【コミカライズ決定!】逆行したからには必ずあなたに復讐します
「なぜ? 君が邪魔だからだよ」
お腹が少し膨らんでいる側妃の腰に手を回し、緩やかに微笑む国王陛下。
金色の長い髪を邪魔そうに掻き上げる姿は、いつも通り。
邪魔なら切りなさいよと言っても、見目麗しい顔をクシャリと歪ませて「この顔と髪型で人気を取っているんだよ。そうそう変えられない」と不貞腐れるあなたが好きだった。
夫婦となって、何年が経ったのか。『妊娠しない』というだけで、斬首刑になるなんて思ってもいなかった。
そもそも、不妊でもいい側にいてくれと言ったのは国王陛下だったのに。
いつの間にか議会で側妃を娶ることが決定され、選び出されたのは、まだ十八歳である議長の孫娘。ほんの数ヵ月で妊娠し、国民たちは大喜び。国王陛下はうら若い娘にのめり込み、私のもとに来ることはほぼなくなり、顔見せの公務は側妃である彼女と出ていた。
王城内は国王の子を迎える準備でてんやわんやしていたが、私は割り振られた書類や政策の確認のために、私室で執務するだけ。
そんな日々に慣れてきたころ、近衛騎士たちが私室に押しかけて来て、捕縛された。理由は国王の子どもを故意に妊娠しないようにしていたから。国家反逆罪なのだという。
男女ともに妊娠しにくい者もいる、双方検査すべきだと言っていた侍医は、既に処刑されているらしい。
あぁ、そうか。
邪魔で切り捨てられるのは、髪じゃなくて私だったのね――――。
「どうか、私と結婚してほしい」
「………………は? え?」
頬を薄桃に染めた国王陛下が、目の前で芝生に片膝をついて、こちらに右手を伸ばしてきた。
あたりを見回すと、どうやら王城の中庭のようだった。春の彩り豊かな花々が咲き乱れている。
ついさっきまで、処刑場の断頭台にいたのに、だ。
真冬の薄暗い空の下で、地面に跪かされ、木の板で首を柱の間に固定されていた。
誇らしかったチョコレート色の豊かな髪を、斬首しやすいようにとバッサリと切り取られた。
「何が『正義の柱』か! 子を生せないというだけでなぜ罪になる。この国の、国王の言う正義は、いったいどこにある!?」
そう叫んでいたのに…………。
今は春。
首を切り落とされ、走馬灯を見ているのだろうかと思った。
二十歳の誕生日に中庭に呼び出され、プロポーズされたこの日が、私にとって幸せのスタートだったから。
地獄へのカウントダウンでもあったのだろうけれど。
「セラフィーナ?」
「……え?」
「受け取ってくれるかい?」
空色の瞳を揺らし、不安そうな顔で私を見上げる国王陛下。あの日、この人はこんな顔をしていたかしら?
記憶の中の国王陛下は、自信に満ち溢れた顔をしていた。
なぜ記憶と違う? 私の願望が反映されているとか? もっと寄り添い合えていれば、こんなことにならなかったのかも、という後悔は……なくはない。それが見せている幻覚か夢か。
「セラフィーナ……もしかして、嫌?」
眉間にぐっと皺を寄せた国王陛下。それは怒りではなく、絶望の表情だった。
ここでやっと、これはもしかしたら現実に起きていることなのかもしれないと思い始めた。なにかの拍子に時空を渡った? そんな馬鹿な……と思うものの、走馬灯や夢とは思えない事実味がある。
肌に感じる柔らかな風、指に伝わるドレスの質感、春の甘い香り。目の前の国王陛下のあまりにもリアルな表情。
もしこの流れで断ったのなら、私は自由になれるのかも。でも、断ったことによって、我が家は窮地に追い込まれる。なぜならば、これは、王族の命令と同意義なのだから。既に王族と両親の間で話がついていて行われる、公式のプロポーズなのだ。
この数週間前に、国王陛下自身から私にも確認がされていたのだから。
「っ……いえ、国王陛下のお言葉があまりにも嬉しくて、息が詰まっておりました」
たどたどしくそう答えると、陛下は困惑したような表情になった。
「…………国王? セラフィーナ? 熱でもあるのかい?」
「いえ、すこぶる元気ですが」
「私が国王になるのはまだ随分と先なのだが。そもそも、そういった考え自体が父に不敬だが。もしかして――――」
しまった。そうだ、この時はまだ王太子殿下だった。
この国では王太子となり、妻を娶り、子を成してから、国王の資格を得る。そして、当代の国王が譲っていいと判断して代替わりが成立する。
