第153話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の二十八
「この魔法陣を解きし光の戦士よ。封印は解かれ、汝は克服する者なり。求めよ、さすれば与えられん！」
それは、まさにヒミコの声だった。光が少しずつ収まっていく中、彼女の姿は光の粒子となって消え去り、最後の言葉だけが空間に残るように響き渡っていた。
彼女の使命が完全に終わり、この先の役目をリリカたちに託したかのようだった。
祭壇には静寂と緊張、不安だけが残されていた。
リリカはその言葉に困惑しながら、小さく呟いた。
「何なの？何かすごく難しい事言ってた気がするんだけど…？」
彼女の表情には、ヒミコの言葉の意味を完全には理解できていない様子がうかがえた。
隣で様子を見ていたステラが、少し考え込んだ末に肩をすくめながら言葉を返す。
「つまり、私になんとかしろってことかしら？」
ステラの口元には微かに笑みが浮かび、その目には決意が宿っていた。
彼女は冷静さを保ちながらも、内心では大きな覚悟を決めたのだ。
セルフィもまた、その場の重苦しい空気に不安を覚えつつ、ふと目を伏せ、封印の解除についてつぶやく。
「でも、言ってましたよね……封印が解かれるって……」
「グラッ！」
突如として足元が激しく揺れ始め、大地が裂けるように振動が広がっていく。
石の床に大きな亀裂が走り、古城の一部が崩れ始めた。
まるで、世界そのものがヒミコの封印解除に抗うかのような、凄まじい力で揺れ続ける。
そして、その亀裂の奥から、巨大な影が徐々に姿を現した。
それは、龍――いや、それ以上の存在だった。
その巨大な体躯は龍の姿をしていながらも、純粋な魔力が集合して揺らめくその様子は、ただの生物を超えた神話の災厄そのものだった。
リリカはその圧倒的な大きさに目を見張り、思わず叫んだ。
「ステラ、あれ…何かすごく巨大な龍が出てきたんだけど！」
リリカの体内に宿る存在、サーガが重々しく低い声で答えた。
「あれは、我が弟、ナーガ…かつては龍族の長であった存在だ。今では私と同様、実体を持たないが、その体は純粋な魔力の塊として存在している。彼を倒すには封印するか、あるいは浄化する他に道はない」
サーガの言葉を聞き、ステラも冷静に状況を分析し、目の前の巨大な敵に対して揺るぎない決意を固めた。
彼女の心には仲間たちを守る覚悟があり、そのためには自分が犠牲になる覚悟もできていた。
「セルフィ、レオン！」
ステラは鋭い声で命じた。
「今すぐチャチャに乗って、この場を離れて！ここは危険すぎるわ！」
ナーガがその巨体を動かし始めた瞬間、周囲の空気が凍りつくように冷たく変わった。
その巨大な瞳は深紅に輝き、憎悪に満ちた視線でステラとリリカたちを見据えていた。
セルフィはその恐怖に一瞬ためらったが、次第に決意を固め、静かに頷いた。
「ステラ様、どうかご無事で！」
レオンと共に、チャチャの背に飛び乗り、その場から素早く離れ始めた。
リリカもまた不安な表情で立ち尽くし、サーガに頼るような視線を向けながら
「サーガ…あんなに大きな龍をどうやって倒せばいいの？」
と問いかけた。
しかし、ステラが振り向き、冷静に彼女に言い聞かせた。
「リリカ、今はみんなを安全な場所へ連れていくことが最優先よ。これは私にしかできない戦いのようだし、あなたの力を借りて戦わせるわけにはいかないの。命令よ、あなたもここから下がりなさい」
リリカは唇をかみしめながら、ステラの方に向かって声を絞り出すように叫んだ。
「でも、ステラが負けるなんて…そんなことありえないでしょ？！」
ステラはその言葉を受け、少しだけ微笑んだ。
「そうね…ありがとう、リリカ。それを信じて…私も全力を尽くすから」
彼女の微笑みは、どこか心強く、決意に満ちていた。
そして、ステラの目の前にはかつてヒミコが封じた超巨大魔法龍、ナーガが再びその威容を現し、立ちはだかっている。
ナーガの瞳は憎悪に燃え、激しい怒りをたたえてステラを見据えた。
その巨体は周囲の地面を揺るがせ、まるで全てを呑み込むような威圧感を放っていた。
その場にいるだけで空気が重くなり、圧倒されそうなほどの存在感だった。
ステラはじっとナーガの目を見据え、冷静に構えを整えた。
彼女の目には揺るぎない決意が宿り、ただの生物を超えたナーガに立ち向かう覚悟が滲んでいた。
ナーガは低く唸り、鋭い爪を振りかざしながらステラに突進してきた。
その一撃は、まるで地面そのものを砕くかのような破壊力を持っている。
ステラはその瞬間、冷静にジャンプしてナーガの一撃をかわし、彼の体に向かって光の矢を放った。
その光の矢はナーガの鱗にぶつかり、わずかに傷を与える程度だったが、彼女はその小さなダメージにも意味があることを感じ取っていた。
だが次の瞬間、ナーガの巨大な尾がステラの体を容赦なく捕らえた。
その尾はまるで山のような重さと力を持ち、ステラの細身の体を簡単に締め付ける。
ステラは一瞬、空中で身動きが取れなくなり、息を詰まらせた。
硬く、冷たい鱗が皮膚を通して感じられ、その圧倒的な力に体がきしむのを感じる。
「くっ……！」
ステラは鋭く息を吐きながら、何とかその尾から抜け出そうとしたが、ナーガの力は圧倒的だった。
ステラの体は次の瞬間、ナーガの尾の一振りによって宙を舞い、まるで小さな人形のように振り回される。
そして、ナーガの尾に叩きつけられるようにして、ステラは地面に向かって勢いよく投げ落とされた。
その衝撃は想像を絶するもので、ステラの体は地面に叩きつけられると共に、岩や土が激しく砕け散り、大きな衝撃波が周囲に広がった。
彼女は地面を何度も転がり、遥か後方へと吹き飛ばされていく。
転がるたびに、地面がひび割れ、粉々になった岩が舞い上がり、煙のように立ち昇った。
ステラはようやく止まると、荒れ果てた地面の上に横たわった。
鋭い痛みが全身を駆け巡り、彼女の視界はぼやけていく。しかし、ステラは歯を食いしばり、気力を振り絞って上体を起こそうとした。
彼女の体には傷が刻まれ、服も泥と血で汚れていたが、その瞳にはまだ戦意が消えてはいなかった。
ステラは仲間たちを避難させ、超巨大魔法龍ナーガとの壮絶な戦いに挑む。仲間たちを守るために、ナーガに立ち向かうステラ。ステラの意志を尊重し、見守るリリカ達。しかし、ナーガの圧倒的な力、巨大な尾の一撃でステラは地面に叩きつけられてしまう。彼女の無事を必死で祈るセルフィとレオン。だが以外にもリリカは落ち着いた様子でその戦いを見守るのであった――。
