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異能怪奇伝[原]  作者: 卵焼き
【三章:封妖学異変】
30/32

第六話:神<※※+※

  頼は、自分の脳内へと語りかける。


建御雷神(タケミカヅチ)……少しの間、頼む)


  次の瞬間――


  頼はふっと下を向き、そのまま膝から崩れ落ちる。


「……頼……さん……?」


  芽衣は驚き、素早く頼の肩に手を回した。


「どうしたんですか!? いきなり!」


  戸惑いながら声を上げる芽衣。


  だが――


  頼は片手で頭を押さえ、ゆっくりと立ち上がると、静かに一言。


「あぁ……もう大丈夫。肩、ありがとね」


  その言葉を聞いた瞬間、芽衣は直感的に察する。


(この感じ……いつもの頼さんじゃない)


  頼はスラリと肩から芽衣の腕をどかし、彼女の顔を見つめた。


  そして――


「頼さん」


  芽衣は、一息つきながら言葉を紡ぐ。


  ――“あの二人を止めてくれ”


  そう言おうとした、その瞬間。


  頼はふっと微笑み、芽衣の肩をポンと優しく叩いた。


「言わなくても分かってる。君は、ゆっくり休んでて」


「……え?」


  頼の言葉に、思わず疑問の声を漏らす芽衣。


  だが――


  その一言だけで、彼女の心の奥深くに確信が刻まれる。


  ――“この人は、信頼できる”


  頼はふと視線を上げ、激しく戦いを繰り広げる二人を見上げる。


「いや〜、派手にやってるねぇ。でも、たかがこれだけで命を賭けるなんて……馬鹿だなぁ」


  そう呟きながら、頼は手のひらに小さな雷を発生させる。


  そして、それを握りしめると――


「でも、今回は特別――初回限定」


  握った雷をもう片方の手でつまみ、ぐいっと引き伸ばす。

 そして瞬く間に、雷の弓が形成される。


「助けて――」


  頼は、すでに作り出されていた雷の矢を弓にセットし、引き絞る。


「――あげる!」


  指を放つと、雷の矢は一直線に飛び――


  戦っていた神凪と步野宮の間へと飛んでいく。


「ん?」

「ナ!? 」


  次の瞬間――


  二人の間で雷が炸裂する。


「ギャァァァァァァ!!」


  頼は雷の弓をスッと消し、軽く息を吐く。


「ふぅ……」


  そんな彼の様子を見ていた芽衣は、唖然としながらポツリと呟く。


「え〜……」


  雷の爆発は、そこら辺の爆弾よりも遥かに強い威力を持っていた。


(あんな威力の矢を放つなんて……)


