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第45話  帰路の出会い⁉ 隻眼の魔法使い!

 警護所長オーエンの合図で、レオンは馬車のたずなをしっかりと握り、出発の準備を整えた。馬車はあえて町民が普段使っているような目立たない質素なもので、セルフィがあらかじめ指示して用意させたものだった。


「さあ、準備は整った。これで出発できるぞ」


「どうか道中、お気をつけて!」


 オーエンは4人に昼食用のパンと飲み物を渡し、敬礼して見送った。


 セルフィは一行を目立たないようにするために必死の様子。


「ステラさんもリリカさんも、身バレ厳禁ですからね。しっかりと装いを整えてください」


「分かってるわ、セルフィ」


 ステラは真剣に頷き、リリカも反省の表情を浮かべていた。来る時はメルヴィルの転送魔法を使って一瞬で移動したが、今回の帰路は馬車でのんびりとした旅。彼らは馬車に乗り込み、出発の合図とともに町の人々が歓声を上げて見送った。


「すごい人だね。みんな私たちを応援してくれてるんだ」


リリカが窓から手を振りながらそう言うと、レオンも笑顔で手を振り返した。


「こんなにたくさんの人に見送られるなんて僕は初めてです」


 馬車はゆっくりと動き出し、町を抜けて静かな街道へと進んでいった。道中、リリカたちはのんびりと会話を楽しみながら、景色を眺めていた。


 やがて、昼時になると一行は丘の上に差し掛かり、木陰で休憩することにした。オーエンが持たせてくれたパンと飲み物を広げ、ランチを楽しむ四人。


「この丘から見る景色、すごく綺麗だね」


 リリカが感嘆の声を上げ、ステラも頷いた。眼下には広大な草原が広がり、遠くには山々が連なっていた。空は青く澄み渡り、心地よい風が4人の顔を撫でていった。


「見てください、あの山の向こう側が王都です」


レオンが指差して言うと、セルフィもその方向をじっと見つめた。


 食事を終えた四人は、しばらくその景色を眺めながらリラックスした時間を過ごした。その後、馬車に戻り、再び出発する準備を整えた。


 馬車が走り出してしばらくすると、前方に一人の老人が歩いていた。


「ちょっと、あの人…」


 レオンが馬車を止め、老人に声をかけた。


「こんにちは、どちらに向かっているのですか?」


 老人はレオンの声に振り返り


「ああ、君たちは…旅の者か。この先の町の手前の集落に帰るんだ」


 彼は杖をつきながらゆっくりと歩いていたが、その姿にはただの旅人には見えない風格があった。老人は片腕で隻眼、杖を携えているが、その杖はただの支えではなく、武器としても十分に使えるものだと感じさせた。老人は顔を上げ、片目でレオンたちを見つめた。その視線には鋭さがあり、ただ者ではないことが一目でわかった。


 レオンはすぐに感じ取った。この老人、かなりの手練れで、戦士か魔法使いとしての経験が豊富に感じられる。


「(この人…かなりの腕の魔法使いじゃないか?)」


 窓越しにレオンの視線に気づいたセルフィもまた、老人の腕や佇まいからその実力を見抜いていた。彼女は冷静に老人の魔力を観察し、敵意がないことを確認すると、再びレオンに目配せをした。


「ご老人。よければ乗っていきなよ!」


 レオンが馬車から降りて老人に声をかける。


 リリカも馬車の扉を開けて手招きしながら。


「私たちも王都に向かっているんです。もしよかったら、一緒にどうぞ」


 老人は少し驚いた様子を見せたが、やがて穏やかに微笑んで馬車に乗り込んだ。


「ありがとう、助かるよ」


 老人はゆっくりと馬車の中に座り、疲れていたのか安堵の表情をうかべた。三人の美少女を前に少し照れた様子で。


「片目で片腕。こんないでたちでびっくりしたかい?」


 三人は顔見合わせて言葉につまったが、すかさずリリカが老人に問いかける。


「その目と片腕どうしちゃったの?おじいさん!」


 すると老人もまんざらでもない様子で。


「私は昔、魔法使いとして各地を旅していたんだ。まだドラゴンがそこら中にいた頃、討伐隊に参加してね。その時に左目と右腕を失ったんだよ」


 老人の語る冒険譚は壮絶で、聞いている三人もその壮絶さに引き込まれていった。


「そのドラゴン討伐の話、もっと聞かせてください!」


 リリカが興味津々に尋ねると、老人は少し照れくさそうに笑った。


「昔の話さ。あの頃はまだ若く、無謀だった。ドラゴンを相手にするのは命がけでね。仲間はみんなやられてしまった。でも、その経験が今でも私を支えているんだ」


 老人の話を聞いている間、三人は彼の過去の栄光と壮絶な戦いに敬意を抱いた。彼の片腕と隻眼に宿る強い意志に感銘を受けていた。


「貴重なお話をありがとうございます。あなたのような方にお会いできて光栄です」


 ステラが真摯に感謝の言葉を述べると、老人は穏やかな笑みを浮かべた。


「いやいや、若い者たちがこうして元気に旅をしているのを見ると、私も嬉しくなるよ。君たちの旅が無事であることを祈っている」


 しばらくして、分かれ道に差し掛かると、老人は立ち上がり、杖を頼りにゆっくりと降りていった。


「ここでお別れだ。君たちには感謝している。気をつけて旅を続けてくれ」


 老人は少しの間馬車見送り、最後に意味深な言葉をつぶやき去っていった。


「これから、きっといろいろなことがあるだろう。君たちの力を信じなさい。特に、君たちの絆が試される時が来るかもしれない…」


 リリカは窓越しに老人に手を振り続けた。老人はだんだん小さくなって見えなくなった。すると何とも言えない寂しさを感じた。


「ちょっと不思議な人だったね。でも、いい話を聞けたわ」


 リリカが笑顔で言うと、ステラも頷いた。


「そうね。出会いも旅の醍醐味よ」


 セルフィは少し考え込みながらも、前を向いて頷いた。


「今の平和もあの方のような魔法使いのおがげかもしれません」


 そしていつの間にか三人は浅い眠りに落ちた。その様子を見てレオンが馬のたずなを引き締め、しっかりと前を見据えた。四人の旅はまだ続くが、彼らの絆はますます強まっていく。王都まではもう少し、彼らはその一歩一歩をしっかりと進んでいった――。

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