第184話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の五十八
崩れ落ちる岩の音、地面を揺るがす振動、そしてリリカの荒い息遣いが洞窟の暗闇に響き渡っていた。
冷たい空気が肌を刺すように感じられ、耳には絶えず轟音が響き渡る。
暗闇の中、リリカは血に染まった手でチャチャの小さな体を抱きしめていた。
体温がほんのわずかに残るその体が、彼女の腕の中でかすかに震えている。
「チャチャ、大丈夫だから……もう少しだけ頑張って……」
声を震わせながらリリカは言った。しかし、自分自身に向けた励ましにも聞こえた。
チャチャの体は小さく、弱々しく、魔力を封じた結果、すでに限界を迎えようとしていた。
その重みを感じながら、リリカは自分の無力さを痛感していた。
「……魔力が戻れば、これしきのダメージなんて……」
自分に言い聞かせるように呟いた。
リリカは意を決して、自らの体内に眠る魔力を取り戻そうと試みる。
体内の「マノス」、魔力を生み出す器官に集中し、そこから魔力が流れ出すイメージを描く。
しかし、何度試みても、魔力が戻る気配はなかった。
「あれ……何これ……?」
困惑した声が漏れる。体の中が空っぽになったような感覚。
いや、それどころか、「マノス」そのものが機能していないような異様な感覚だった。
「何で……?何で戻らないの……?」
リリカの顔が恐怖で歪む。
脳裏には蛇の毒が「マノス」の機能を破壊している可能性がよぎった。
もしそれが事実なら、彼女が頼りにしていた魔力は完全に失われ、体力の回復も期待できない。
「サーガ……ねえ、聞こえる?返事をしてよ!」
龍神サーガ。彼女の体内に宿るその存在さえも、今はまったく応じていなかった。
深い孤独感が彼女を包み込む。
視線を落とすと、チャチャが弱々しく身を震わせているのが見えた。
その小さな命を守りたい一心だったが、その思いがむなしく胸を締め付ける。
「私……失敗しちゃった……魔力さえ封じなければ、今頃は……」
自責の念に耐えられず、頬を涙が伝った。
その時、地面が突然激しく揺れ始めた。
「……え?」
天井からは鍾乳石が剥がれ落ち、洞窟全体が不気味な轟音に包まれる。
細かな岩が雨のように降り注ぎ、肩や頭を叩く。
「痛っ……!」
右足は毒の影響で激痛と痺れが広がり、ほとんど動かすことができない。
それでもリリカは右足を引きずりながら、必死に前進する。
「このままじゃ……全部崩れてきそう!」
響き渡る崩壊音と中を、リリカは一歩、また一歩と進んでいた。
周囲の岩肌が軋むたび、背後から落下する岩の音が迫り、まるで彼女を追い立てるかのようだった。
「どこか……安全に隠れられる場所はないの……?」
彼女の声は震え、息も荒い。
視界は次第にぼやけ、指先から感覚が薄れていくのを感じた。
チャチャを抱えた腕に重さがずしりとのしかかり、その負荷に耐えるたび、足元がふらついた。
体の限界はとうに超えている。
けれども、彼女は歩みを止めなかった。
仲間たちの顔を思い浮かべるたび、自分が諦めるわけにはいかないと自分を奮い立たせた。
しかし、ついに限界が訪れた。
足が重くなり、まるで鉛のように動かなくなった。
「これ以上……進めない……」
その言葉を呟いた瞬間、リリカの体はがくりと崩れ、地面に膝をついた。
背後で轟音が響き渡り、大きな岩が床を揺るがすように落下した。
震動で体が揺れる中、崩れた地面に崩れ落ちた彼女は、静かに息を整えようとした。
「セルフィと……あの子は……無事なのかしら……?」
リリカの脳裏には、二人の顔が浮かぶ。
セルフィ、そして救おうとしていた衰弱した少女――彼女たちの無事を祈るように、リリカは呟いた。
「セルフィがついていれば……大丈夫……」
微かに微笑みが浮かんだその瞬間、激しい痛みが全身を貫き、表情が歪んだ。
チャチャの柔らかい毛並みを撫でながら、リリカの目からは涙が溢れ出た。
「ごめんね……チャチャ……私がもっと強ければ……」
その小さな体を守ろうとするようにしっかりと抱きしめたが、リリカの体は次第に冷たくなり、目に映る景色はどんどん狭まっていった。
音を立てて崩れ落ちる鍾乳石、迫りくる崩壊の兆候が洞窟全体を包み込む。
「……みんな……ごめん……」
唇から仲間たちの名前が静かに紡がれる。
「ステラ……セルフィ……レオン……メルヴィルさん……」
その声はか細く、激しい轟音に掻き消されていった。
彼女の意識が薄れゆく中、天井の鍾乳石が音を立てて崩れ始めた。
突如、巨大な鍾乳石が崩れ落ち、無慈悲にもリリカとチャチャを覆い隠すように降り注いだ。
リリカは、崩れゆく鍾乳洞の中で最後までチャチャを守ろうと奮闘するも、体力の限界と毒に蝕まれた体が彼女を容赦なく追い詰める。自身の魔力を封じた決断は状況をさらに困難にしてしまう。右足が毒に侵されながらも、崩れ落ちる岩の音と振動の中をチャチャを抱えながら進む。しかし、遂に体力の限界に達し膝をつくリリカ。無情にも彼女たちに鍾乳石が降り注ぎその体を押しつぶしてしまうのだった――。