例外としては、それ以前に国王が何かしらの理由により執務を続けられなくなった場合、その時点の王太子が国王となる。まぁ、重病や死去くらいだけど。
目の前にいるクラウス――王太子殿下もその例外に当たる。この翌年に彼の父である国王陛下が急な病に倒れ、帰らぬ人となった。
「申し訳ございません。『私とともに国王陛下になりたいというお言葉が嬉しくて』ですね。感動と混乱のあまり、言葉選びが上手く出来ませんでした」
「こん、らん?」
「お気にされず。お立ちになって」
「え、あ、あぁ」
明らかに誤魔化せてはいないものの、たしかプロポーズの前の言葉はあれだったはずだ。引用しようとして失敗したのだという雰囲気だけ伝われば、この人は他人の心の機微など気にしないだろう。
そう。本当に他人を気にしない人なのだ。
自分の人気や国民の動向は気にするが、仕えている者たちは、自分の思惑通りに動いてくれるものだと思っている。
それはそれでいい。仕えている者は、彼を支えるために配置されているのだから。
ただ、簡単に切り捨てすぎなのだ。徐々に思い出してくる、彼にとっては些細な日々の出来事。何度進言しただろうか。
『確かにミスはしましたが、お茶を零しただけでしょう? 解雇は考え直してくださいませ』
『望んだ結果を出せないなら要らないなど、本人に伝えれば、軋轢を生みます』
『確かに大切な政策でしょうが、事前に打診をせねば議員たちが慌てるのも無理はありませんよ』
あぁ、もしかしたら、そういった小言のような進言が煩わしかったのかもしれない。
確かに私は国王陛下を愛していた。ともに歩みたいと言われ、真剣に政治を学んだ。国を護り栄えさせる彼の手助けをしたかった。
でも、彼は彼の子を産む道具が欲しかっただけなのかもしれない。産めないからと馘首されたのだから。
そっと首の後ろに触れる。誇らしかった柔らかに波打った髪は未だある。首筋に触れた冷たい金属の感覚はあるものの、首は繋がっている。
沸々と湯が煮えたぎるように、怒りが湧き上がってきた。
目の前に立つ、見目麗しく自信に満ち溢れたクラウス。この男のせいで、私は死んだ。あれは夢でもなんでもない、事実だ。なぜならば、それまでの記憶がしっかりと私の中にあるからだ。
両親は、私の死後に爵位を抹消され下町に放り出されるだろう。そして、その数日後には裏通りで強盗に遭った夫婦の遺体が発見される。
こういう場合の放逐は、陰で抹殺されるのがオチだから。
なぜ死ぬ必要があった? なぜ殺されなければならない? なぜ誰も可怪しいと言わない? なぜ、なぜ、なぜ。内に渦巻く怒りは膨れ上がり、元凶であるクラウスに向かう。
……この男に、復讐がしたい。
なんの因果か、原因はわからないが、時空を渡った。遡り? 逆行とでも言うのかしらね?
丁度いい。一度は失ったこの命、好き勝手に使わせてもらおう。
必ず、復讐してみせる――――と思ったのよね。
◇◇◇◇◇
なぜ、こうなっているの。
記憶と違いすぎる。
プロポーズの日は、そのまま現国王陛下の執務室へと向かい、婚約証書にサインをしたはすだ。なのに、執務室には向かわなかった。庭園のガゼボで二人寄り添って座っている。手を繋いで。
さっき復讐すると誓った相手と。
「セラフィーナ、手が震えている」
「緊張からですわ」
「本当に?」
嘘ではない。腹の奥底から溢れ出てしまっている怒りに気付かれやしないかと、緊張している。
「君は、いつも本心を隠す」
「え?」
睨むように空色の瞳を細め、こちらをじっと見てきている。クラウスは聡い人だ。特に嘘や誤魔化し、悪意には敏感で、直ぐに気付いて言い当ててしまう。
だからこそ嘘は言えないし、言いたくない。
「何でもかんでも、本心を話せばいいというものでもないでしょう?」
「それはそうだが……いや、いい。それよりも、今後の話をしよう」
クシャリと髪をかき混ぜながら、なにか言いたそうにしつつも諦めた様子のクラウス。何を考えているのか、わからない。
この人は、こんなにも言葉を迷う人だっただろうか? いつも自信に満ち溢れ、ズバリとものを言い、自分の下す決定は絶対の人だった。
「結婚するにあたって、契約をしたい」
――――契約?
