第150話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の二十五
リリカは書物に集中し、ページをめくる手が止まることなく続いていた。
何かに導かれるように、彼女の視界は次第にぼやけ、気づいた時には自分が別の場所にいることを感じた。
目の前にはヤマタイコクの街が広がり、人々が平和に生活している様子が見て取れる。
街は生命力に満ち、城や建物が立ち並ぶ中、猫耳を持った人々が忙しそうに行き交っていた。
だが、次の瞬間、スカイポプラが焼け落ち、空が不気味な暗雲に覆われ、黒い煙が街を吹き抜けた。
雲間からは重く鈍い音が響き渡り、街の人々が不安そうに空を見上げた。
そして、その不安が現実のものとなるかのように、巨大な影が天空のスカイポプラを突き破り、次々と姿を現した。
「龍だ……!」
それは、巨大な龍の群れだった。
赤く燃えるような目と、鋭い爪、鋭利な牙を剥き出しにし、威圧的な翼を広げていた。
龍たちは空を覆い尽くし、雄叫びをあげると一斉に街へと突進してきた。
瞬く間に、街全体が混乱と恐怖に包まれた。
「いや、いやよ、何、これ……!」
リリカは悲鳴を上げそうになりながら、目の前の惨状を見つめるしかなかった。
まさに地獄絵図のような光景。
龍たちは容赦なく街を襲い、建物を破壊し、逃げ惑う人々を次々と捕らえていく。
リリカの目の前で、無数の龍の咆哮が響き渡り、まるで地獄絵図のような光景が広がっていた。
人々は子供も大人も関係なく、龍の餌食となり、その爪や牙で蹂躙されていく。
子供を抱えながら逃げ惑う母親や、家族を守ろうと必死に立ち向かう父親、そのすべてが龍たちの残酷な力の前に無力だった。
「やめて……!お願い、やめて……!」
リリカは涙を浮かべ、目の前の景色を見つめるしかなかった。
これは幻であると頭で理解しようとしたが、現実のような恐怖と絶望が彼女を圧倒していた。
人々は風や水といった魔法を使って抵抗を試みるが、そのすべては龍の厚い鱗に弾かれ、傷一つつけることさえできなかった。
リリカの心の中には、深い無力感が広がり、絶望の闇に飲み込まれそうになっていく。
混乱の中、白装束の猫耳を持つ戦士たちが、街の中心へと集まり始めた。
彼らは龍と戦うために集まったようで、魔法や、武器を手に次々と龍たちに立ち向かっていった。
その中には、かつての巫女、ヒミコに仕えていたであろう精鋭たちの姿もあった。
「ヒミコ様を守れ!この街を最後まで死守するのだ!」
指揮官と思われる者が叫び、白装束の戦士たちは一丸となって龍の群れに立ち向かった。
戦士たちは必死に応戦し、何匹かの龍を倒すことにも成功していた。
だが、龍の数はあまりにも多く、その巨大な体躯と圧倒的な力には次第に押しつぶされていった。
傷つき倒れゆく仲間たちを見ながらも、戦士たちは最後まで諦めずに戦い続けた。
「ここまでか……全員、城に戻るのだ!最後の防衛線を張り、何としてもヒミコ様と城を守り抜くのだ!」
指揮官が再び号令をかけると、生き残った戦士たちは次々と城の方向へと撤退を始めた。
城の周囲には防衛のための結界が張られ、人々はヒミコを守るために最後の抵抗を試みていた。
大勢の民が城の周りに集まり、結界の内側に避難していたが、龍たちはその結界をも打ち破ろうと、次々と城に襲いかかってきた。
「お願い、どうかこの結界が守られますように……!」
リリカの視点からは、巫女たちが城の中で必死に祈りを捧げている姿が見えた。
ヒミコもまた、必死に民を守るために祈りと魔法を続けていたが、その表情には疲労と苦悩が浮かんでいた。
しかし、ついに龍の圧力により結界が崩壊し、城の内部にも龍の炎が侵入してきた。
青白い炎が城の壁をなめ、建物全体が炎に包まれていく。
人々は絶望の叫び声をあげ、龍の恐怖に飲み込まれながらも、必死に逃げ惑っていた。
その光景を見たリリカの心は張り裂けそうになり、叫び声を上げた。
「いや、いやよ!やめて、やめてぇ!」
しかし、その叫びも届くことはなく、リリカはただ地獄のような光景を見守るしかなかった。
城の結界も次々と崩壊し、龍たちの猛攻により、かつてのヤマタイコクの栄華は崩れ去っていった。
リリカはその絶望と無力感に耐え切れず、意識が遠のいていくのを感じた。
その時、ぼんやりとした視界の中で、誰かが彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
「リリカ!リリカ、しっかりして!」
その声は、ステラのものであった。リリカが目を開けると、そこには心配そうに見つめるステラの顔があった。
ステラは優しくリリカを抱きしめ、彼女の肩をそっと撫でていた。
リリカはその温もりを感じ、現実に戻ってきたことを実感した。
「ステラ……私……」
リリカは涙をこらえきれず、ステラの肩に顔を埋め、すすり泣いた。
あまりにも強烈な記憶、そして残酷な過去の映像が、彼女の心に深い傷を刻みつけていた。
だが、ステラはそんなリリカを優しく抱きしめ、何も言わずにその背中をさすっていた。
「リリカ、もう大丈夫よ。私がついてる」
ステラの言葉が、リリカの心に少しずつ安心感をもたらしていった。
過去のヤマタイコクの滅亡という恐ろしい光景を見せられたリリカだったが、今は目の前に仲間がいることを感じ、少しずつ冷静さを取り戻していった。
リリカは涙を拭いながら、少しずつ自分の中に眠る龍神の力が鼓動しているのを感じた。
彼女の中で何かが覚醒し、新たな力が静かに湧き上がってくるような感覚があった。
それは、かつての猫神とヤマタイコクの意志が、彼女の中で生き続けていることを示していた。
リリカは書物に意識を吸い込まれてヤマタイコクの壊滅的な過去の幻を目撃する。龍の襲撃による惨劇と無力感に打ちひしがれるリリカ。街が炎に包まれ、人々が逃げ惑う光景にリリカは絶望する。しかしステラの優しい抱擁により目を覚ますリリカ。ステラの温もりが彼女の心に安らぎをもたらし、新たな力を感じ取り始める。かつての猫神ヒミコとヤマタイコクの意志が、彼女の中で目覚めるのであった――。




