第60話 黒騎士対策⁉ 六光の騎士たちの提案!
任務を無事に終え、王宮に戻ってきた翌朝。猫耳ハウスの静かな朝が訪れた。太陽の光が差し込む穏やかな部屋の中、ステラは目を覚ますと、隣にリリカがまたしても転がり込んでいるのに気付いた。
「もう、リリカったら…」ステラはため息をつきながらも、どこか安心感を覚えた。
リリカは、無意識のうちにステラの毛布にすっぽりと包まっており、寝顔はまるで子猫のように無邪気だった。ステラは、そんなリリカの顔を見ながら思わず微笑み、彼女の額に優しくキスをする。
「本当に、いつもこうやって転がり込んでくるんだから…」
セルフィは、リビングで朝食の準備をしながら、平穏な日常が戻ってきたことに少しだけほっとしていた。
「いつも通りだわ。これが猫耳ハウスの日常って感じね」
朝食を終えたステラとリリカは、ゆったりとした時間を楽しんでいた。そこにセルフィが、ガレットからの依頼を告げた。
「ステラ様、リリカ様。ガレット団長から任務報告の依頼を受けていますが、どうなさいますか?」
ステラは少し考えたあと、リリカに目をやった。
「大丈夫よ。さっそく六光の騎士たちを集めて」
リリカも元気に頷き、彼女たちはガレットに応じることに決めた。
しばらくして、猫耳ハウスの会議室にステラ、リリカ、セルフィ、ガレットと他五名の六光の騎士たちが集まった。会議室は猫耳ハウスの中でも特に広々とした部屋で、彼らが全員集まっても窮屈には感じられない。各々が席に着き、緊張感が漂う中、一人遅れてレオンが現れた。
「遅くなりました…」
その瞬間、リリカはすかさずレオンに駆け寄り、彼の腕に抱きついた。
「おはよう、レオン!」
彼女の元気な声が部屋に響き、皆の視線が集まった。ガレットと他の六光の騎士たちは驚き、呆然とした顔でリリカとレオンの様子を見つめた。リリカがこうしてレオンに抱きつく姿は、彼らにとって予想外の光景だった。
「ご、ごめんなさい…」ステラが急いで立ち上がり、リリカの尻尾を引っ張って引き離した。「リリカ、落ち着いて。報告会なんだから、席について」
ステラがリリカを席に戻すと、ガレットが少し困った顔をしながら言った。
「いや、その…リリカさんが抱きついたのも驚いたが、それ以上に気になることがあるんだが…お二人とも、その尻尾は一体?」
ガレットの言葉に、会議室の全員が同時に二人の尻尾に目を向けた。そこには、ステラとリリカそれぞれの尻尾が優雅に揺れていた。気付いたときにはすでに、会議室の空気は緊張感よりも驚きと好奇心でいっぱいになっていた。
「これ? 尻尾よ!」リリカは無邪気に答え、ステラも同調した。「そう、この前の模擬戦の後に生えてきたの。可愛いでしょ?」
そう言って、二人はお尻を皆に向けて、尻尾を左右に器用に振って見せた。リリカの尻尾は黒く艶やかで、ステラのは銀色で白く光って見える。その姿を目の当たりにしたガレットたちは、驚愕しつつも、思わずその可愛さに動揺していた。
「こ、これは…なんともキュートだ…」と、ガレットが呟いた。
他の六光の騎士たちも、ステラとリリカの尻尾の動きに釘付けになり、視線を外すことができない様子だった。
「それでは皆さん!。報告会を始めます!」セルフィが冷静に声をかけ、場の雰囲気を戻そうとした。彼女はすでにステラとリリカのお色気魔法?に慣れており、動じることはなかった。
「それでは、本日の報告会は私、セルフィが司会進行を務めさせていただきます。そして、こちらは書記役のレオン!」
「えっ、俺が書記!? 聞いてないんだけど…」レオンは困惑した顔で言いながらも、仕方なく引き受けた。
その瞬間、ドアがゆっくりと開き、そこに立っていたのはメルヴィルだった。彼女は報告会用の資料を持って現れ、部屋の中を見渡した。
「やれやれ、始める前から騒がしいね。どうやら元気そうで何よりだ」
メルヴィルが微笑んでそう言うと、部屋の中に和やかな雰囲気が一瞬漂ったのも束の間。メルヴィルが真剣な顔でセルフィに合図を送る。セルフィは頷き大きな声で言った。
「猫耳魔法大隊任務報告会を始めます!」
