第96話 隠密の極意⁉セルフィの六つの秘技!
メルヴィルの作った昼食を楽しんだ後、午後の講義が始まることとなった。
ステラ、リリカ、セルフィは食後の休憩を終え、講義室に集まっていた。
そこには、なぜかレオンの姿もあった。
レオンは食材運びに便乗して、講義に参加する気でいるらしく、興奮気味に席に着いた。
「僕も勉強したいです!」
と張り切るレオンに、リリカは微笑みながら
「レオンは本当にいつも元気ね」
と言うとステラも
「まあ、勉強熱心なのは悪いことじゃないわ」
と肯定的な表情を見せた。
メルヴィルが提案したのは、セルフィが直々に隠密剣士としての技術「六隠密」を解説し、実際にステラとリリカ、そしてレオンにその技術の内容を教えることだった。
セルフィの隠密技術は、魔法の力と剣技を巧みに組み合わせた高度なものであり、ステラたちのこれからの任務に大いに役立つだろうとメルヴィルは考えていた。
「さて、それでは早速始めましょうか。最初に言っておくと、私とセルフィは風属性、風の魔法師。セルフィ、それではあなたの隠密技術について詳しく教えてちょうだい」
とメルヴィルが言うと、セルフィは少し緊張した面持ちで頷き、立ち上がった。
「はい。では、私の技術『六隠密』について説明しますね」
セルフィは少しだけ深呼吸し、落ち着きを取り戻した。彼女は戦士としての冷静さと隠密剣士としての誇りを胸に、講義を始めた。
「私が使う隠密技術は、主に敵に気づかれずに接近し、情報を収集したり、奇襲攻撃を行うためのものです。これを六つの基本技術に分けて、それぞれを習得しています。まずは、最初の技術から解説していきますね」
「その1. 気配遮断。隠密の基本的な技術は『気配を消す』ことにあります。これは、呼吸や心拍を意図的にコントロールし、周囲の魔力や物理的な気配を一時的に遮断するという高度なスキルです。具体的には、自分の呼吸を一定のリズムで整え、心拍を低下させて身体の振動を最小限に抑えます。この状態では、まるで自分がその場にいないかのように周囲の存在感を完全に消し去ることができるのです」
「魔力を感知する敵にも効果的で、自身の魔力を微弱な状態に保ち、ほとんど検知されないようにすることが可能です。この技術は、奇襲や偵察時に最も重要であり、気づかれずに接近するために欠かせない能力です。」
「その2. 無音歩法。もう一つの重要な技術は、『無音で移動する』ことです。私は特別な歩法を用いて、足音を完全に消すことができます。この技術は、地面との接触面を極限まで柔らかく保ちながら、身体の重心を巧みに使い、どのような地形でも音を立てずに動くことができるようにするものです」
「この無音歩法は、筋肉の使い方や骨格の動きを徹底的に制御することで成り立っています。足を地面に置く瞬間に体重を分散させ、通常は立てるはずの小さな音や振動を吸収する技術を持っているのです。また、これはただ音を消すだけでなく、敏捷に動くことをも可能にしているため、戦闘時に素早く敵に接近し、先制攻撃を仕掛ける際にも非常に有効です」
「その3. 視覚隠蔽。隠密の基本に『見られない』ことがあります。視覚的にも自分を隠すための高度な技術を駆使します。例えば、私は環境の光や影を利用して自分の姿を溶け込ませる技術を持っています。これは『影潜り』と呼ばれる技術で、光の当たり方や物陰を常に意識し、自分の姿を背景に溶け込ませるように動きます」
「さらに、動きが滑らかで無駄がないため、敵の視界に一瞬でも捉えられた場合、すぐに見失わせることができます。これは、体の動きに一切のブレや無駄を作らないため、視線を逸らしたり、気づかれる前にその場を離れることができるからです」
「その4. 感覚強化。隠密行動において重要なのは、敵の動きや周囲の変化を察知することです。私は通常の人間では感知できないほどの微細な変化に気づくための『感覚拡張』の技術を持っています。私は風の流れや湿度、足元の振動などを鋭敏に感じ取ることができ、これにより敵が近づいてくることを察知したり、罠が仕掛けられている場所を見つけることが可能です」
「この感覚強化は、常に自分の周囲に意識を張り巡らせ、五感を極限まで研ぎ澄ませていることによって実現されています。魔力や空気中の微細な魔法の痕跡にも敏感で、相手がどんな魔法を使っているのか、どこから攻撃が来るのかを事前に察知することができるのです」
「その5. 偽装。私の技術の一つに、偽装や変装のスキルがあります。これは、その場の状況や環境に応じて自分の姿をカモフラージュする能力です。たとえば、森林や遺跡などの自然環境では、服装や道具を使って背景に溶け込むように姿を変え、まるでそこにいないかのように見せることができます」
「この技術は、単に物理的な変装だけでなく、動きや態度もその場に合わせて変えることができるため、敵の中に潜入することも可能です。さらに、声色を変えたり、相手の行動や心理を読み取ることで、偽の情報を与えて敵を混乱させることも得意としています」
「その6. 急襲技術。私は、隠密行動中に『急襲』を仕掛ける技術にも長けています。敵に気づかれずに接近し、必要な瞬間に一撃で倒す技術です。この技術は、剣技と隠密の融合によって成り立っています。敵の隙を見つけ、瞬時に攻撃を仕掛けることで、相手が反応する前に行動を終えることができます」
「特に、私の急襲技術はステラ様やリリカ様の魔法によるサポートを受けることで、さらに効果的になると考えます。たとえば、ステラ様の光魔法で一瞬の視界を遮り、その隙に私が急接近して攻撃するなどの連携が可能です」
「これらの技術を駆使することで、敵の目を逃れ、重要な情報を集め、時には致命的な一撃を与えることができるのです」
セルフィは淡々と流暢に説明を終え
「以上です」
と締めくくった。
こうして、セルフィの隠密技術「六隠密」についての講義が終わった。講義室は静寂に包まれ、ステラ、リリカ、レオンの三人は目を点にして固まっていた。セルフィのあまりにすばらしい解説ぶりに、質問する事さえ忘れ聞き入っていた。六光の騎士にして唯一の隠密騎士セルフィ! そのすごさを再認識する三人であった――。




