第71話 ステラの甘い告白⁉大きな勘違い！
夜も深まる中、リリカ、セルフィ、そしてステラの三人が集まった女子会も、そろそろ終わりを迎えようとしていた。暖かな空間に、ふんわりとした照明の灯りが柔らかく三人を包み込んでいる。ステラはソファに座ったまま、どこか思い詰めた表情で黙り込んでいた。
リリカとセルフィは、そんなステラの様子に気付き、互いに目配せをしていた。二人は心の中で「ステラが何か言いたげ」と感じていたが、どうやって声をかければ良いのか迷っていた。沈黙が数秒続き、ステラが深呼吸をした後、意を決したように話し始めた。
「実は……二人に相談があるの。いや、報告って言った方がいいかな……」
その言葉にリリカとセルフィは、緊張感を覚えながら姿勢を正した。二人は、ステラが失恋し悲しみで胸がいっぱいになっているのではないかと心配だった。特に今日、ステラがアレクシス王子とデートに行ったことは知っているだけに、そのデートでいったい何があったのか？聞き出さずにはいられなかった。
「……今日ね、二人も知ってる通り、アレクとデートに行ったの。」
とステラは静かに言った。
リリカとセルフィは、心の中でドキリとしながらも無言で彼女の言葉を待った。二人の表情は固く、これからステラが話す内容が、アレクシス王子とのデートがうまくいかなかったという悲しい報告であるかもしれないと想像していた。
「彼は、王立牧場に連れて行ってくれたの。美しい白馬や黒くて大きな馬がたくさんいて、いろんなイベントも用意してくれて……本当に楽しかったの。」ステラの声はどこか柔らかく、思い出に浸るような口調だった。
「彼と一緒に見る展望台からの景色は、もう本当に素晴らしかった。それを見ながら……私、思ったの。彼のそばに、ずっといたいなって……。」
ステラの瞳には、かすかな涙が浮かんでいた。その言葉に込められた感情は、リリカとセルフィの心に深く響き、二人は思わずその言葉に胸を締めつけられるような気持ちになった。
「たまにふたりでこうやって、いろんな場所を見て回って、隣で彼の笑顔をずっと見ていられたら……」
とステラは続け、感情がこみ上げてくるのを抑えられない様子だった。
リリカとセルフィもこらえきれずおもわず涙ぐんだ。
リリカは、そっとステラに優しく声をかけた。
「ステラ……本当にアレクシス王子のことが好きなんだね？」
「うん……そう、大好きなの。……恋してるんだって、思う。」
その言葉を聞いて、リリカとセルフィは無言で頷き、心の中でステラの気持ちを理解しながらも、何かが引っかかっていた。二人は顔を見合わせ、目で「何かがおかしい」と訴え合っていた。ステラは確かにアレクシス王子に対して深い愛情を抱いているようだが、それならなぜ、彼女はアレクの手を振り払って逃げてしまったのだろうか？
「……もしかして、逆なんじゃない？」
セルフィが小声で突然つぶやいた。
「アレクシス王子がステラを振ったんじゃないかしら？」
「そうだよ！アレクがステラを振ったんだ！」
リリカも納得したようにささやく。
「だってさ、ステラが気持ちを伝えたら、アレクが実は他に好きな人がいるとか言ったんじゃない？それで、ステラがショックを受けて逃げちゃったんだよ！」
二人はまるでパズルのピースがはまったかのように、ステラの行動を解釈していた。そして怒りが込み上げてきた。リリカはおもわず心の中で叫んだ！
「デートに誘っておいて、それはないでしょ？いくら王子様だからって……ステラを傷つけるなんて許せない！」
リリカとセルフィは、ステラが別れ際、猫耳ハウスの前でアレクに好きだと告白したのに、アレクがそれに応えられず、ステラを振ってしまったと確信していた。そして、二人はステラをこれ以上傷つけないように、静かに耳を傾け続けた。
「それでね……」
ステラは、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら話を続けた。
「馬車を降りた後、アレクが私を抱きしめてくれたの。……それがすごく嬉しくて、私も……我慢できなくなっちゃって……彼にキスしちゃったの。」
