第152話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の二十七
封印されてからの記憶は、サーガには残っていなかった。
彼が最後に覚えているのは、ヒミコが自らの力を使い、彼を封印した瞬間だった。
あのとき、彼女は壮絶な表情を浮かべていたものの、どこか安らかな決意を感じさせる佇まいだった。
彼女はサーガに向かって穏やかな笑顔を浮かべ
「大丈夫、私が最後まで見守っているから」
と静かに語りかけた。
その言葉を聞いたサーガは、彼女の強い意志に触れ、無念ではあるが従う覚悟を決めたのだった。
祭壇の前ではステラたちが慎重に古びた書物を調べていた。
セルフィは埃の積もった古い書物を丁寧にめくり、その一冊に何か奇妙な気配を感じて目を細めた。
「これは……」
呟きながら慎重にページを指でなぞり、最後のページにたどり着いたとき、彼女は驚きに目を見開いた。
その裏に、まるで古代の秘術が施されたかのような複雑な模様の魔法陣が隠されていたのだ。
「ステラ様、リリカ様、見て下さい!ここに何か……魔法陣が……」
傷んだ書物の表面に浮かび上がる魔法陣は、古代の象形文字と謎めいた模様で構成され、神秘的な雰囲気を醸し出している。
「この魔法陣、どんな力が秘められているのかしら……」
セルフィが興味深そうに呟くと、ステラが冷静に提案した。
「試しにこの魔法陣を展開してみましょうか。もしかすると、隠された情報や過去の記録が映し出されるかもしれない」
セルフィは頷き、リリカも興味津々で魔法陣の展開を見守ることにした。
ステラは本を手に取り、光を放つ魔法を軽く唱えた。その光が魔法陣に触れると、長い間封じ込められていた力が解放されるように、魔法陣がゆっくりと光を帯び始めた。
ステラは静かに呼吸を整え、手をかざして光魔法を練り上げ、魔法陣にそっとエネルギーを注ぎ込んでいく。
光が魔法陣の形に沿って流れ出すと、古い書物の表面からまるで生命が宿ったかのように光が広がり、徐々に魔法陣が完全な形で浮かび上がった。
瞬く間に光が広がり、部屋全体を眩しく包み込む。
セルフィとステラはその場に立ち尽くし、眼前に現れた異次元のような光景に目を奪われた。
光の中心に姿を現したのは、白い装束を纏った女性。
彼女は静かにそこに佇み、まるで時間を超えて現れた幻のような気高さを放っていた。
その鋭くも慈悲深い瞳、長く美しい髪がゆらりと揺れ、威厳に満ちていた。
その姿を目にしたリリカ、ステラ、セルフィ、そしてレオンは、驚きと敬意の入り混じった視線を向けた。
「……ステラにそっくりだわ」
リリカが小さな声で呟く。
そこに現れた女性は、ステラと瓜二つの容姿をしていた。
「ステラ様……いえ、このお方がヒミコ……」
セルフィは思わず息を飲み、目の前の光景に言葉を失った。
彼女の名前は古代の伝説として語り継がれているものであり、ヤマタイコクを守護した偉大な巫女だとされていた。
しかし、それは遠い昔の話のはずだった。
ヒミコは静かに彼女たちに視線を向けると、口を開いた。
「この記録は、龍を封印した後の私の行動を、未来に託すために残したもの。この地に再び災厄が訪れぬよう、どうか見届けてほしい」
その声はまるで風の囁きのように柔らかく、同時に揺るぎない意志が込められていた。
ヒミコの言葉が空間に響き渡ると、彼女の周囲には光の粒子が漂い、やがてさらに数人の戦士たちが現れ始めた。彼らは皆、ヒミコと同じ白装束を纏い、鋭い眼差しを持った気高き戦士たちだった。
彼らの姿からは、古代の戦場で数多の試練を乗り越えた者の覚悟と誇りが感じられた。
目の前の光景は、歴史の中で語り継がれた激闘そのものであり、彼らの表情には強い決意と使命が宿っていた。
「これより光と闇の禁術を発動する。我が命と、ここにいるすべての命をもって、龍族を滅する!」
ヒミコの宣言が響くと、戦士たちは静かに頷き、彼女を中心に円を描くように並んだ。
