ始める。


 その時、頼の背後から神凪が駆け寄ってくる。


「大丈夫!?」


 神凪の声に、頼は驚いた表情を浮かべながら叫ぶ。


「神凪!? なんでここに……雪さんはどうした!?」

「美座和の相手をしてくれてる! だから、今のうちに──!」


 その瞬間、禍津日神(まがつひのかみ)の剣先から放たれたオーラの弾が、猛スピードで一直線に二人に向かって飛んでくる。


「あぶないっ!」


 頼の叫びと同時に、二人は左右に飛び退いてなんとか回避する。


「あれ、当たったらどうなるんだ?!」


 怒鳴るように言いながら、頼はすぐに体勢を立て直し、手のひらを禍津日神(まがつひのかみ)に向け、そして雷霆球を放つ。


 しかし、禍津日神(まがつひのかみ)は宙を舞い、軽々とそれを避けた。


「なにあれ!? ずるくない!?」


 神凪が思わず叫んだ次の瞬間、禍津日神(まがつひのかみ)は紫色の弾幕を神凪へと放つ。


 神凪は身体を翻してなんとかそれを避けるが、すぐに禍津日神(まがつひのかみ)が指をパチンと鳴らす。


 次の瞬間、地面が大きく揺れ始める。


「え!? 地震!?」


 体感では震度5強。立っているだけでも精一杯なほどの揺れが二人を襲う。


 禍津日神(まがつひのかみ)は真顔のまま頼を見つめ、手のひらを向けてオーラを溜め始めた。


「やばい!早く終われ!地震!!」


 頼が必死に願ったその瞬間、前方から「バンッ!」という音とともに、オーラの塊が放たれる。


「頼っ!!」


 神凪の叫びが耳に届いたその時、頼はまるで時間が止まったかのような感覚に包まれた。


 ──そして、頭の中に男の声が響く。


『仕方ないな〜。これ、教えてあげる代わりに、あとで僕を外に出してね?』


 次の瞬間、頼のいた場所へオーラが直撃し、土埃が舞い上がる。


「頼ぃぃぃ!!」


 神凪が叫ぶと、どこからか声が返ってくる。


「大丈夫、俺は無事だ!」


 反射的に空を見上げると、雷でできた翼を背にして飛んでいる頼の姿があった。


「えぇ!? なにそれ!」


 あまりの光景に腰を抜かしそうになる神凪。

 だが、頼は必死に叫ぶ。


「今はそんなことどうでもいい!神凪、お前も同じことをしてみろ!」


「いや、私それのやり方知らないんだけど!」


 返された言葉に、頼は顎に手を添えながら即座に返す。


「背中に意識を向けて、翼をイメージしてみてくれ!俺はそう教わった!」


「わかった、やってみる!」


 この会話に違和感を感じながらも、神凪は真剣な表情で頷き、目を閉じる。


 禍津日神(まがつひのかみ)は妨害するように再び弾幕を張ろうとするが、頼がそれを見越して、一直線に雷を放つ。


「おい、邪魔すんなよ、クソ神」


 頼は禍津日神(まがつひのかみ)を真っ直ぐに睨みつけた。


 一方、神凪は背中に意識を向け、天使のような美しい翼の姿をイメージする。


(炎と水を……翼の形にするよう意識して……)


