第180話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の五十四
セルフィが鍾乳洞の崩れた出口から外へ飛び出した瞬間、冷たい風が彼女の頬を撫でた。
背後では鍾乳洞が完全に崩壊し、鍾乳石が大地に激突する轟音が響き渡る。
洞窟の入り口は完全に塞がれ、地中深くからの揺れも次第に収まっていった。
「間に合った……」
セルフィは膝をつき、腕の中で意識を失った二人の少女をそっと地面に横たえた。
その顔には安堵の表情が浮かんでいたが、胸の奥にはリリカを置き去りにしてきたことへの罪悪感と焦燥が渦巻いていた。
「リリカ様……お願い、どうかご無事で……!」
そう呟きながら、彼女は崩壊した鍾乳洞の暗い影を見つめ続けた。
すると突然、上空から風が渦を巻き、激しい音と共に漆黒の翼を持つステラの姿が現れた。
彼女はまるで夜の闇そのものを背負ったかのような威容を見せ、空中で一瞬静止したかと思うと、すぐに地面に軽やかに着地した。
「セルフィ、大丈夫?」
その声には安定した力強さと、確固たる決意が滲んでいた。
セルフィは目を見開きながら、その姿を凝視した。
「ステラ様……その姿は?」
ステラの背中には、漆黒の輝きを放つ龍の翼が広がっていた。
その翼は力強さと優雅さを兼ね備え、どこか神聖な雰囲気をも漂わせている。
ステラは翼を軽く畳むと、セルフィに微笑みを向けた。
「詳しい話は後にしましょう。それより、今はこの子たちの治療が先よ」
セルフィは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに頷き、ステラの指示に従った。
ステラは二人の少女のそばに膝をつき、まずはマナの顔を覗き込んだ。
彼女の目が一瞬赤く輝くと、その視線がまるで内部を透視するかのように鋭くなった。
「龍の目」を使い、マナの体内を詳細に分析していくステラ。
その表情は次第に険しさを増し、状況が深刻であることを物語っていた。
「骨が折れているわ。右手と右足、それに肋骨も……内出血も少なくない」
ステラは冷静に状況を伝えると、セルフィに向き直った。
「セルフィ、この子をしっかり押さえていて。このままでは治癒魔法をかけられないわ。まずは折れた骨を元の位置に戻さないといけない」
セルフィは驚きと不安の表情を浮かべたが、すぐにマナの体を優しく押さえ込んだ。
「痛みは仕方ないわ。でもこれをしないと命が危ない」
ステラの声には迷いがなかった。
その確信に満ちた言葉が、セルフィの心を落ち着かせる。
ステラは慎重にマナの右手を握り、位置を確認する。
折れた箇所を慎重に触診し、周囲の状態を確認しながら、痛みを最小限に抑えるようにゆっくりと力を込めた。
「いくわよ……」
「ゴキッ!」
鈍い音が響いた瞬間、マナの顔が苦痛に歪み、意識を失っているはずの彼女が小さく呻いた。
セルフィはその痛々しい光景に思わず目を背けそうになったが、必死に堪えた。
折れた骨が正しい位置に戻る感触が指先に伝わるたび、ステラは息を詰めながらその作業に集中した。
冷や汗が額を伝い落ちるが、彼女の手つきは熟練の医師のように正確で、その表情は揺らがない。
「あと少し……右足と肋骨も整えないと」
ステラは続けて、慎重にマナの胸部に触れ、折れた肋骨を元の位置に戻していく。
冷静さを失わない彼女の表情がセルフィに安心感を与えた。
「ふう、最後に右足ね。これが一番厄介かも」
ステラは深く息を吸い込み、マナの右足の状態を確認した。
その足は異常な角度で曲がり、折れた骨が皮膚を突き破っている。
それでも、マナはかすかな息遣いを続けており、その命を救うためにステラは一切の迷いを捨てた。
ステラは深呼吸をして再び集中した。
彼女は慎重にマナの足を持ち上げ、骨の位置を確認しながら少しずつ調整を進めた。
「少し痛いかもしれないけど、もう少しだからね」
ステラは励ましの言葉をかけながら、慎重かつ確実に骨を正しい位置に戻していく。
折れた骨が整うと、木の枝を添え木代わりにして布で固定し始めた。
彼女の手つきには無駄がなく、力加減も的確だった。
固定が完了すると、ステラは軽くため息をついた。
「ふう、これで準備は整ったわ。次は治癒魔法よ」
ステラは両手を広げると、その掌から穏やかな光が溢れ出した。
その光は徐々にマナの体全体を包み込み、彼女の傷を癒していく。
「温かい……」
セルフィはその光景を見つめながら、まるで自分まで癒されているような感覚を覚えた。
「すごい……これがステラ様の力……」
治癒魔法が完全に発動した後、マナの顔色は徐々に戻り、呼吸も安定してきた。
「よし、次はこの子ね。」
ステラの目が一瞬赤く輝くと、その視線がまるで内部を透視するかのように鋭くなった。
「龍の目」を使い、マノの体内を詳細に分析していくステラ。
その表情は次第に険しさを増し、状況が深刻であることを物語っていた。
「……これは……」
ステラの声が震えた。
「毒ね……」
セルフィは驚愕し、顔を青ざめさせた。
「解毒はできるんですか?」
「ええ、でも時間との勝負よ。傷口から直接魔力を通して解毒するわ」
ステラは冷静に答えると、セルフィに指示を出した。
「傷口を押さえていて。毒を浄化するわ」
ステラはマノの噛まれた胸の傷口に手を当て、深呼吸をした。その手から金色の光が放たれ、血液の毒を光魔法で無力化する。
ステラの額には汗が滲み、彼女の集中力が試されているのが分かった。
やがて、黒紫色の血液が傷口から滲み出てきた。
それは見るからに有害そうな液体で、空気に触れるとすぐに蒸発していく。
「もう少し……!」
ステラはさらに力を込め、完全に毒を浄化すると、大きく息を吐き出した。
「これで毒は消えたわ」
彼女は傷口を見つめながら眉をひそめた。
「噛まれた傷が深すぎる。血が止まらない」
ステラは再び両手を広げ、再び治癒魔法を展開した。
彼女の掌から放たれた金色の光が傷口を包み込み、徐々に裂けた皮膚を再生してゆく。
傷口が完全に塞がると、マノの呼吸は次第に安定し、その顔にはわずかに血色が戻り始めた。
そして二人の姉妹はステラとセルフィの見守る中静か眠りについた。
鍾乳洞の崩壊を間一髪で逃れたセルフィ。意識を失った姉妹マナとマノを救うため、ステラが立ち上がる。治癒魔法で傷を癒し、毒の浄化まで冷静かつ迅速に対処するステラ。傷ついた姉妹に寄り添い、全力で救おうとする姿は神々しく、感嘆の眼差しを向けるセルフィであった――。