婚前契約は当たり前であり、王族の場合はすでに諸々が組み込まれたひな形が存在する。私たちは特に付け足すこともなく、そのひな形のものに婚約証書と一緒にサインをする予定のはずだ。
「契約、ですか?」
「あぁ。君の不利になることではない。ただ、何があろうと側妃を娶らない。もし妊娠しなくとも、誰にも君を責めさせない。子を授かれなかった場合は養子を取る。というだけだ」
「…………は?」
クラウスの言っている意味がわからない。なぜ急にそんなことを? 悔やんで――――いや違う、このクラウスは知らないはずだ。それなのに、なぜ不妊や側妃の話を? 養子を迎えることを前提としている? これは、私がこうありたかったという希望から見ている長い長い夢?
「急に何を言っているのかと不安になるだろう。ただ、私を信じてほしい。君との未来のために、必要なんだ」
――――私との未来?
クラウスが繋いだ手を持ち上げると、手の甲にキスを落とした。上目遣いで懇願するように「どうか」と言われて、背筋がゾワリとした。
慌てて手を振りほどき、ガゼボのベンチから立ち上がり後退り。
この人は誰? 私は知らない。こんな人、知らない!
「クラウスはそんなこと言わない! 貴方、誰なの!?」
「セラフィーナ……もしかして…………君なのか?」
君なのかと問われても、私は元からセラフィーナだ。ただ、未来といえばいいのか、不幸な終わりを迎えた記憶があるだけで。
「セラ……フィーナ。フィー」
クラウスの瞳から透明な雫がぼたりと落ちた。
――――涙?
ガゼボからゆっくりと腰を上げ、こちらに手を伸ばしながら近づいて来るクラウスの顔があまりにもくしゃくしゃになっていて、心臓が締め付けられた。
なんでそんなに泣いているの? なんでそんなに縋るような表情なの? なんで、そんなに愛おしそうに私の名前を呼ぶの?
「お願いだ。君だと言ってくれ……奇跡が、起きたと、言ってくれ…………フィー……頼む………………」
「っ――――」
もしかして? クラウスも逆行して来ている、なんてことあるんだろうか? あの、クラウスが? 私を邪魔だと言った、クラウスが?
「私は……私よ。私のままよ。奇跡ってなに? 貴方に処刑されたのに、生きてること? 貴方に裏切られた記憶を持ったまま、過去に戻ってきてしまったこと? ねぇ、奇跡って、誰にとって?」
「フィー」
「愛称で呼ばないで。貴方も記憶があるのね? それなら、話が早いわ。婚約はなかったことにしてちょうだい。私は一人で生きていくわ」
もう、あんな思いはしたくない。心から愛していた人に捨てられ殺される未来なんて、もう嫌よ。
「っ! セラフィーナ、待ってくれ! 話を、話を聞いて…………いや、聞きたくないよな? 罵詈雑言でいい。君の話を聞かせてくれないか? 頼むっ」
中庭を立ち去ろうとしたが、クラウスに手首を掴まれ懇願された。話を聞きたいと。私も言いたいことがいっぱいあった。言いたくても言えなかったことが、たくさん。
「…………いいわ。誰もいないところでなら」
「ん」
中庭は、人払いをしているとはいえ、人目はある。声が聞こえない範囲まで下がっているだけだから。
クラウスの私室に来た。
王太子時代の部屋なので、感覚的には数年ぶりだけど、初めて訪れたような気にもなっている。
それは、部屋の装飾が大きく変わっているせいかもしれない。前は良くも悪くも国王だといった煌びやかな部屋だった。だが今は、とてもシンプルでいて落ち着いた色合いになっている。
部屋を軽く見回していて、異質なものを発見してしまった。
何故か私の姿絵が壁に飾られている。そこまで大きくはないが、パッと見で私とわかる程度の大きさはある。
しかも、王妃になって数年経った頃のような見た目の。クラウスが側妃を迎える少し前の、愛し合っていると思っていたあの頃によく着ていたドレスと髪型の、私の絵。
「なにあれ……」
「自分で資金を動かせるようになって、直ぐに描かせた」
資金を動かせるようになって、って……え?
「クラウスはいつから思い出してたの?」
「産まれた時からだ」
産まれたときから!?