 そのとき、意識の奥底から、どこか不機嫌そうな男の声が響いてきた。


『はぁ……話が違うぞ……』


 そこには、渋い表情を浮かべる迦具土神(かぐつちのかみ)の姿があった。


『え!? なんで迦具土神(かぐつち)がここに!?』


 驚く神凪の問いに、迦具土神(かぐつちのかみ)は深いため息をつきながら答える。


『当たり前だろうが。我はお前の意識の中に囚われ、半ば強制的に力を搾取されている、哀れな神なのだからな』


 その言葉に、神凪は顔をしかめる。


『はぁ?勝手に人の体を乗っ取ったくせに、何様のつもり!?そういうのは、黙っておとなしくしてる人が言うセリフなの!』


『我は“人”ではないから関係ないな』

『そういう問題じゃ……』


 迦具土神(かぐつちのかみ)は興味なさそうに返すと、次の瞬間、表情を引き締め、目を鋭く光らせた。


『さて──雑談はここまでだ。本題に入ろう』


 そして、神凪を見下すような視線で、冷たく言い放つ。


『なぜ我を具現化させず、お前のような──通常時の禍津日神(まがつひのかみ)すら倒せぬ出来損ないが、無駄な抵抗を続ける?』


 迦具土神(かぐつちのかみ)は神凪の目の前まで歩み寄り、威圧的な眼差しで言葉を続ける。


『無意味な努力だ。我を具現化させるか、体を明け渡せ。さもなくば、貴様の“翼を生やす”などという戯言に、耳を傾ける気はない』


 その苛烈な言葉に対し、神凪は表情一つ変えず、静かに言葉を返す。


『嫌。今、あなたに体を渡したら──步野宮さんごと敵を焼き尽くして、何もかも終わらせちゃうでしょ。そんなの、絶対に許せない』


 その言葉に、迦具土神(かぐつちのかみ)は怒りを露わにし、額に浮かぶ血管がピクピクと脈打つ。


『……先ほどから、ずいぶんと舐めた口を……!』


『だって、全部本当のことなんだもん。初めて美座和と戦ったとき……さっきだって、私の体を奪って好き勝手してたけど、知らないふりしちゃってたけど、ちゃんと見てたから』


