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私らしくあるために~カロリーナは愛の歌を歌う~  作者: 香田紗季
4 私らしくあるために

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27/30

27 カエリアンに起きていたこと2

読みに来てくださってありがとうございます。

短めです。

明日の3回(11:50、17:50、20:50)の投稿で終了します。

よろしくお願いいたします。

 カエリアンが気づいた時、すでに海辺ではないどこかにいた。体が軽いが、思い通りに動かない。まるでふわふわと、下位精霊の姿のように……


 はっとした。そして自分を見ようとして、自分が人間の姿をしていないことに気づいた。精霊としての力も全て失ったのだと理解するのに、少しばかり時間が必要だった。


 「隷属の首輪」の拘束からは抜け出すことができた。だが、このままではカロリーナを探すどころか、カロリーナに会えても気づいてもらえない可能性さえある。この状態では人とのコミュニケーションがとれないからだ。せいぜいキラキラ光って、己の存在をアピールするくらいだ。


 どうすればいいんだ。


 カエリアンは頭を抱えようとして、それさえできない自分が悔しかった。


「よう、そんな姿(なり)になったんだ」


 ティブルシオが冷たい目でカエリアンを見ていた。精霊どうしなら上位も下位もなくコミュニケーションをとれる。


「ティブルシオか。ここはどこだ?」

「さあね」

 

 ティブルシオがいつになく素っ気ない。


「リーナはきっとどこかで生きている。だから、探しに行きたいんだ」

「ああ、生きているよ。かわいそうにな」

「どういうことだ?」


 ティブルシオはふいっとそっぽを向いた。


「あの事故からどのくらい時間が経ったか、分かるか?」

「分からない。さっき目覚めたばかりだ」

「半年だよ」

「は? 半年?」

「ま、お前がそこまで弱っていたって証拠になるんだろうけどさ」

「リーナは」

「ん?」

「リーナを探さないと」

「あの子を追いかけるのか?」

「約束したんだ、ずっとそばにいるって、1人にしないって!」

「だが、お前は精霊術師に無様に捕まった。そして、あの子が『海神の審判』という名の偽の裁判に掛けられ、崖から突き落とされるのを見ていることしかできなかった」

「そうだ。俺は油断していた。リーナを守れなかった。だが、あの事故の時、確かにリーナの声が聞こえたんだ。澄んだ美しい声ではなかったが、あれはリーナの声だ」

「そうだよ。お前があの女とキスするのを見て、暴走したんだよ、あの子は」


 あの声はやはりカロリーナの声だったのか、とカエリアンは泣きたい気持ちになった。深い絶望が練り込まれたあんな声を出させた原因が自分だと言うことが許せなかった。自分が望んだことではない。無理矢理キスされ続けたカエリアンだって、心に傷をたくさん負っている。「隷属の首輪」さえなければ、精霊術師に捕まらなければと、過去を恨む気持ちばかりが沸き起こる。


「今、リーナはどこに?」

「分からない」

「分からないって?」

「ボクがあまり北に行けないのは知っているだろう? 凍ったら足止めされるからね。あの子は北に行ってしまったらしくて、追えないんだ」

「どうしてそんな所へ?」

「いいか、よく聞け!」


 ティブルシオは突然、光の玉に過ぎないカエリアンを握りつぶす勢いで掴んだ。


「あの子はな、ショックで暴走して、意図せずにセイレーンの神の歌の声を使ってしまった。お前の破壊の力と、セイレーンの声の力、それにあの子の悲痛な思いが混じり合って、ボクも含めて近くにいた精霊がみんな引きずられて局地的な嵐が起こし、船が壊れて沈没するなんていう恐ろしいことになった。セイレーンの声を使ってしまったあの子は『海の裁き』を受けた! それで! 老婆のような白髪になった! 瞳の色も失って、完全に失明した! あの子はそれでもお前を探しているんだ! 見えない目で! それがどんなに大変なことか、お前に分かるかっ?!」


 信じられなかった。リーナが失明した? 俺を探してさまよっている?


 理解できた時には、カエリアンの気持ちは決まっていた。


「リーナを探しに行く」

「どうやって?」

「音楽から力を得ることはできないだろうが、自然界の音を拾うことはできる」

「お前馬鹿か? どれだけ時間がかかると思っているんだ?」

「一歩ずつでも、リーナのいる場所に向かう」

「どこにいるのかも分からないのに?」

「今どこにいるのかは分からない。だが、リーナが目指している場所なら分かる」


 ティブルシオの、カエリアンを握る力が少しだけ弱くなった。


「リーナは絶対にコルの街へ行く。あそこが俺たちの始まりの場所だからな」


 ティブルシオがカエリアンを離した。


「ボクはトリトンから、リーナを守ってほしいと言われている。海に突き落とされたあの子を保護してくれたのはトリトンなんだ。だけど、今回のことで父君が相当お怒りで、陸の水の精霊にもリーナを助けるなって指示が出ている」

「そう、なのか」

「とはいえ、北に行かれたからそばにいられないし、ボクは常に動いているからあの子に遭遇できるかどうかは運次第だ」

「それでも、1人でもリーナのことを気に掛けてくれる奴がいるのは助かる」

「お前、絶対にたどり着けよ」


 ティブルシオが言った。


「あの子は、ボクが好きになれた、唯一の人間だ」

「そうだろうな、お前が肩入れする人間を、俺は見たことがない」

「ボクが保護したかった。だけど、ボクと一緒にあの子はいられない。トリトンだってそうだ。あの子を深海に連れて行くことはできない。一緒にいられるお前が羨ましい」

「ティブルシオ、約束する。絶対にリーナの元に戻る」

「約束を守れよ、カエリアン」


 カエリアンの旅はこの瞬間から始まった。

読んでくださってありがとうございました。

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