第155話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の二十九
リリカ、セルフィ、そしてレオンは、激しい戦いを終えたばかりのステラの姿を見つめ、ただ立ち尽くしていた。
その場の空気には緊張の余韻が残り、彼女たちの息づかいだけが静寂の中に響いていた。
目の前に広がる戦場跡、そこに佇むのは、たった一人でナーガに打ち勝ったステラだった。
彼女の周囲には、なお残る魔力の余波が揺らめき、戦いの壮絶さを物語っていた。
静寂の中でリリカが真っ先に駆け寄り、続いてセルフィとレオンも、敬意を抱きつつステラの元へと急いだ。
セルフィは特にステラの左腕を気にかけていた。
戦いの最中に負った傷が、尋常ではないものだったことを彼女は目の当たりにしていたからだ。
セルフィが恐る恐る確認すると、ステラの左腕は奇跡のように回復しており、傷痕さえ残っていない。
彼女はほっとしたように安堵の息を漏らした。
「ステラ様、大丈夫ですか? あんな大怪我だったのに、痛くなかったんですか?」
とセルフィが心配そうに問いかける。
ステラは少し微笑んで、軽く肩をすくめた。
「大丈夫よ、セルフィ。私の体は、自動的に痛みを遮断して、傷も治してくれるみたいなの」
彼女の言葉を聞いたセルフィは改めて驚嘆の表情を浮かべ、ステラの力に尊敬と疑問を抱いた。
そんなセルフィの様子を見たリリカも、すぐさまステラに尋ねた。
「ねえ、ステラ。結局ナーガはどうなったの? 完全に消滅しちゃったの?」
ステラは少しの間思案してから、ゆっくりと頷きながら答えた。
「そうね……厳密には、私が水龍を使ってナーガの魂を取り込んだの。ちょうどあなたがサーガを取り込んだのと同じように、魂を通して繋がっているような状態になったわ」
この説明に、リリカの瞳が興味深そうに輝いた。
「じゃあ、ナーガとおしゃべりしたり、ナーガの能力も使えるの?」
ステラは微笑みながらも、少し考え込むように曖昧に首を傾げた。
「正直、今はまだ分からないわ。ただ、ナーガは私をヒミコと勘違いしていたみたいだし、完全に力を引き出すには、これから対話していく必要があるかも。でも、彼の魂が水龍を通して私に繋がっているから、いずれは炎と闇の魔法を使えるようになる可能性は高いと思うわ」
セルフィはその言葉に目を見開き、感嘆の声を漏らした。
「そうすると、ステラ様は光、闇、火、水の四つの属性の魔法を扱えるようになるんですね。リリカ様は光、闇、火の三属性ですから……二人ともすごいです!」
その時、リリカの内に宿るサーガがふと口を開き、静かながらも重々しい声で補足した。
「いや、ナーガは雷の魔法も扱えるはずだ。だから、ステラは五つの属性の魔法を持つことになる」
サーガの言葉にステラも驚きを隠せず、少し感謝の気持ちを込めてリリカに向かい微笑んだ。
「そうなのね、ありがとうサーガ」
続けてサーガはステラに語りかける。
「礼を言う。ステラ……。ナーガの魂を浄化せずにその身に宿し救ってくれた」
ステラは一瞬遠くを見つめるように視線を逸らし、軽く息を吐いた。
「最初はサーガの弟だし、説得してから取り込むつもりだったけど……。ナーガがいきなり激しく攻撃してきたから、正直、怒りを感じていたのも事実よ。でも……もし私が直接手を下してしまえば、その感情を抑えきれなくなる可能性があった。だから、代わりに水龍に任せたの。冷静に判断してくれる存在を通じて、ナーガの力を封じることにしたのよ」
リリカとセルフィは、ステラの言葉に彼女の判断力と自制心の深さを感じ、改めてその強さを敬った。
セルフィはさらに小さく息を飲み、ステラの成長を実感しながらも心からの称賛を漏らした。
「ステラ様、やはりあの水龍は……以前にも増して強くなっているんですね」
と、感嘆の表情を浮かべながら続ける。
ステラは穏やかな微笑を浮かべ、少し誇らしげに自信に満ちた表情で答えた。
「そう、最近は特に水龍が力を増しているのを感じていたの。だから、ナーガくらいの相手なら勝てるかもしれないって、任せてみたのよ。本当に、うまくいって良かったわ」
リリカも満足そうに頷きながら、戦いの結末に安堵の表情を浮かべ、ステラに感謝を示した。
「ステラ、本当にお疲れ様。」
セルフィも続けて声を震わせながら感謝の言葉を述べた。
「本当に……すごいです、ステラ様……私たちは、あなたの強さを見てただただ圧倒されるばかりで……」
彼女の言葉に、ステラは謙虚に微笑みながらも柔らかな表情で仲間たちに語りかけた。
「みんな、ありがとう。でも、これはまだ始まりに過ぎないわ。ナーガの魂を取り込んだことで、これから私も更なる力と向き合っていかなければならない」
その言葉に、仲間たちは静かに頷き、ステラの覚悟を受け止めた。
激闘を経てナーガを倒したステラの姿に、リリカたちは改めて彼女の強さを実感する。戦いの傷を治癒魔法で完全に癒したステラは、自身がナーガの魂を水龍を通じて取り込む事に成功する。それにより炎、闇、さらには雷の魔力を手にしたステラ。ナーガの魂を救い、己に取り込んだステラにの慈悲に、心から敬意を抱くサーガであった――。