  芽衣が唖然としていると、上空から、一人の人影が落ちてくる。


「え? うえぇ!?」


  芽衣は慌てて、その落下してくる人物をキャッチする。


「意外と重たいです!」


  腕の中に収まった人物の顔を確認すると――

  そこには気絶し、ぐったりと伸びている步野宮の姿があった。


「あれ!? 神凪さんは!?」


  芽衣は步野宮をそっと地面に寝かせ、すぐに周囲を見渡し始める。


「どこですか!? 神凪さん!」


  すると、上空から再び人影が降りてくる。


「はぁ〜……せっかく久しぶりに思う存分遊べると思っていたのに。なぜ邪魔をした」


  ゆっくりと着地したのは――神凪だった。


「神凪さん! 大丈夫だったんですか!?」


  芽衣は安堵の表情を浮かべ、急いで駆け寄る。


  だが――


  神凪はそんな芽衣を颯爽とスルーし、まっすぐ頼へと歩み寄る。


  次の瞬間―― 勢いよく頼の胸ぐらを掴むと、そのまま鋭い眼光で睨みつける。


「なぜお前がこのタイミングで顔を出す。今までは何があっても、一度も出てこなかったくせに」


  神凪の怒りに満ちた問いに対し、頼は苦笑しながら軽く肩をすくめる。


「いや〜、やめてくれよ〜。物騒な言い方は。僕はただ、自分の依代を助けようとしただけだよ? 君のような乱暴者とは違ってね」


「チッ……黙れ、それともなんだ?我の一発を喰らわんと正気にならんか?」


  その一言に、手のひらに炎を灯し、今にも殴りかかろうとした――その瞬間。


「あ、あの〜……」


  芽衣が恐る恐る声をかける。


「お二人は……神凪さん達ではないようですが……その、中身はどなたなんでしょうか?」


  その言葉に、神凪と頼がピタリと動きを止め、同時に視線を向ける。


「……あぁ、そういえばこの子は知らなかったね、僕らのこと」


  頼がポツリと呟くと、神凪は大きくため息をつきながら言う。


「はぁ……このままでは埒が明かんな。一旦、依代から離れよう」


  そして、頼へと視線を向けると、冷静に指示を出す。


建御雷神(タケミカヅチ)よ。我は一度、体を依代に返す。その後、我を出すように言え」


  しかし頼はニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。


「え〜? 僕よりも格下の神がぁ〜、この僕にぃ〜、命令するんですかぁ〜?」


  わざとらしく間延びした口調で挑発する頼。


「あぁ!? 何だお前! お前の足りない頭では何の役にも立たんから、天才である我が案を出してやっているのだぞ!」


  カッと目を見開き、神凪が食ってかかる。


  だが頼はさらにニヤニヤと笑いながら、追い討ちをかけるように言った。


「いやいや〜、そのくらい僕でも思いついてましたけど〜? もしかして、さっきの僕の攻撃で頭に異常をきたしちゃったのかな〜?」


「ふざけるな、このクソ神!! もう我慢ならん!!」


  ついにブチ切れた神凪は、頼を指差しながら叫ぶ。


「依代を傷つけまいと思っていたが、もうどうでもいい! 今すぐここで貴様を火炙りに――!!」


  その様子を目の当たりにした芽衣は、(こんなに顔を真っ赤にして怒っている神凪さん、初めて見た……)と困惑する。


  しかし――


  頼はそんな神凪を軽く手で制し、落ち着かせるように言う。


「どうどう〜、落ち着いて〜。冗談だよ、冗談。ほら、さっさと依代の子と交代しなよ」


「ちっ……覚えていろよ、この野郎……!」


  悔しそうに唇を噛みながら、神凪は頼を睨みつける。


  すると次の瞬間、神凪からあの熱を帯びた気配がスッと消え、力なく膝から崩れ落ちた。


「神凪さん!」


  芽衣は慌てて駆け寄ると、すぐさま神凪の体が地面に倒れないよう、しっかりと肩で支える。


  その耳元からは、かすかな寝息が聞こえてきた。


「安心しな、寝てるだけだから」


 頼のその言葉に、芽衣はホッと安堵の息を漏らす。

 すると頼はニコッと笑いながら、ボソッと呟いた。


「さっき話していたのは、神凪ちゃんの異能力――迦具土神(かぐつちのかみ)。母親殺しの乱暴親父さ。それで、僕は建御雷神(たけみかづちのかみ)。カッコいいイケメンお兄さんさ。あとで実際の姿を見れるだろうから、楽しみにしててね⭐︎」


「………は、はぁ……」


 芽衣は、半分疑問、半分”この人、大丈夫かな?“と言わんばかりの表情で頼を見つめる。


「ははは、冗談だよ」


 頼はおどけたように笑うが、そのまま目を閉じる。

 その様子を見ながら、芽衣はふと疑問に思ったことを口にする。


「あの……なぜ先ほど”命を賭ける”なんて言っていたんですか? それに、私が頼む前から内容を把握していたようでしたが……」


 その問いかけに、頼は再びゆっくりと目を開き、微笑みながら答えた。


「あぁ、あれね。前者は、僕と()の間で約束をしているからさ。“僕自身に助けを求めたい時は命を賭けること”ってね。後者は――僕はずっとこの子を通して外を見ていたからだよ」