 神凪は真っ直ぐに迦具土神(かぐつちのかみ)の瞳を見据えた。


『私の考えは、絶対に変わらない』


 その強い意志のこもった言葉に、迦具土神(かぐつちのかみ)は一歩後ずさり、視線を落とす。


 次の瞬間──彼の体から勢いよく炎が立ち上がり、顔をゆっくりと上げながら言葉を吐き捨てる。


『……そうか……ならば、もういい。初めはお前に多少の慈悲をもって助言を与えてやったが……その必要もない。ここで我が消えようが構わん……貴様ごと──』


 そう言いかけたその瞬間、迦具土神(かぐつちのかみ)の背後から、誰かが彼の口元を押さえつけた。


 その手は、驚くほど自然に、そして力強く。


『はいはい、そこまでにしておきなさい〜。私、弱い者いじめって、すごくみっともないと思うの。だからね』


 背後に立っていたのは、水色の髪にタレ目の、優しげな雰囲気を纏った女性だった。


 迦具土神(かぐつちのかみ)は即座にその手を払いのけ、鋭い目で睨み返す。


『ふん……相変わらずだな。その、クソ面倒くさい性格は』


『ふふ……私、女の子には甘い性格なのよ』


 女性はにっこりと微笑むと、ゆっくりと神凪のもとへ歩み寄り、穏やかに語りかける。


『いきなり力の制限を強めて、あなたをこちらの意識の世界に引き込んでしまってごめんなさいね』


 そう言って小さく頭を下げたあと、神凪が口を開くより先に、はっきりと告げる。


『一つ、約束してちょうだい。禍津日神(まがつひのかみ)や……あの素戔(すさ)――じゃなくて、美座和を倒したら、私たちを具現化させること』


 女性は首を傾げながら、にこやかに宣言する。


『そうすれば、私たちの力をあなたに、惜しみなく貸しましょう』


 神凪は高鳴る胸を抑えつつ、静かに問いかけた。


『約束する前に、あなたの名前を聞いてもいいですか?』


 その問いに、女性は表情を崩さず、やわらかく答える。


罔象女神(みつはのめのかみ)。水を司る神です』


 思わず、神凪は小さく声を漏らす。


『え、あ……は、初めまして?』


 反射的な挨拶に、罔象女神(みつはのめのかみ)は微笑を浮かべたまま言葉を重ねる。


『では、時間もないことですし……条件を飲んでくれたということで』


 その言葉に神凪は首を傾げる。


『え? ちょっ、え……いや、まだ頷いてないというか……』


『それでは〜』


『ちょ、まっ……え〜〜!?』


 目の前が一気に明るくなったかと思うと、神凪は意識の世界から現実へと一気に引き戻される。


「……なんだったんだろう……あれ……じゃなくて!」


 我に返った神凪は、すぐに背中に翼を生やすイメージを集中させた。


 すると、炎と水が左右に分かれて羽ばたく──大きく美しい翼が背中に現れる。


「えぇ……できちゃったよ……ていうか、これで本当に飛べるの?」


 神凪が半信半疑でぼやいていたその瞬間、紫の弾幕が彼女へと迫る。


 咄嗟に体をひねって避けた直後、神凪の体がふわりと宙に浮かぶ。


「すご〜い! 本当に飛んでる〜!」


 そのとき、頼がすぐ隣に並んで飛んできた。


「遅かったな。とりあえず、話はあとにして──やってやろうぜ!」


「うん!」


 神凪は力強く頷き、翼を羽ばたかせる。

 次の瞬間、彼女は禍津日神(まがつひのかみ)へ向け、鳥の形をした炎の弾幕を解き放った。


 禍津日神(まがつひのかみ)は弾幕を避けようと身を翻したが、それはまるで鳥のように滑らかな軌道を描きながら、なおも彼を追いかけてくる。


「フッ」


 禍津日神(まがつひのかみ)は手のひらから刀型のオーラを生み出し、その刃で弾幕を斬り刻み、霧散させた。


 だが、隙を与えぬよう水と風による竜巻が巻き起こり、禍津日神(まがつひのかみ)の体を風が翻弄する。


 一方その頃、ヴェネは自室で椅子に腰かけ、扉の前に立つ実狡と対面していた。実狡の表情には、どこか不穏な色が浮かんでいる。


「以前、ヴェネさんは“神の強さ”の根本的な部分について話してくれましたよね」


 その問いに、ヴェネは「あぁ〜」と、思い出したような声を漏らす。


「たしか、神道と他の宗教における神の違い――みたいな話だったよね」


 実狡は小さく頷き、続けた。


「それと、さっき禍津日神(まがつひのかみ)についての説明もしてくれました」


 すると、ヴェネが唐突に手をパチンと打ち、笑顔で実狡を指差す。


「そうだね、それじゃあ“復習”の時間だ! さっきのことも含めて説明してごらん」


 実狡はため息を一つつき、淡々と語り出す。


「まず前者から説明します」


 ――基本的に、多くの宗教では“神”とは唯一絶対の存在であり、個々の神に対して信仰が集中することで力を得ていく。キリスト教も、イスラム教も、ヒンドゥー教も……仏教も、神ではなく仏像に信仰の対象が移っただけで、根本は似ている。


 だが、神道は例外だった。


 八百万の神々がいる。それが神道。

 その数多の神々の中では、当然のように知名度がほぼゼロの存在も出てくる。


 そんなとき、神道の神々はどうしたのか――。


「“自分が司るもの”に関わる、考える、使う。それだけで信仰の対象として成立する」


 実狡の言葉に合わせるように、ヴェネは指を鳴らしながら彼を指差す。


「大正解。それじゃあ次の問題。禍津日神(まがつひのかみ)って、神として強い? それとも弱い?」


 実狡は首をかしげながら答える。


「え? 強くないことなんてあるんですか? 災いとか不幸とか、今の世の中に溢れてますよね?」


 ヴェネはその答えに納得したように頷きつつ、少しだけ眉を上げる。


「たしかに、一理あるね。でも、その“不幸の芽”ってやつは、大抵八岐大蛇とか、他の化け物が吸収してるのさ」


「……じゃあ、禍津日神(まがつひのかみ)って、弱いんですか?」


 実狡の問いに、ヴェネは迷いなく頷く。


「ああ、神の中では“弱い”部類だよ。ただし、オーラそのものはトップクラス。だけどね――遠距離戦は壊滅的に苦手なんだ」


 実狡は眉をひそめ、静かに言葉を漏らす。


「……それ、さっき聞きました。だからこの作戦はやめるべきだって言ってるんです。だってアイツの能力って……」


 ――その頃、戦場では。


 水の竜巻から弾き出された禍津日神(まがつひのかみ)がよろめき、体勢を崩した。

 その瞬間を見逃さず、頼は雷の弓矢を素早く構え、矢を引き絞る。


「これで気絶してろ!」


 矢を放つと、それは雷光のごとく一直線に禍津日神(まがつひのかみ)を目指して飛ぶ。

 が――ギリギリでそれを回避する。


 だが、避けた先に、一人の影が彼の瞳に映る。


「これで……おしまいじゃああああ!」


 そこには、水の流れを拳に集めた神凪が――

 その拳を、勢いよく禍津日神(まがつひのかみ)の顔面めがけて叩き込もうとする姿があった。


 そして、場面は再びヴェネと実狡へ。


「触れた相手の“細かな運”を悪くする。それが禍津日神(まがつひのかみ)の能力……単純だけど、実に厄介なんですから」

投稿、長らくお待たせしてしまい本当に申し訳ありませんでしたm(__)m どうか言い訳をさせてください…とても忙しかっんです…新しいあれやこれやをしていたらと言った感じで書く時間が取れなくて…それに私の作品の1話長いので……エタったわけではないので安心してください!ということで、面白ければブックマークや、評価をつけてくださると嬉しいです♪

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