第74話 ステラの妄想⁉ メルヴィルの絶品手料理！
メルヴィルが手を叩いて訓練終了を告げると、リリカは膝に手をついて大きく息を吐いた。
「本日の訓練はここまでよ。お疲れ様、リリカ。今日は頑張ったわね、光魔法の持続力がかなり上がっているわ」
「うん…ありがとう、メルヴィルさん…」
リリカは汗だくで、その顔は緊張の連続からか、少し青白かった。ステラとセルフィがリリカに近づき、心配そうに彼女の様子を見守る。
「リリカ、汗びっしょりね。お風呂につかってさっぱりしなさい」
とメルヴィルはにこやかに声をかけた。
「今日の昼食は私が作るわ。ステラはリリカに付き添って、セルフィは準備を手伝ってくれる？」
「わーい！メルヴィルさんの手料理だ！」
リリカは少し元気を取り戻したかのように笑みを浮かべたが、そのままふらふらと浴室の方へ向かう。
「リリカ！わたしも一緒に！」と、ステラはリリカに続いて浴室へ。
リリカが先に浴室に入ると、ステラも後から追いかけ、彼女の背中に手を伸ばした。
「リリカ、背中流してあげるね」
「ありがとう…ステラ…でも、なんかちょっと恥ずかしいけど、まぁ、いいか」
リリカは照れ笑いを浮かべながらも、ステラに体を預けた。
そしてステラの妄想タイムが始まる。
ステラは、リリカの黒髪に見惚れていた。
「なんて美しい黒髪なの…ツヤツヤしていて…まるで絹のよう」
リリカの背中に触れるたび、ステラの心は高鳴り、妄想はますます広がっていく。
「小さな背中…なんて華奢で可愛いんだろう。黒い産毛が生えた猫耳…完璧じゃない！ツヤツヤしてて、もう最高！」
ステラは自分を抑えようとしながらも、リリカの姿に惹かれずにはいられなかった。
「そして極めつけは…この黒い尻尾…長くて、しなやかで、…可愛すぎる…！」
ステラはリリカの背中をゆっくりと撫でながら、頭の中でリリカへの想いをかみしめていた。
「もう後ろからぎゅっと抱きしめたい…でも、リリカに嫌われたらどうしよう…でも、待って…もしかして、リリカの方から『もうステラったら！』って抱きしめてくれるかも…？」
ステラの妄想は暴走し始め、彼女の心臓はドキドキと高鳴っていた。
「いやだわ、どうしましょう？こんな気持ちを持ってリリカに接していたら、いつかバレてしまうかもしれないわ…」
ステラは心の中で葛藤していたが、そんな妄想の最中、背後から声がかかった。
「お湯かげんはいかがですか？」セルフィが浴室の扉をノックして声をかけた。
その瞬間、ステラは現実に引き戻された。
「あ…セルフィ、ありがとう。お湯はちょうどいいわよ」
と慌てて返事をし、リリカの背中を流す手を再び動かした。
そのとき、リリカが突然ふらりとステラに寄りかかってきた。
「どうしたの、リリカ？」
リリカは目を半分閉じたまま、ぼんやりとした声で
「うん…なんかもう疲れて…眠い…」
と言いながら、ステラの体にしっかりと寄り添ってきた。
「もうリリカったら…」
ステラは微笑みながらも、リリカの眠そうな姿に心をときめかせてしまった。
リリカの小さな体が自分に寄りかかっているのを感じながら、ステラは
「リリカ、可愛い…」
と小さく呟き、彼女の猫耳をおもわずそっと撫でてしまう。
「ん…にゃ…」
リリカは半分寝ぼけているのか、ステラに甘えるようにくすぐったそうに猫耳を動かした。
「もう…我慢できないわ…」
ステラは心の中で叫びながら、リリカをそっと後ろから抱きしめた。リリカの猫耳やしっぽの感触を楽しむように、ステラは優しく体を寄せていった。
「なんて柔らかくて、あったかいの…」
ステラはリリカの背中に頬を寄せながら、心の中でリリカを抱きしめる幸せを感じていた。
リリカはぐっすりと眠りに落ちそうな勢いで、ステラに寄りかかっていた。
「ステラ……」
「リリカ、もう少し休んでていいわよ」
とステラは優しく囁きながら、リリカをしっかりと抱きしめ続けた。そんな姿を見て、セルフィが再び声をかけてきた。
「ステラ様、リリカ様。昼食の準備がもうすぐ整いますよ」
「ありがとう、セルフィ。リリカがちょっと疲れて寝ちゃいそうなの…」
とステラは答えながら、リリカの寝顔に癒されていた。
セルフィはそんな二人の姿を見て微笑み、静かに扉を閉めた。
「…なんか…すごくいいものを見てしまったわ…」
セルフィの目には全裸で抱き合うステラとセルフィの姿が焼き付いていた。
ステラはリリカを抱きしめたまま、彼女が完全に寝てしまわないよう、そっと耳元で囁きかけた。
「リリカ、起きなさい。昼食の時間よ」
