第86話 黒騎士の再来⁉ステラ大隊長の采配!
黒騎士の出現から一夜が明け、王宮は徐々に日常を取り戻しつつあったが、どこか張り詰めた空気が残っていた。騎士たちの動きは普段よりも緊張感を帯びており、この国の警戒は一層厳しくなっていた。黒騎士の再来は、平穏に見える日常の裏に大きな脅威が潜んでいることを示唆していたのだ。
その朝、ステラはいつもより早起きし、騎士団本部に向かう準備を整えた。リリカやセルフィも疲れが残っているのか、まだ眠っている。昨日の黒騎士の出現は、今後の王国に対する明確な警告だった。ステラは、黒騎士の復活に備えるための対策を講じることを決意していた。
「まずは騎士団に指示を出して、王宮の防衛を強化しなくては。次に黒騎士が現れた時、即座に対応できるように準備する必要があるわ」
「そして、黒騎士の真相を突き止めることよ」
ステラはそう考えながら、騎士団本部に向かって歩き出した。猫耳ハウスを出ると、清々しい朝の風が彼女の頬をなでたが、今の状況ではその清々しさも心を軽くすることはできなかった。
王宮の騎士団本部に到着すると、すでにガレッド団長とラウル副団長が待機していた。昨夜の襲撃の報告はすでに二人の耳にも入っており、黒騎士の復活について深く懸念しているようだった。
ステラは二人に向けて早速指示を出し、夜間警護の強化を命じた。
「昨夜、黒騎士が再び現れました。リリカたちと一緒に戦った時に確かに倒したはずの相手です。それがなぜ、また私たちの前に姿を現したのかは不明ですが、放っておくわけにはいきません。今後、王宮の警備をさらに強化し、特に夜間の警戒を徹底します。全騎士に対して、夜間警備の体制を再編成してください」
ガレット団長がステラの指示を受け、すぐに頷いた。
「六光の騎士たちに警備強化を命じよう。他の騎士より魔法や剣術に精通しているぶん、黒騎士のような異常な存在に対しても即座に対応できるはずだ」
と力強く宣言した。
ラウル副団長もガレット団長に続き
「分かりました。夜間の警戒体制を強化し、巡回の頻度を増やします。特に王宮周辺と重要な施設は重点的に防衛を固めるようにします」
ステラは二人の報告を聞きながら、昨夜の出来事を思い返していた。あの黒騎士はただの兵士ではなかった。彼らが倒したはずの黒騎士が再び蘇り、まるで分身のように再出現したことに疑問を抱いていた。
「黒騎士が現れた時、その動きや言葉には何か違和感があったのよ」ス
テラが口を開くと、ラウルとガレッドが耳を傾けた。
「彼は私たちにこう言ったの。『まさか見つかるとはな。お前たちが一人の兵隊を倒したぐらいで満足しているとは。だが、我々は何度でも蘇る。王国を滅ぼすために存在しているのだ』って」
ステラの言葉に、部屋の空気が一瞬重くなった。ラウルが静かに口を開く。
「何度でも蘇る、ですか…。それはまるで、彼らがただの兵士ではなく、もっと恐ろしい力に操られているということを示唆しているように感じます」
ガレッド団長も頷き
「彼らが単なる騎士団の敵ではないのは確かです。黒騎士は強力な魔法で具現化され、操られている可能性が高い。彼の言葉が示す通り、背後にいる存在が複数の黒騎士を操り、何度でも送り込んでくることも考えられます」
「確かに、彼の動きや戦い方からも感じたわ。まるで本物の騎士ではなく、魔法によって作り出された分身のような…」
ステラは鋭い目つきで遠くを見つめながら言った。
「リリカが倒した黒騎士が一人の兵隊だなんて、そんなことが本当にあり得るのかしら?」
ステラは首を傾げ、二人に意見を求めた。
ラウルは少し考え込みながら答えた。
「もしその黒騎士が兵隊の一部だとすれば、彼らの数は膨大である可能性が高いです。そして、何度でも蘇ることができるならば、戦力はほぼ無限ということになります。これまでの戦いとは全く違う次元の脅威だということです」
ガレッドも重々しい口調で付け加えた。
「黒騎士が魔法で具現化された存在だとすれば、その背後には非常に強力な魔法使いがいるに違いありません。そして、その魔法使いが何度も彼らを蘇らせて送り込んでくる可能性は十分に考えられます。私たちはその魔法使いの正体を突き止め、黒騎士が復活するメカニズムを破壊する必要があります」
ステラはこの会話を聞きながら、黒騎士が単なる敵ではなく、もっと大きな陰謀の一部であることを確信した。
ステラは考えを整理して言った。
「黒騎士が何度でも蘇るなら、この脅威が一過性のものではないことは明らかだわ」
「私たちはこの新たな脅威に対して、もっと深く調査を進める必要があるわ。黒騎士の復活と、その背後にいる存在の目的を突き止めなければ、王国は危険にさらされ続ける」
ステラの決意が固まった瞬間、彼女は騎士団全体に向けたさらなる指示をラウルとガレッドに与えた。
「まずは、全ての騎士に警戒を強化させ、王宮周辺の巡回を倍に増やします。そして、六光の騎士たちには特別任務として、黒騎士の出現に即座に対応できる体制を整えさせてください。何よりも重要なのは、敵の動きを察知し、事前に対応することです」
「戦闘になる前になるべく私かリリカ副大隊長の到着を待ちなさい!」
ガレッドとラウルはすぐに指示に従い、騎士団全体にステラの命令を伝達する準備を進めた。夜間警護の強化が急務であり、王宮を守るために全ての力を結集させる必要があった。
「ステラ様、私たちは王宮を守るために全力を尽くします。六光の騎士も全て動員し、次なる戦いに備えます」
ガレッドが力強く言い、ラウルも頷いた。
ステラは緊張が少しとけたのか笑顔になって言った。
「ありがとう。王国の未来は私たち全員の手にかかっているわ。皆で力を合わせて、この脅威に立ち向かいましょう」
と言葉を返した。
ステラは二人の協力に感謝しつつ、黒騎士の謎を追求する決意を新たにしていた。彼女たちが今直面しているのは、かつてないほどに強力で、しかも再び蘇る敵。これまで以上に困難な戦いが待ち受けている。
黒騎士の背後にいる者は誰なのか? その目的は何なのか? 王国を滅ぼすために何を企んでいるのか?
黒騎士の再来が王宮に新たな脅威をもたらし、ステラは王宮の防衛を強化するだけでは不十分であることを理解していた。彼女たちが直面している脅威は、単なる戦術的なものではなく、もっと深い陰謀が絡んでいる事を彼女は察知していたのだった――。