「セラフィーナは、さっきだろう?」
「…………なんでそう思うの?」
「ずっと、フィーを見てきたから。ずっと、君との出逢いを、思い出をなぞって生きて来ていたから」
初めは、幼少期から囲おうと思っていたらしい。でも、流れを変えたら、あの頃のような関係になれないのでは、あの頃の私に逢えないのでは、と思い直したらしい。
「…………気持ち悪いわよ? それに私の話を聞きたいんじゃなかったの?」
「っ、ん。ごめん」
あのクラウスが、シュンとして謝った。
そして、ソファに誘うと、私が座るのを待ってからベッタリと隣に座ってきた。
「近いわ」
「ん」
いつもは逆だった。私がクラウスの近くに座りたがっていた。
「罵詈雑言で良いのよね?」
「ああ」
クラウスが覚悟を決めたように頷いたけど、私の手をギュッと握ってくるし、その手は震えているしで、本当にあのクラウスなのか怪しくなってきた。
「気持ち悪いから、手を離して」
「っ……気持ち悪い………………ん」
泣きそうな顔で手を解放された。
なんだろう、しおらしいクラウスを虐めるのってちょっとゾクゾクする。あと、いつ本性を現すのかなって、思いもある。
きっと今だけだ。ボロクソに言われたら、きっといつもの居丈高なクラウスに戻るはず――――。
「貴方に裏切られ殺されたのに、貴方に触れられて平気だと? また、貴方を愛せると思うの?」
「ん……」
「貴方の言う通り、思い出したのはさっきよ。思い出したというか、過去に戻ってきたみたいね?」
私の記憶はどこまであるのかと聞かれて、首の後ろがジクリと疼いた。そっと撫でて髪があること、首が繋がっていることを確認する。
「処刑場よ。冷たい刃が首に当たって、肉が断ち切られるその瞬間まであるわ」
「っ! あ…………」
「なんで、クラウスが泣くのよ!」
クラウスの瞳からぼたぼたと涙が流れ落ちていく。まるで私の処刑を後悔しているように、まるで愛しい人を亡くした時のように。
「貴方はっ、あの側妃と子どもと幸せに暮らしたんじゃないの!? そうだと言ってよ! 貴方が幸せになるために、私が邪魔だったから殺したんでしょう!?」
そうじゃないのなら、なぜ死ぬ必要があったの。離縁して、実家に戻すなり、辺境に送るなりでも良かったじゃない。
そうしてくれれば、愛した人をこんなにも恨まずに済んだのに。
「っ…………私は……赤ん坊が生まれて、直ぐに毒殺された」
「は?」
「言い訳になるが、ヒルダにいいように操られていた」
ヒルダ――側妃に、クラウスが殺された? なんで?
「子どもは私の子どもではなかった」
「え?」
「王族は、金髪碧眼しか産まれないんだ。なのに赤ん坊は赤髪で緑の瞳だった」
側妃のヒルダは赤髪で金色の瞳だった。というか、王族は金髪碧眼しか産まれないってどういうこと? 確かにクラウスの父王も金髪碧眼ではあったけれど。
情報が多すぎる。
「ちょっ……ちょっと待って、でもたまには色が違うことも……」
「ない。思い出せ、王族の顔ぶれを」
「あ……」
全員が、金髪碧眼だった。髪質違いなどはあるものの思い出す面々はみんな、一様に同じ色。
「配偶者たちが違う色になることが多いから、上手いこと誤魔化されているがな。はるか昔から、金髪碧眼なんだよ」
クラウスいわく、それでも万に一つの可能性を考慮し、秘密裏に侍医の検査を受けたらしい。そうしてわかったのは、クラウス自身に生殖能力が限りなく無いこと。原因は、十代の頃に出した高熱の可能性が高いらしい。
「フィーを苦しめていたのは私だ。謝って済むものではないが…………すまない」
今世では風邪など一切引かないようにしていたとかなんとか、頬を染めて早口小声で言っていたけれど、聞こえなかったことにした。
「で?」
「あ、うん」
生殖能力の方は隠し、赤ん坊の髪と目の色のことをヒルダに問い詰めたら懇願されたらしい。議会で側妃に決まる前の恋人との間の子だった、裏切るつもりはなかった、どうか殺さないでと。
「議会で君の処刑が決まったとき、ヒルダもその場にいた。彼女はそれを見ていたから、処分されると恐れたのだと思った。だから…………っ」
「黙ってあげることにしたのね。彼女のことを愛してたの?」