「にゃ…ん…」
リリカは甘えるような声を出しながら、ステラに体を預け続けた。
「もう仕方ないわね…」
ステラはそっとリリカを支えながら、彼女を浴室から出そうとした。リリカの体はまだ疲れきっていて、半分寝ている状態であったが、ステラの腕に抱かれている安心感からか、完全に無防備な姿を見せていた。
ステラはそんなリリカを優しく抱きしめる。
リリカはステラにとって、妹のような存在だったが、その愛情は日々強くなるばかりだった。
やがて、リリカが少し目を開け、ぽつりと
「にゃ…ん…ステラ…」
と呟いた。
「おきたの？」
とステラは微笑みながら、リリカの髪を優しく撫で続けた。
その瞬間、リリカは少しだけ顔を赤くしながら、ステラに寄り添ったまま、再び目を閉じた。
浴室から出たステラとリリカが廊下を進むと、美味しそうな香りが漂ってきた。二人ははその匂いに引き寄せられるようにキッチンへ向かうと、メルヴィルが料理をしている姿が見えた。
「そうだ！、メルヴィルさんの手料理！」
とリリカは思い出して声を上げる。
「そうですよ、今日は特別！メルヴィルさんの手料理が食べられるなんて滅多にない機会です。楽しみにしててください」
とセルフィが微笑みながら言った。
「初めて食べるわ、メルヴィルさんの手料理！」
リリカはワクワクした様子でテーブルに座る。
セルフィはニヤリと笑って
「何たってメルヴィルさんは私の料理の師匠ですからね。野外訓練でも、山の中で蛇やらトカゲやらを捕まえて調理して、あっという間に絶品料理に早変わり！その腕前はお見事ですよ！」
ステラは目を丸くして、「え！？蛇とかトカゲって…本当！？」と一瞬動揺する。
メルヴィルが振り返り
「セルフィ、余計なことを言わないで」
と少し眉をひそめる。
「今日はちゃんと普通の食材で作ってるから、安心して」
と笑顔で言いながら、テーブルに料理を並べ始めた。
「大丈夫ですよ！今日は日頃食べてる食材ですから！」
セルフィも笑いながら二人を安心させた。
「もう、セルフィったら…でも、メルヴィルさんが作る料理、本当に楽しみだな」
とリリカは改めて期待を膨らませた。
「さぁ、召し上がれ！」
テーブルに並べられた料理は、どれも見た目が美しく、思わず目を奪われるものばかりだった。
まず、メインディッシュとして登場したのは『ローストビーフ』薄くスライスされた牛肉は、外側がカリッと香ばしく、中はジューシーなピンク色。肉汁が溢れるたびに、食欲をそそる香りが広がった。メルヴィル特製のグレイビーソースは、ワインやハーブが効いていて、深みのある味わいが肉をさらに引き立てる。リリカは一口食べて「おいしい…！」と目を輝かせた。
次に出されたのは『きのこのクリームスープ』山で採れた新鮮なきのこをたっぷり使い、クリーミーで濃厚な風味が広がる。スープの中には、メルヴィルが独自に調合したハーブが隠されており、飲むたびに少しずつ異なる風味が楽しめた。「これ本当に蛇とか入ってないんだよね？」とリリカが冗談を言うと、メルヴィルは笑いながら「入ってないわよ！次は蛇料理を作るわ！」と笑って答えた。
サイドディッシュは『野菜のグリル』色とりどりの野菜が美しく並べられ、カリッとした焼き目がついたズッキーニ、パプリカ、茄子、そして甘みの強いトマトが、塩とオリーブオイルだけで味付けされていた。シンプルながら素材の味が際立ち、ステラは「この野菜、どうやってこんなに美味しくできるの？」と感心しながら食べていた。
さらに『ハーブとレモンのチキン』も登場。鶏肉はしっとりと焼き上げられ、表面にはレモンの皮とハーブがまぶしてあった。爽やかな香りとともに、口の中でとろける柔らかさに、リリカは思わず「これ、私も作り方教えてほしいな」と言ったが、メルヴィルは「リリカは包丁研ぎから始めるないと」と笑って言った。
そしてデザートには、特製の『ベリーのタルト』が登場。甘酸っぱいベリーがたっぷり乗せられたタルトは、サクサクの生地と程よい甘さのカスタードクリームが絶妙なバランス。ステラは目を輝かせながら「メルヴィルさん、デザートまで完璧じゃない！」と大喜び。
セルフィが
「師匠の腕はやっぱりすごいです！」
と誇らしげに言うと、メルヴィルは
「これくらいで驚いてもらっては困るわね」
と、軽く謙遜しながらも嬉しそうに微笑んだ。
過酷だった特訓後の昼食は、メルヴィルの手際の良さが光る絶品料理が並び、三人はその美味しさに驚きながらも、心温まるひとときを過ごすのだった――。