猫耳ハウスの会議室に集まったメンバーたちは、やがて真剣な報告会へと突入した。メルヴィルが報告会用の資料を持ってきてから、室内の空気は一気に引き締まった。彼女の鋭い目が会議室内を見渡し、全員が静かに耳を傾け始めた。
「それでは、始めましょう。今回の任務での出来事について、ステラ様、リリカ様、私セルフィ、レオン。順に報告してもらえますか?」セルフィが言うと、ステラがまず口を開いた。
「今回の任務では、古代遺跡の奥深くに魔石がありました。私たちは、その封印を試みましたが、魔石を守る魔物と遭遇しました。その魔物は…土の魔犬獣でした」
「土の魔犬獣か…それは厄介だったでしょう」ガレットが小さく頷きながら聞き入る。
「ええ。最初は手こずりましたが、リリカとの融合魔法『炎水龍』で何とか撃退しました。その後、魔石を封印するために手順を進めていたところ、突然『黒騎士』が現れ、私たちを襲撃してきました」
会議室の空気が一瞬にして重くなった。黒騎士の名が出ると、六光の騎士たちも緊張の色を隠せなかった。
「黒騎士?…」ガレットが呟く。
「そうなの。黒騎士は私たちの攻撃をものともせず、最初にレオンを、そしてセルフィを負傷させました。二人が倒された瞬間、私たちは一時的に絶望感に包まれましたが、私は治癒魔法でセルフィとレオンを治療し、リリカが黒騎士に対応しました」
「黒騎士との戦いはただでは終わらなかったわ」とステラが続けた。「リリカが最終的に覚醒して、黒騎士を打ち破ることができたのは本当に幸運だったわ」
ガレットは少し考え込むように目を閉じ、再び口を開いた。
「それにしても、セルフィとレオンが倒されるほどの相手というのは、かなりの脅威だ。もしリリカ様が覚醒していなかったら、今回の任務は失敗していただろう…」
「その通りです」メルヴィルが真剣な表情で同意する。「今回の任務は成功したものの、黒騎士の存在が新たな問題を提起しています。次回の魔石の封印を行う際には、さらに慎重に計画を練る必要があるでしょう」
ここで六光の騎士たちがそれぞれ意見を述べ始めた。普段は寡黙な彼らも、この状況を見過ごすことができないと感じていたのだ。
「私たち六光の騎士も、次回の魔石の封印に参加させてもらえないでしょうか?」ガレットが提案した。「今回のように、一部のメンバーだけで対処するのは危険です。黒騎士や魔物のような強敵に対応するには、より多くの戦力が必要だと思います」
ガレットの意見に、他の六光の騎士たちも賛同の声を上げた。
「その通りだ。次回は、全員で力を合わせて魔石の封印に挑むべきだ」
「リリカ様やステラ様を守らねば。私たちも全力で協力したい」
会議室の空気が再び熱を帯び、騎士たちの声が次々に飛び交う。彼らの決意は固く、任務の重要性を理解していた。
メルヴィルは少しの間黙って彼らの意見を聞いていたが、やがて口を開いた。
「そうね、今回の件はただ事ではないわ。黒騎士のような強力な敵が現れることは予期していなかったけれど、次回の封印作業には、確かにあなたたち六光の騎士も加わるべきでしょう。それが最善の策だと思います」
ガレットは頷き、少しほっとした表情を浮かべた。「ありがとうございます、メルヴィル様。それでは、私たち六光の騎士全員で対策を練り、次回の作戦に備えましょう」
「そうですね。皆さん、それぞれ対策を考えて、もう一度会議を開きましょう。その際には、さらに詳しい情報と新たな手段を持ち寄って、作戦を練る必要があります」
会議は次第に終わりに近づき、メンバー全員が立ち上がろうとしたその時、メルヴィルがふと真剣な顔つきで言った。
「ところで…別件ですが、もう一つ重要な報告があります」
その場にいた全員がピタリと動きを止め、メルヴィルの言葉に耳を傾けた。彼女の声には、これまでの報告には含まれていなかった何か重大な情報が隠されているようだった。
「実は――」
メルヴィルが告げたその一言で、会議室の空気が再び凍りつく。誰もが彼女の口から出た言葉を予期していなかったのだ。
メルヴィルの突然の発言に、全員が静まり返り、その場の緊張感が一気に高まった。彼女の言葉が示す新たな試練が、彼らをどこへ導くのか――誰もが息を飲んで次の言葉を待っていた――。