 その答えに、芽衣は首を傾げる。


「なぜ、そんな約束を……?」


 頼はゆっくりと目を閉じながら、穏やかな口調で答える。


「そうだね……簡単に言えば、“神は代償なしに人間に肩入れできない”から、かな。迦具土神(かぐつちのかみ)は、助けるっていうよりも、気に食わない相手に天罰を下すような感じだから、関係ないみたいだけど」


 そう語ると、頼の体がふらつき始める。


「……それじゃあ……ちゃんと……支えて……あげて……ね……」


 頼の体がぐらりと傾き、芽衣の方へと倒れ込む。


「わっ……!」


 咄嗟に頼の体を抱き留めると、芽衣は優しく地面へと寝かせた。

 そのまま、步野宮の様子を伺おうとした瞬間―


「大丈夫ですか?!」


 かすかに、新校舎の方から声が聞こえてくる。


 その声の方へと目を向けると――


 そこには、こちらへと駆け寄ってくる雪の姿があった。


「あ、雪さん!」


 雪は芽衣の前まで歩み寄ると、倒れている頼と神凪へと目を向けた。


「お〜、何このすごい状況」


 雪のあまりにも軽い態度に、芽衣は首を傾げる。


「あれ? 雪さん、以前お会いした時とかなり雰囲気が違いますね。態度というか、話し方というか……」


 そう言うと、雪は苦笑しながら神凪の方へ歩き出す。


「いや〜、あの時は仕事というか、取引だったし。でも今は勤務外だからさ」

「な、なるほど……」


 芽衣が納得したように頷くと、雪は神凪の前で立ち止まった。

 そして、自分の指を犬歯で傷つけると、赤い血がゆっくりと流れ出す。

 だが、その血は普通に滴り落ちるのではなく、不規則な動きをしながら空中で円を描き始めた。


 神凪の顔の前にその血をかざした瞬間——


 「うーん……もう食べられないよ〜……は!?」


 神凪は突然、ガバッと上半身を起こす。


「ここはどこ!? 私は誰!?」

「何言ってるんですか?」


 芽衣が呆れ顔でツッコミを入れると、雪はそのまま頼の方へと歩いていく。

 そして、先ほどと同じように血をかざした。


 次の瞬間——


「う……す、すごい嫌な感じがする……」


 頼が頭を抱えながら、ゆっくりと目を開ける。

 それを見た芽衣が、雪に尋ねた。


「えっと……今のは一体何をしたんですか?」


 雪は、傷口から血が引いていくのを確認しながら軽く肩をすくめる。


「さっきの? あー、この血? これね」


 そう言って、雪はニコッと笑った。


「この血に、私たち妖や化け物が持つオーラを纏わせて、眠りから引き戻したの」

「え? それって大丈夫なんですか?」


 芽衣が心配そうに尋ねると、雪は軽く手を振って答える。


「大丈夫、大丈夫! ちょっとした悪夢を見るくらいだから」


(いや、それって”大丈夫”なの……?)


 芽衣がそう思いながらも突っ込むのをやめていると、頼が何かに気づいたように目を丸くした。


「……あれ? なんで俺、生きて……」


 頼の疑問に、芽衣は先ほど起こった出来事を詳しく説明し始める。

 そんな様子を、雪はふぅっと息を吐きながら眺めると、スマホを取り出し耳に当てた。


「答え、分かった」


 電話の向こうから聞こえてきたのは、ヴェネの声だった。


『お、すごいじゃん。それで? 君の導き出した答えは如何に?』


 ヴェネの軽い口調に、雪は淡々と答える。


「ヴェネが私に助けを出させなかったのは、異能力と神の動向を見るため……じゃない?」

『惜しい、70点。ちなみに、なんでそう思ったの?』


 “惜しいのか?“と思いつつも、雪は自分の考察を語り始めた。

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