彼らの動きには、一切の迷いが感じられなかった。
そして、互いに視線を交わした瞬間、戦士たちは一斉に魔力を解き放ち始めた。
彼らの体は光の粒子と黒い瘴気となって天へと昇り、空全体が神聖な光と暗黒の瘴気で覆われる。
そしてその光の中に、不吉な黒い瘴気が混じり始め、光と闇が複雑に渦を巻いていく。
それはまるで、世界の理を超越した絶対的な力がその場に集まり、やがて天空に巨大な魔法陣が描き出された。
「ナーガ……これが私の最強の魔法。光と闇の混合魔法であり、この国を守るための最後の手段……」
ヒミコは静かに、しかし揺るがぬ決意をもって呟いた。
彼女の目には鋭い光が宿り、口元には微かに悲しみが浮かんでいた。
魔法陣が激しく回転し始めると、そこから無数の光の矢が放たれた。
光の矢は次々と龍たちに襲いかかり、その巨大な体に深い傷を刻んでいく。
そして魔法陣から放たれた黒い瘴気は渦となって龍たちを次々とのみこんでいった。
遂に最後の一体、威厳に満ちた龍の姿が目立っていた――龍族の長であり、ヒミコが育てたサーガの弟、ナーガだ。
ナーガは怒りに満ちた瞳でヒミコを睨みつけ、その怒声が戦場を震わせた。
「ヒミコ!貴様が我らを封じるというのか!我ら龍族の誇りを汚す気か!」
ナーガは狂気を孕んだ声で叫び、膨大な力をもってヒミコに突進した。
圧倒的な力と怒りが渦巻く彼の姿は、まさに滅びの象徴のようだった。
だが、ヒミコはその怒涛のごとき猛攻に微動だにせず、冷静に彼を見据えていた。
「ナーガ、これ以上の血の流れは、兄サーガをも悲しませることになる。お前のやり方では、この地には無益な破壊と支配しか生まれない」
「黙れ!」
ナーガは激昂し、渾身の力をもってヒミコに襲いかかる。
その巨体と爪がヒミコを打ち砕かんと迫ったが、ヒミコは冷静にそれを見極め、ふわりとその一撃を躱した。
そして、静かに手をかざし、封印のための呪文を唱え始めた。
光と闇が一つとなり、圧倒的な力がナーガを包み込む。その力が、彼の動きを徐々に封じ込めていくのだった。
「ナーガ……私はお前を完全に消し去ることはしない。兄サーガのためにも、この地にお前を封じる」
ヒミコの声には、彼女がナーガに対しても慈悲を捨てられない思いが滲んでいた。
彼女は最後の呪文を唱え、ナーガを封じ込めるための祭壇に彼を縛りつける。
ヒミコの体から放たれる強烈な光が、ナーガの全身を包み込み、その姿はやがて霞のように消え去っていった。
そして、完全に封じ込められたナーガの姿は、祭壇の中で静かに眠りについたのだった。
戦いが終わり、ヒミコはその場に立ち尽くしたまま、ふと空を見上げた。
彼女の周りには、戦いを共にした戦士たちが静かに集まり、その眼差しは皆、彼女への感謝と敬意で溢れていた。
やがて、平和が訪れることを願いながら、ヒミコは再び国を再建するために生き残った者たちと共に立ち上がった。
彼女の使命は終わりではなく、ここから始まるものであり、人の未来を見守ることだった。
しかし、時が流れるにつれ、巨大な龍の絶滅もあり、ヤマタイコクの人々は少しずつ国を離れ、地上での新しい生活を選ぶようになっていった。
ヒミコは、その選択を見守り、最後まで彼らのために尽くした。
そして、自らの弟子たちにこの地を封印し隠すよう命じ、静かにその生涯を閉じたのだった。
彼女の最後の祈りは、未来の人々にこの地が守られることを託し、そして彼女は光の粒子となって消え去っていった。
映像が終わり、ヒミコの姿は再び光の粒子となって消え、魔法陣もゆっくりと消滅していった。
ヒミコがヤマタイコクと人々を守るために、最後まで戦い抜いた姿を目の当たりにしたステラ達。皆、ヒミコの犠牲と決意を知ることとなる。ナーガとの壮絶な対立を経て、彼を完全に滅ぼすのではなく封印する道を選ぶヒミコ。その慈悲は龍と人類の共存の可能性を示唆し、それに気が付くステラであった――。




