第92話 新しい家族⁉セルフィの悲しい追憶!
外はまだ夜明け前、雨が静かに降り続いていた。
窓越しに聞こえるその音は、どこか心を穏やかにするものがあり、猫耳ハウスの中はしんと静まり返っていた。
セルフィは、ふと目を覚ました。
「そろそろ朝食の準備をしないと……」
とぼんやりと思いながら、体を動かそうとしたが、次の瞬間、自分の状況に気づき、ハッとした。
両腕には、ステラとリリカの姿があった。
そう、昨夜はこの二人と一緒にベッドに入り、夢のような時間を過ごしていたのだ。
セルフィは思わず、昨日の出来事を振り返りながら、微笑みを浮かべた。
「そうだった……昨日は二人に挟まれて、いろいろされて……そのまま眠っちゃったんだわ……」
セルフィは顔を少し赤くしながら、二人の寝顔をそっと見つめた。
ステラとリリカの無防備な寝顔が、彼女の胸にじんわりと温かさを広げる。
心がふわふわと浮かぶような、言葉にできない幸福感がそこにあった。
「ああ……よかった……本当に、人生で一番幸せな夜だったわ……」
セルフィは自分の心が満ちていくのを感じ、自然と微笑みを浮かべながら、軽くため息をついた。
昨夜の出来事を思い出し、胸がきゅっと締めつけられるような、切なくも暖かい気持ちが込み上げてきた。
正直、これまではステラとリリカの強い絆を羨ましく感じていた。
二人の間には、猫耳同志の深い絆があり、それはとても特別なものだと理解していた。
魔法の力を共に学び、戦い抜いた者同士だからこそ、特別な信頼と愛情がある。
それは、セルフィにとって少し遠い世界のように感じていた。
しかし、昨夜の二人とのふれあいは、彼女の中に少しずつ変化をもたらしていた。
ステラとリリカの愛情に触れ、自分も二人にとって大切な存在になれたような気がしていた。
これまで抱えていた孤独感が、少しずつ癒されていくのを感じたのだ。
「私も……二人にとって、なくてはならない存在になれたのかもしれない……」
そう思うと、自然と胸が温かくなり、涙が浮かび上がってきた。
ステラは、まるでお姉さんのように頼りがいがあり、そしてリリカはまるで妹のように無邪気で可愛ら
しい、そんな二人と過ごす時間は、セルフィにとってかけがえのないものになっていた。
セルフィはそっと目を閉じ、心の中で静かに呟いた。
「ステラ様、リリカ様……出会ってくれて……本当にありがとう……」
セルフィにとって、ステラとリリカはもはや家族同然の存在だった。
彼女には本当の家族はいない、十年前の魔導士との大戦で、両親と二人の妹を失ったのだ。
その時の悲しみは今でも彼女の心に深く刻まれて、家族を失うという痛みは、時間が経っても完全に消
えることはなかった。
セルフィは両親と妹たちのことを思い出すたびに、心が締め付けられるような痛みを感じていた。
大戦の後、ガレット団長の孤児院で育てられ、たくさんの仲間たちと出会ったが、それでも失った家族
のことを思うと、孤独感が心の奥底に漂っていた。
「お姉さんがいたら……こんな感じだったのかしら……」
セルフィはステラの寝顔を見ながら、心の中でそう呟いた、ステラの穏やかで優しい寝顔は、まるで本
当のお姉さんのようで、セルフィはその存在に安心感を覚えた。
もし自分に姉がいたら、ステラのように頼りがいがあり、そして優しい人だったのだろうか。
「ステラ姉さん……」
セルフィは呟いて少し胸が温かくなるのを感じていた。
「もし、私の妹たちが生きていたら、リリカ様と同じくらいの年頃だったのかしら……」
セルフィは、リリカの寝顔を見つめながら、亡くなった妹たちのことを思い出していた。
彼女たちはまだ幼い頃に大戦で命を落としてしまったが、もし生きていたら、リリカのように明るく元
気に育っていたのだろうか。
そんなことを考えると、涙が自然とこぼれ落ちてきた。
「リリカちゃん……」
セルフィは心の中でそっとその名前を呼びながら、リリカの髪を優しく撫でた。
その無邪気で穏やかな寝顔を見つめるたびに、妹たちの姿が重なり、セルフィの心は温かさと切なさで満たされていった。
「お父さん……お母さん……アン……エリー……」
セルフィは、亡くなった家族の名前をひとりひとり呼びながら、心の中でそっと語りかけた。
「私にも……新しい家族ができたよ……ステラ姉さんと、リリカちゃん……二人は本当に大切な存在になってくれたの。今はもう、寂しくないよ……」
セルフィは心の中で今は亡き家族に語りかけながら、涙を拭った。
そして、穏やかな表情で二人を見つめた。ステラとリリカの存在が彼女にやすらぎを与えてくれたのだ。
「本当にありがとう……」
セルフィは再び微笑みを浮かべ、静かにベッドから抜け出した。家族を亡くしてから、思い出しては打ちひしがれる日々は長く続いた。しかし今、彼女にとって猫耳ハウスでの生活は、新しい家族との暮らしそのものでありステラ、リリカとの姉妹のような関係に、彼女の心は幸せな気持ちで満たされていくのだった――。