「わからないんだ」
義務として夜に部屋を訪れるとのめり込んではいたが、朝や日中になるとなんとも思わなかったそう。催淫効果のある香などを使われている可能性も考えたが、それらしいものは見つからなかったらしい。
だが、日が経つにつれ、日中もヒルダにのめり込んだり、ぼーっとなる時が増えたのだという。
確かにあの頃のクラウスは執務が滞りがちだった。それが私に回ってきていたけれど、いい時間つぶしになっていたから、特に気にしていなかった。
「ずっと盛られ続けていたのね」
「だろうな。さすがに不貞の子を王子として据えるわけにはいかないからヒルダと話し合おうとしていたら……吐血して床に倒れた。それを見たヒルダが高笑いしていたよ。私の死後はヒルダの父親がこの国の王になると言ってな。地獄でセラフィーナが待っているぞと。私が、この手で殺した、妻が…………」
クラウスが両膝に肘を乗せ、俯き加減に手のひらを見ていた。
「フィーの遺体は罪人として火葬した。だから地獄にいるだろうと言われたよ。私のせいでなんの罪もない君の魂は汚れたのだと」
「……そう」
地獄ねぇ。
人間ごときの決定で神たちが人の魂を見誤るとも思えないけれど。そもそも神がいるかと問われると、なんともいえないほどに、この国の宗教観念は薄い。天国と地獄くらいはあると思われている程度だ。
「地獄と言えば地獄だったわね。私を殺した男にまた求婚されたのだから」
「っ――――」
「で、そこで死んで赤ん坊まで逆行した、と?」
「ああ」
正直なところ、『ざまぁみろ』という気持ちと、『よく耐えられたな』という気持ちが綯い交ぜだ。赤ん坊の頃から自我があったらしいから、様々な屈辱にも耐えたんじゃないかなと思う。排泄の世話もだけど、ずっと幼児のように扱われるのも、結構に精神に来そうだもの。
「……つい、貴方の話を聞いてしまったわね」
「っ、すまない」
「じゃっ、私は屋敷に帰るわね」
「フィ――――」
「愛称で呼ばないでって言ったわ」
そう言うと、クラウスが泣きそうな顔になり、小さな声で「ごめん」と謝ってきた。
自信満々でいて金髪碧眼の美丈夫を、精神的に追い詰められていることに、嗜虐心が満たされていく。
「セラフィーナ、君を愛している」
クラウスの部屋を出ていこうとしていたら、後ろから声を掛けられた。
「君に非道な行いをした。謝って許されるわけがないのも理解している」
「ふぅん? 諦めるの?」
「…………諦めたくない」
「じゃあ、頑張れば?」
振り返らずに言うと、クラウスの弱々しい声が聞こえた。
「っ――――また結婚してくれるのか?」
「私ね、逆行したからには必ず復讐しようと誓ったのよね。……貴方しだいなんじゃない?」
部屋を出る間際に室内を振り返ると、クラウスが床に膝をつき蹲るようにして嗚咽を漏らしていた。
そっと扉を閉めて、近くにいた騎士にクラウスをそっとしておくよう、もうしばらく一人の時間を作ってやるよう伝えた。
馬場に向かいつつ城内を見て回る。
楽しく悲しく愛おしく憎らしい思い出が溢れ出てくる。王城での生活は、煌びやかなものも陰湿なものもあった。ついさっき処刑されて死んだはずなのに、それでも懐かしいと感じるのだから不思議なものだ。
クラウスとの生活も同じ。色々あったが、いまだに愛は残っている。
もう少し、もう少しだけ復讐したら、許してあげようかな。
あの女には、何が何でも復讐するとして――――。
―― fin ――
読んでいただき、ありがとうございます!
こちらの作品は未知香様(https://mypage.syosetu.com/mypage/profile/userid/2430560/)にタイトルをいただきました!(ほぼ強奪だけど、いただきました!!←)
未知香さん、書籍化やコミカライズ作品がありますが、個人的には『大金を手にした孤独な無自覚天才薬師が、呪われたSランク冒険者に溺愛されるまで』がめちゃくちゃおすすめです! 読んでみてぇ(*´艸`*)むふふ
あ、ブクマや評価などしていただけますと、笛路が小躍りしますヽ(=´▽`=)ノワハーイ!
感想欄閉じます。メンタル死んだ_(꒪ཀ꒪」∠)_
物語くらい好きに書かせてくれ。