第158話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の三十二
ステラとセルフィが温泉で疲れを癒している間、リリカとレオンはチャチャに乗って夜の散歩に出かけることにした。
森は静寂に包まれ、遠くからは夜風に揺れる木々のざわめきがかすかに聞こえる。
スカイポプラの光が木の間から洩れ、足元の草を照らしていた。
「今日は本当にいろいろあったね」
とリリカが穏やかな表情でつぶやいた。
「ええ、リリカ様。まさに一日中が戦いの連続でしたが、今こうして静かな夜を迎えられているのは、まるで夢のようです」
とレオンも微笑みながら頷いた。リリカも笑みを浮かべ、レオンに視線を向ける。
「ねえ、レオン、あの先に何か光が見えない?」
リリカが指差す方を見て、レオンも目を凝らした。確かに、遠くに淡く光る何かが見える。レオンは少し驚きながらも、その光の正体を確かめようと歩を進めた。
「確かに……淡い光が見えますね。近づいてみましょう」
光の方へ歩を進めると、森の中に小さな開けた場所が広がっていた。
そこでは無数の蛍が舞いながら淡い光を放ち、辺りを幻想的に照らしている。
青白い光は空と一体化するように夜の空気に溶け込み、その美しさにリリカは目を輝かせて声を上げた。
「わあ、綺麗……!」
レオンも驚きと共に静かに見守り
「まるで私たちを歓迎してくれているようですね」と呟いた。
リリカはチャチャの背から軽やかに降り、蛍の光にそっと手を伸ばして触れようとする。
ふと耳を澄ませると、かすかに水が流れる音が聞こえた。
「ねえ、レオン。水の音が聞こえない?」
リリカの言葉に、レオンも耳を澄ませて聞き入る。静かな夜の中、確かにささやかに水の流れる音が聞こえてくる。
「本当ですね……あちらの方からです」
二人が音の方向へと慎重に進むと、草むらの奥に古びた小さな石造りの門が見えてきた。
蔦が門を覆い、長い年月がこの場所を隠すように守ってきたかのような姿で立っている。
リリカとレオンは不思議な気持ちでその門をくぐり抜け、奥へと進んでいく。
すると、そこには青白く輝く泉が静かに湛えられていた。
泉は月光をそのまま吸い込んだような幻想的な輝きを放っている。
リリカはその美しい泉に惹かれるように歩み寄り、縁にそっと手を伸ばした。
「冷たい……」
泉の水に指先が触れると、ひんやりとした感触がリリカの手を通じて伝わってくる。
彼女はそのまま静かに水面に手を浸し、波紋が静かに広がっていくのを見つめた。
その瞬間、リリカの腕に突然、強い衝撃が走った。
「……えっ!」
彼女が驚いて顔を上げると、手に何か重いものが食らいついているのに気づく。
大きな魚のような形が彼女の腕にしがみつき、ぐいぐいと引っ張っているのだ。
体が小さくなってしまったリリカは、その強さに抗えず、気がつくとそのまま水中に引きずり込まれていった。
チャチャが警戒の鳴き声を上げ、警戒するように四肢を低く構えた。
あたりに緊張が走り、レオンもすぐさま剣を抜いた。
レオンが周囲を見渡すと、二人の黒い影が森の闇からゆっくりと現れた。
彼らは両手に斧のような武器を構えている。
レオンはすぐに剣を構え、その正体を確かめるように目を凝らした。
その影は人のような姿をしていたが、どこか違和感を覚える。
「まさか、ここに人が」
レオンは驚きを感じつつも、この敵を倒さねばならないと覚悟を決め、剣を握り直した。
敵は無言でレオンを見つめ、徐々に間合いを詰めてくる。彼らの目には敵意が宿り、冷ややかな視線が感じられた。
レオンは剣を振りかざして敵に向かって突進した。
彼の剣は鋭く輝き、勢いよく振り下ろされる。
しかし、敵も素早く反応し、身軽な動きで避けると、すかさずレオンに攻撃を仕掛けてきた。
互いに攻撃を繰り返し、激しい戦いが繰り広げられる。
レオンの剣が相手の鎧に当たり、鋭い音が響き渡る。
相手も一瞬の隙を狙って鋭い爪を繰り出し、レオンの肩にかすり傷をつけた。
「くっ……速い!……お前たちは何者だ?」
レオンの問いかけに、影は無言で返事をせず、ただこちらをじっと見据えていた。
だがその姿を見つめるうち、レオンは相手の頭から猫耳のような形が見え隠れしているのに気づく。
「まさか、猫耳……だと?」
レオンが困惑を隠せないでいると、二人の仮面の者は構わず間合いを詰めてくる。
「チャチャ、準備はいいか?」
チャチャは力強く頷き、レオンの傍らで低く唸り声を上げ、いつでも飛び掛かれるように構えをとった。
レオンが覚悟を決めた瞬間、一人の仮面の者が瞬時に動き出し、レオンに向かって鋭い爪のような手を繰り出してきた。
レオンはすぐに反応し、剣でその攻撃を受け止めようとしたが、その力は並外れて強く、衝撃に弾かれて一歩後退してしまった。
「くっ……なんて力だ……!」
もう一人の仮面の者もその隙を見逃さず、チャチャに向けて奇妙な動きをしながら近づいてきた。
チャチャも負けじと飛びかかり、その前脚を使って相手の顔に狙いを定めたが、相手は素早く身をひるがえし、仮面に傷一つつけることなく攻撃をかわした。
その攻防の中で、レオンは再び剣を構え直し、仮面の者の隙を狙って鋭い突きを繰り出した。
だが、相手はその突きをひらりと身をかわし、逆に背後を取ろうとする。
「素早いな……!」
レオンは反応を遅れさせず、すぐに回転しながら横薙ぎの一閃を繰り出した。
仮面の者はわずかに後退し、攻撃を避けるが、その動きはレオンの実力を試すかのように慎重で、直接的な反撃には移らない。
その動きに、レオンはふと疑念を抱いた。
「……まさか、こちらの実力を測ろうとしているのか?」
レオンは相手の様子を冷静に観察し、ただ攻撃を繰り返すのではなく、状況をじっくりと見極めようと構えを崩さずにいた。
だが、その時、背後から別の気配がするのに気づいた。
すかさずチャチャが威嚇するように吠えたが、その瞬間には二人の仮面の者の姿はすでに闇の中へと消えていた。
森に静寂が戻り、レオンとチャチャはその場にただ立ち尽くす。
彼らの気配は完全に消え去っていた。
「消えた……?」
レオンは剣を納め、深く息をつきながら冷や汗を拭う。
「何者なんだ……なぜ、猫耳を持つ者がここにいるんだ?」
レオンが息を整え、森の奥に目をやりながら呟いた。
振り返りると、そこにいるはずのリリカの姿が見当たらない。
レオンは先ほどの闘い以上の焦りを感じた。
「リリカ様……!」
レオンは必死で泉の周囲を探し始めたが、リリカの姿も気配も見当たらない。
泉は静かに光をたたえたまま、まるで最初から何もなかったかのように静まり返っているだけだった――。




