第54話 両手に花⁉レオンの長い夜！其の三
再び眠りに落ちたレオンだったが、ふと顔をやさしく撫でる感覚に目を覚ました。ぼんやりとした意識の中で、何かが柔らかく顔を撫でている感触が伝わる。
「これは…尻尾か？」
レオンはすぐに状況を理解した。リリカの黒くしなやかな尻尾が、まるで慈しむように彼の頬を撫でていたのだ。寝ぼけているのか、それとも彼を起こそうとしているのか、尻尾の動きは優しく、ふわふわと心地よい。
その瞬間、リリカがさらに動いてレオンの頭を抱き寄せ、頬ずりを始めた。
「ねえ、レオン…起きてる？」
リリカの甘い囁き声が耳元に響き、レオンは一瞬ぎくりとした。返事をしようと口を開きかけたが、必死でそれをこらえ、寝たふりをすることにした。状況があまりに唐突すぎて、どう対処していいかもわからなかった。
「ねえ、レオン…」
リリカはレオンが寝ぼけながら、彼に対してさらに声をかけてくる。
「レオン、いつも迷惑ばかりかけてゴメンね…でも、レオンは、リリカのお兄さんみたいでとっても頼りになるの。だからね、今度の任務も絶対についてきてほしいの。大好き、レオン」
その言葉に、レオンは思わず涙がこみ上げてきた。自分が足手まといだと思っていたこの任務で、リリカが自分をそんな風に思ってくれていたとは想像もしていなかった。
「見た目は10歳以上も歳が離れている兄と妹みたいなんだけどな…」
レオンは心の中でそう思いながら、リリカの姿を改めて見つめた。彼女の黒い髪は月明かりに照らされ、優しく輝いている。まだあどけなさが残る顔つきではあるが、その背後には強さと優しさが同居していた。
「だが、現実は…この少女に命を救われたんだ…」
レオンは、リリカが黒騎士との戦いで自分を守ってくれたことを思い出す。彼女は見た目に似合わず、戦場での冷静さと強さを持っていた。足手まといだと思っていた自分が、実はリリカにとって頼りになる存在だと認められたことが、何よりも嬉しかった。
「そんな俺を、頼りにしてくれてるなんて…」
リリカの言葉が胸に響き、レオンはさらに涙がこぼれそうになるのを感じた。そして、自然とリリカの頭を優しく撫でた。彼女の猫耳がぴくぴくと可愛らしく動く。その仕草が、レオンの心にさらに温かい気持ちを広げた。
「リリカ副隊長様…本当に、できすぎた妹だよ…」
リリカの顔が月明かりに照らされ、その笑顔が浮かび上がる。その笑顔は、何度もレオンを救ってきた。彼女の輝く金色の瞳、長く艶やかな黒髪、そしてチャーミングな猫耳。レオンはその美しさと優しさに、改めて心を奪われた。
「ステラ様がリリカ様を溺愛するのも無理はないな…」
レオンはそう思わずにはいられなかった。リリカの存在は、彼にとっても特別なものであり、彼女の言葉が心の中に深く刻み込まれていく。
「俺も、この二人のそばで仕えることができたら、それだけで十分だ」
彼の胸の中に、強い決意が生まれた。自分はただの護衛ではない。リリカやステラのそばで、もっと彼女たちの役に立ちたい。そのために、これからも全力を尽くすべきだと、強く心に誓った。
「よし、決めた…これからも俺は、全力でこの二人を守るんだ」
リリカは、レオンの顔に手を置いたまま、また深い眠りに落ちていった。その無防備な姿に、レオンは微笑み、そっと彼女の手を握りしめた。
「おやすみなさい、リリカ様…」
レオンは、リリカに優しく囁いた。そして、再び静かに目を閉じた。部屋の中は、三人の穏やかな寝息が響き渡っていた。ステラ、リリカ、そしてセルフィも、みんなぐっすりと眠っている。
夜はさらに更けていった。レオンは、自分がこんなにも多くのことを得られるとは思ってもみなかった。この数日間での戦いや旅の出来事、そして何よりもリリカとの絆が深まったことに、彼の心は満たされていた。
「リリカ様、ステラ様、そしてセルフィ…俺はこれからも、あなたたちを守っていきます。全力を尽くします」
その強い決意を胸に抱きながら、レオンはゆっくりと眠りに落ちていった。瞼を閉じると、リリカの微笑んだ顔が頭に浮かび、その優しさが彼の心を包み込んでいった。
この夜の出来事は彼にとって大きな意味を持つものとなった。リリカからの信頼と感謝、そして新たな決意。それらが彼の心に刻まれた夜だった。
これからも新たな試練が待っているだろう。しかし、レオンはもう迷わない。リリカやステラ、セルフィのために、彼はどんな困難にも立ち向かう覚悟ができていた。
「おやすみ、リリカ様…」
再びその言葉を心の中でつぶやきながら、レオンは眠りについた。
四人の寝息が、静かな夜を包み込む中、レオンの長い夜は静かに過ぎていった。
レオンはリリカからの信頼と感謝の気持ちに触れ、リリカの本心を知る。見た目は歳の離れた兄妹のようでありながら、実はお互いに深く支え合っている関係だと気付く。二人を守る存在になると決意を新たにするレオンであった
――。
