第168話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の四十二
気を失ったレオンは、柔らかな何かに頬を寄せながら目を覚ました。
視界に入ったのは、リリカの困ったような顔だ。
「レオン、大丈夫? 急に倒れるからびっくりしたよ!」
リリカが心配そうに見つめる中、レオンは頭を軽く振り、なんとか起き上がった。
リリカはチャチャを膝に抱えたまま、レオンを見下ろして溜息をついた。
「レオンってば、こういうとき本当に大袈裟なんだから。でも、カガリたちが見せてくれたものは確かに凄かったね。私もちょっと驚いちゃった。」
レオンは目を覚まし、ぼんやりとした表情で周囲を見渡した。
「リリカ様すみません。起こしてしまいましたか? ただ、あの……何だっけ、時計とかトランシーバーとか……ヤマタイコクの技術ってやつにちょっと圧倒されてしまいました」
その言葉に、そばにいたカガリとカズチが肩をすくめる。
再びレオンは寝ぼけた様子で
「なんだ……これも夢か……?」
その言葉に皆、思わず笑ってしまった。
そしてカガリが説明を始める。
「残念ながら夢じゃないぞ。これが現実だ。俺たちの国では、こうした技術が一般的なんだ。確かに、地上の人間には馴染みがないかもな。でも、これが当たり前の環境で育つと別に不思議でも何でもないんだよ」
リリカも興味津々に口を挟む。
「ねえ、その時計とかトランシーバーってどんな仕組みなの? 魔法で動いてるの?」
カガリは先ずトランシーバーを手に取り、リリカとレオンに見せながら説明を始めた。
「これには魔力伝達石が埋め込まれていて、周囲の魔力を微弱に吸収しながら通信を維持してるんだ。魔力を持たない者でも使えるよう調整されている一般的なタイプだ。誰でも簡単に扱えるのが特徴だ。そしてもう一つ……」
カガリがカズチに目線を送ると、カズチは耳から耳栓のような物を外してリリカ達に見せた。
「これは軍事用の最新型だ。このトランシーバーは己自身の魔力を使って通信するタイプだ。魔力伝達石が無いぶん 小型で軽量。耳に装着するだけで聞いたり、話したりできるんだ」
続けてカガリが説明する。
「ただこれは雷の魔法の使い手しか使用できない。雷の魔法でしか作動しないある意味特別製さ」
レオンは立ち上がりながら頭を振って正気を取り戻し、再びトランシーバーを指差した。
「それにしても、遠くの仲間と会話できるなんて……本当に信じられない……」
カガリは頷きながらそのトランシーバーを手に取り
「これは魔法と産業技術の融合で作られたもので、私たちの国の誇りでもあるんだ。これのおかげで、広範囲に渡る情報共有が可能になった」
リリカはチャチャの毛を撫でながら感心した表情で尋ねた。
「魔法と技術を融合させるって、どうやってるの?エルフェリアでは、そんなこと考えたこともないよ」
カガリは少し得意げに話し始めた。
「ヤマタイコクでは、魔力をエネルギー源として活用する研究が進んでいるんだ。魔力を安定化させる装置を作り、それを基盤にして技術を発展させてきた。例えば、このトランシーバーは魔力電波を使って通信している」
「魔力電波?」
リリカが首をかしげる。
「ええ、声を一旦、魔力の力で電波に変換して……それで……あの……すみません。技術的な事はまたの機会に……」
カズチは自身無さそうに答えた。
レオンは未だに信じられない様子で額に手を当てていた。
「魔力をそんな風に使うなんて……エルフェリア王国では考えられないことだ。俺たちは魔法を直接使うか、武器や防具に付与するくらいしか知らない」
カガリがそこで口を挟む。
「初代ヒミコ様の開発した技術だ。ヤマタイコクが閉ざされた環境だったからこそ、独自に発展した部分かもしれないな」
リリカは目を輝かせながらその説明に聞き入り、トランシーバーをそっと触れてみた。
「だから警備や作戦の連絡には欠かせない道具なんだね」
「その通りです。リリカ様」
思わずリリカの頭を撫でようとして
「いかん!見た目は幼女だが、この方は龍神サーガ様の御神体だ!」
カガリは急いで手を引っ込めた。
カズチはリリカを見つめながら
「ヤマタイコクとエルフェリア王国が手を取り合う日が来るのかもしれませんね」
リリカはその言葉に嬉しそうな笑みを浮かべ、静かに頷いた。
そして、カガリは決意を込めた声で言葉を続けた。
「そのためにも、まずは地上への道を確保しないといけない……」
その顔は険しく、戦士の顔に戻っていた。
ヤマタイコクの技術を目の当たりにし、文化の違いに驚きと戸惑いを隠せないレオン。一方、カガリとカズチは魔力を活用したトランシーバーなどの技術を説明し、ヤマタイコクの発展の背景にヒミコの功績があることを語る。リリカもその技術に興味津々。ヤマタイコクの技術の先進性に希望を見いだすリリカとレオンであった――。