その瞬間、リリカとセルフィは同時に呆然とし、互いに顔を見合わせた。二人とも思わず声が出せなくなり、完全に混乱していた。
「キス……したの？」
リリカが驚いてステラに聞き返す。
「うん、彼の頬にキスをしたの。それから『大好き』って伝えたの。そしたら、彼が顔を真っ赤にして……その姿を見て、急に恥ずかしくなって……私、彼の手を振り払って逃げ出しちゃったの。それで、ソファに倒れ込んだら、緊張が一気に解けちゃって……なんだか嬉しくて、涙が止まらなかったの。」
ステラの顔は、喜びに満ちた笑顔で輝いていた。リリカとセルフィはその表情を見て、完全に呆気にとられていた。先ほどまでの悲しみや怒りはどこへやら、二人は何が起こったのか理解するのに時間がかかった。
「キスして……それから、好きって伝えたんですか？」
セルフィがもう一度確認するように尋ねた。
「そうよ」
ステラは恥ずかしそうに答え、話しを続けた。
「アレクも驚いたみたいで……でも、私もその瞬間、恥ずかしくなっちゃって……もう、ほんとにどうしようもないわね……」
その話を聞いたリリカとセルフィは、再び顔を見合わせ、言葉を失っていた。ステラが失恋して悲しんでいるどころか、むしろ幸せそうに笑っている。その上、彼女はキスまでしていたというのだから、二人にとっては完全に想定外の展開だった。
「な、なんか話が違うよね……？」
リリカが戸惑いながら小声でつぶやいた。
「ほんとに……どこで間違えたんでしょう……？」
セルフィも困惑しながら応じた。
二人は、完全に自分たちが勘違いしていたことに気づき、ステラのおのろけ話を聞かされていたことをようやく理解した。
「つまり……ステラの恋は順調だったってことか……」
リリカは、少し恥ずかしそうに頬をかきながら言った。
「うん、どうやらそうみたいですね」
セルフィも苦笑いを浮かべた。
「この流れは……完全に恋愛成就じゃない！」
リリカが勢いよく言った。
セルフィが笑みを浮かべて続けた。
「ステラ様、これは本当にすごい展開です！王子様が抱きしめて、ステラ様がキスするなんて……私たちが想像してた話とは全然違う！」
「でも……私。ただ、キスして、逃げちゃって……彼はどう思ってるのか、わからなくて……」
ステラは恥ずかしそうに言った、心の中には不安が残っているようだった。リリカは笑顔でステラの肩に手を置く。
「大丈夫だよ、ステラ。アレクシス王子はきっとステラのことが大好きなんだよ。そんな素敵なデートをして、抱きしめるくらいだもの！」
セルフィも同意するようにうなずいた。
「そうです！アレクシス王子はステラ様に本気なんですよ。もしそうじゃなかったら、こんなロマンチックなデートも、抱きしめることもないです！」
ステラは二人の言葉に少し安心した様子を見せた。ふと顔を上げると、微笑んでいるリリカとセルフィが目に入った。
「ありがとう、二人とも。なんだか少し勇気でてきた……」
リリカが提案した。
「今度アレクシス王子に会ったら、返事を聞かせてって言うべきだよ、きっとアレクも同じ気持ちだよ！」
ステラは少し考えて意を決したように言った。
「うん……そうだね。もう一度、彼に会った時、ちゃんと話してみる。これからは、もっと素直に彼に気持ちを伝えていこうと思うの。……だから、二人とも、応援してくれる？。」
リリカとセルフィは、その言葉に小さくうなずき、心の中で笑みを浮かべた。ステラが幸せそうで何よりだ、と二人は思いながらも、今後もステラの恋を見守っていく決意を固めた。
「もちろんだよ、ステラ！私たちはいつでも応援してるよ！」
リリカはにっこりと笑って言った。
「ステラ様の恋路、ぜひとも私たちでサポートさせていただきます！」
セルフィも力強く宣言した。
リリカとセルフィはステラの気持ちが前向きになったことに安心し、ステラの恋がうまくいくよう祈りながら床に就いた。こうして、三人の女子会は、笑顔と温かさに包まれながら幕を閉じたのだった――。
