第53話 両手に花⁉レオンの長い夜!其の二
レオンは、リリカとステラが自分にしがみついたまま、尻尾が絡んで離れないという状況の中で、ついに覚悟を決めるしかなかった。どうにもならないまま、二人を抱えた状態でベッドに横になり、静かに深呼吸をする。
「今日も一日、いろいろな経験ができたな…」
彼の頭の中では、今日起こった出来事が次々と思い浮かぶ。ステラやリリカ、そしてセルフィ。彼女たちと様々な困難やトラブルを乗り越えながらも、一緒に行動してきたことが不思議な充実感を与えていた。
「ステラ様、リリカ様、セルフィも…同行させてくれてありがとう」
そんなことをぼんやりと考えながら、レオンは次第に意識が薄れていき、静かに眠りに落ちていった。
ふと、微かに「おやすみなさい」という声が耳に届く。
「セルフィ…?」
その声が本当に聞こえたのかどうか、レオンにはわからないまま、深い眠りへと入っていった。
しばらくして、レオンは何かにツンツンと鼻をつつかれて目を覚ました。ぼんやりとした意識の中、顔を何かが優しくなでている感触が伝わる。
「これは…しっぽか…?」
驚いて目を開けると、暗がりの中で、ステラの長い尻尾がふわふわと動きながら、彼の顔を撫でていた。
「びっくりした…」
レオンは軽くため息をつきながら、自分がまだベッドの中でリリカとステラに挟まれていることを再認識した。その時、ステラがもぞもぞと動き、突然彼の顔を両手でぐいっと振り向かせた。
「もう、リリカったら!」
ステラは寝ぼけた様子で、レオンの顔を覗き込む。しかし、暗くて表情はよく見えない。どうやら彼をリリカと勘違いしているようだ。
「よしよし、いい子、いい子」
ステラは、レオンの頭を優しく撫で始め、次第に頬を擦り寄せてくる。
「うっ…!」
レオンは突然のスキンシップにパニックになり、どうしたらいいのかわからないまま、ただされるがままになっていた。
「私はリリカ様じゃありませんよ…!」
心の中で必死に叫ぶが、ステラはそんなことにはお構いなしで、さらに頬ずりを続ける。
「リリカ、大好き」
ステラが甘い声でつぶやきながら、さらにレオンに寄りかかってくる。
「ねえ、リリカ、わたしのこと好き?嫌いって言ったら許さないんだから。ねえ、どうなの~?」
レオンは一瞬頭が真っ白になった。どう答えたらいいのか全くわからないが、このままでは埒があかない。ステラがますます自分に甘えてくるその勢いに、ついに覚悟を決めた。
「し、しょうがない…もう、やけくそだ!」
レオンは内心で決心し、ステラのリクエストに応えるため、できる限りリリカに似せた少し高い声で返事をすることにした。
「わ、わたしも…ステラが大好き、大大大好きよ!」
自分で言っていて恥ずかしさに顔が火照るが、これしか方法がない。すると、ステラは一瞬動きを止めた後、嬉しそうに叫んだ。
「ホント!嬉しい!リリカ、大好き!」
ステラはさらにレオンにぎゅっと抱きつき、頬を何度も擦り付けてくる。レオンは完全にお手上げ状態だった。必死に耐えていると、突然、部屋の隅から「クスクス…」と笑い声が聞こえてきた。
「えっ…?」
レオンは一瞬耳を疑ったが、その声は間違いなくセルフィのものだった。どうやら、彼女も部屋のソファかどこかで寝ていたらしい。
「レオンがステラ様に『大大大好き』って…何よ、愛の告白してるの?どさくさに紛れて、まったく…!」
セルフィは小声でクスクスと笑いながらからかうように言ってきた。レオンは顔を真っ赤にし、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「ち、違う!しょうがなく寝ぼけたステラ様の相手をしてただけだよ!」
レオンは小声で必死に反論するが、セルフィはその様子が面白いのか、さらに笑い声をこらえている。
「まあ、まあ、そういうことにしておくわ。けど、レオンがあんなに必死にリリカ様のフリをしているなんて…クスッ、可愛いじゃない」
「くっ…セルフィ、頼むからこれ以上笑わないでくれ…」
レオンはもうこれ以上恥ずかしい思いをしたくないと、心の中で願いながら、ステラが再び頬を擦り寄せてくるのを何とか耐え続けた。
「リリカ、大好き。ほんとに…」
ステラが再び甘い声で囁くと、レオンは仕方なくもう一度応えた。
「ええ、わたしもステラが大好き…」
再びその言葉を口にした瞬間、レオンは自分の状況が信じられなくなった。部屋の暗がりで、自分がリリカの声色を真似して、寝ぼけたステラに愛の告白をするなんて、まさにカオスそのものだった。
しばらくして、ステラの抱きつきが少し緩んできた。どうやら、再び深い眠りに落ちたようだった。レオンはその隙を見て、ようやく少しだけ体を動かせるようになった。
「ふぅ…助かった」
レオンはそっとステラをベッドに寝かせ直し、絡まった尻尾をなんとか解こうとするが、完全に絡みついてしまっているため、やはり無理だった。
「どうするんだ、これ…」
彼は再び頭を抱えたが、もうどうにもならないことは分かっていた。セルフィも、笑い疲れたのか、ようやく落ち着きを取り戻し、眠りについたようだった。
レオンは再びベッドに横になり、ステラとリリカに挟まれたまま、静かに目を閉じた。体中に絡みついた尻尾の感触を感じながら、今日の出来事が再び頭の中をよぎる。
「さあ…もうひと眠り」
そう思いながら、彼は静かに目を閉じ、疲れきった体を休めることにした。
だが、レオンの長い夜はまだ始まったばかりだった――。




