第164話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の三十八
チャチャは勢いよく駆け抜け、森の中を突き進んでいた。
まるで大地を滑るような滑らかな足取りで、地面を軽く蹴ると、大きくジャンプをして宙に舞う。
頭上を飛ぶ鳥さえも追い抜くほどの速さで、風を切るようにして進んでいく。
リリカとレオンはその背中にしっかりとしがみつきながら、急ぎステラたちの待つ城の跡地へ向かっていた。
しばらくして、ようやく城跡が見えてくると、リリカの目に異様な光景が飛び込んできた。
ステラとセルフィが優雅に座り、まるで平穏なひとときを楽しむかのように、お茶を楽しんでいたのだ。
彼女たちの周りには白い甲冑を身につけた兵士たちが何十人も整列して見守っている。緊張感と穏やかさが入り混じった、なんとも奇妙な雰囲気が漂っていた。
「ニャアアア!」
チャチャが高らかな声で鳴き、その場の注意を一気に引きつけた。セルフィがチャチャの姿を認めると、片手を大きく振ってリリカとレオンを手招きした。
「こちらです、リリカ様、レオン!」
チャチャがリリカとレオンを乗せたままステラの元に駆け寄ると、ハーブティーの柔らかな香りが辺りに漂い、戦いの緊張感から一転、穏やかな空間が広がっている。
無邪気な少女のように見えるリリカが必死の形相でステラに駆け寄る。
「ステラ!急いで!」
「リリカ……どうしたの慌てて……?」
リリカは少し照れくさそうにしながらも、自分の身に起こったことを説明し始めた。
「えっとね、実はさっき泉でボーッとしてたら、とても大きな魚に引き込まれちゃって、そこでカワウソの魔獣に助けられたの。それで目が覚めたら、龍神になってて……」
ステラはその説明にさらに驚きながらも、リリカの話を黙って聞いていたが、ふと彼女の背後ちゃちゃに目をやり、背中の二人の兵士が重傷であることを悟った。
「リリカ、彼らは……」
リリカは慌てて答える。
「そうだった!この人たち怪我してるの。治してあげて!」
ステラは表情を引き締め、すぐに治癒の準備を始めた。
「エルン、この二人は?」
「はい、二人とも我が警備隊の隊員です……」
エルンは二人のあまりにも惨い傷を見て言葉を失った。
「重症ね。体中、熱傷で焼けただれている。間に合えばいいけど……」
そこへレオンがきてステラに事の成り行きを説明した。
「するとこれはサーガの血を浴びたのね。ただの熱傷ではないわね。龍の血は猛毒だと聞くわ。解毒もしないと……」
そしてセルフィは周囲の魔力を集中させて、ステラの治癒を助けるようにサポートを開始した。
ステラは二人の傷を治すために、静かにその場に膝をつき、彼らの体を慎重に観察した。
二人の顔は青ざめ、深く刻まれた傷跡が幾筋も体を覆っている。
彼らの胸が浅く上下するのを見ると、時間が無いことを悟り、ステラはすぐに治癒の準備に取りかかった。
彼女は手をゆっくりと体ににかざし、目を閉じる。
彼女の掌から淡い青白い光が優しく漏れ始め、空気が静かに震えるように感じられた。
光はまるで生き物のように二人の体へと流れ込み、傷口を優しく包み込んでいく。
彼女の顔には真剣な表情が浮かび、澄んだ水色の瞳が青白い輝きを帯びる。
彼女の長いまつげがわずかに震え、集中するほどにその光は一層強く、温かく、深く輝きを増していった。
二人の体を覆っていた痛みは少しずつ薄れていき、傷口がゆっくりと閉じていくのが目に見えてわかるほどだった。
青白い光が皮膚の裂け目に沿って浸透し、まるで花が咲くように滑らかな肌へと再生されていく。
彼女は交互に片手で額に触れ、もう片方の手を胸元に添えて魔力を送り続けた。
その穏やかな手つきと温かさに、二人の表情も徐々に安らいでいく。
ステラは治癒の魔法に集中するほど、その光は彼らの体内に深く染み渡っていく。
青白い輝きが、血管や筋肉、そして骨にまで浸透し、全身を浄化するかのように癒していく。
外傷だけでなく、戦闘によって疲れ果てた彼の体内に残る魔力の乱れも次第に整えられていった。
「もう少しで終わるわ……安心して」
ステラが囁くように声をかけると、その声はまるで風に乗って周囲の兵士達の耳にも届き、彼を安心させた。
二人の傷が完全に治るまで、ステラは休むことなく魔力を送り続けた。
その過程で彼女の額にも汗が滲み始めたが、彼女は一切気にすることなく、最後のひと滴まで慈しみを込めて癒しの光を送り続けた。
表情は穏やかで、呼吸が深く、安定していく。
ステラの手の下で、彼らの命の鼓動が確かに強さを取り戻しているのを感じた瞬間、ステラは安堵の微笑みを浮かべた。
彼女は静かに手を引き、二人の顔を見つめながらゆっくりと立ち上がった。
「もう大丈夫!」
その言葉に歓声が起こり、リリカはホッと胸を撫でおろした。
ステラは、リリカとレオンが運んできた重傷のカガリとカズチに治癒魔法を施す。青白い光が彼らの体を包み込み、魔力が傷に浸透していく。彼らの体が治癒していくその様子を見て、リリカたちも安堵の表情を浮かべる。やがて治療を終えたステラが「もう大丈夫」と告げると、その一言に周囲の兵士たちから歓声が上がり、リリカもほっと胸を撫でおろすのであった――。




