第137話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の十二
リリカは戦いの後、元気を取り戻したかに見えたが、新たに発動した闇のコアリスの影響なのか、体が一回り小さくなり、見た目は幼女ほどのサイズに変わってしまっていた。
彼女の着ていた戦闘用メイド服や下着はぶかぶかで、思わずセルフィは驚きの声を上げた。
「リリカ様、どうしたのですか!?その姿…!」
レオンも一瞬視線を逸らし、何とか目のやり場に困っていたが、すぐにセルフィが道具を使ってリリカに合う簡易な服を仕立て上げた。
その姿は、小さなリリカのかわいさを一層引き立て、ステラやセルフィ、さらにはレオンまでもが心を奪われるほどだった。
リリカはレオンを見上げて両手を上げると、無邪気にねだった。
「レオン、抱っこ!抱っこして!」
ステラとセルフィが羨ましそうに見つめる中、レオンは思わず
「よし、よし、リリカ様」
と微笑みながら彼女を抱き上げた。リリカはひょいとレオン肩に座ると、キャッキャと嬉しそうにはしゃぎ始める。
「キャハ!高い高い!」
と無邪気に笑うリリカに、たまらずステラが手を差し出すが、リリカは頑なにそれを拒否し、
「やだ!レオンがいい!」
と返した。その言葉に、ステラはかなり寂しげな表情を浮かべた。
「もう、帰ろうかしら……」
と小声で呟いたステラに、セルフィは慌ててフォローする。
「ステラ様、リリカ様はきっと高い場所が好きなんですよ。決してステラ様が嫌なわけではありませんから!」
ステラはその言葉に微笑んで、
「そうね、そうよね」
と涙目で応えた。
リリカがレオンに
「出発進行!」
と号令をかけると、猫耳魔法一行は再び歩き始めた。
遺跡の奥、静寂と緊張の中でリリカたち猫耳一行は、遺跡の奥深くへと足を進め、慎重に周囲を観察していた。
天空の魔法陣の効力が弱まっているのか? 遺跡の内部は本来の姿を取り戻しつつあった。
暗闇が支配するその空間は、息を潜めるように静まり返っており、一歩進むごとに足音がこだまする。
セピア色の壁には、歴史の深さを物語るようにいくつもの魔法陣や図案が刻まれていた。
それらは長い年月を経てもなお強力な魔力を感じさせる。
セルフィは、手にした古びた地図をじっと見つめ、眉をひそめた。
その地図は、彼女が王宮の図書館で見つけた遺跡に関する貴重な資料の一つで、謎の多いこの場所を導く唯一の手掛かりでもあった。
「このあたりが、どうやら遺跡の中心部のはずですが……肝心の魔石が全く見当たりませんね。」
セルフィの冷静な声が空間に響く。
リリカは周囲を見渡しながら、セルフィの指摘に頷き、目を細めて前方を見据えた。
光源もなく薄暗い視界の中で、古い壁や天井に刻まれた模様が、まるで彼らを見下ろすかのように感じられる。
ステラもセルフィの言葉に反応し、少し周囲を見渡して考え込んだ。
彼女の視線が鋭くなり、やがて静かに結論を口にする。
「遅かったようね。ここにあった魔石はすべて魔甲虫に食べられてしまったのかもしれないわ。先ほど遺跡から大量に飛び出してきたあれね。ただ、この先にはまだ魔石が残っている可能性もあるわ」
セルフィは慎重に頷く
「そうですね。あれば封印、破壊しないと」
そしてしばらく行くと、一行の前方に巨大な扉が現れた。
扉には複雑で精密な魔法陣が刻まれており、中央には一つの鍵穴が輝いている。
その鍵穴からは、微かに魔力の流れが感じられ、いかにも高位な魔法が施されていることが一目で分かる。
セルフィは扉の前で立ち止まり、興味深そうにその模様をじっと見つめた。
口元を引き締め、慎重に分析を始める。
「この魔法陣……鍵の役割はありません。おそらく、この扉を守る役割を果たしていると考えられます。鍵穴に鍵を挿し込めば解除されるようですが、安易に触れると罠が作動する可能性が高いです」
ステラも扉の模様に目を凝らし、真剣な表情で考え込む。
「つまり、この扉を開けるには、適切な鍵が必要ってことね。でも、鍵がなければここで足止めを食うしかない……」
レオンが険しい顔で近づき、冷静な声で言った。
「それでは、この鍵穴に合う鍵を探さないと通れないというわけですか?」
セルフィは地図を再度確認し、眉をひそめたまま考え込んでいたが、ステラが少しだけ肩をすくめ、小さく息を吐きながら微笑を浮かべた。
「そんな面倒なことをしている暇はないわ。」
セルフィとレオンが一瞬驚いた表情を浮かべ、ステラに目を向けると、彼女の体が次第に白い光の粒子と水しぶきに包まれていった。
その光はまるで純白の衣を纏わせるかのように彼女を包み込み、やがてその場に立っていたのは、純白のメイドアーマーを纏った神秘的な姿のステラだった。
その姿は一行の目を奪い、彼女が纏う輝きに皆が息を呑んだ。
「皆、私の後ろに!」
ステラは静かながらも威厳ある声でそう言うと、リリカやセルフィ、レオンは急いでステラの後ろについた。
ステラが扉に向かって一歩前に出ると、扉に刻まれた魔法陣が彼女の魔力に反応するかのように微かに振動を始めた。
ステラの手からは清らかな水が湧き出し、その水は力強く渦を巻きながら扉の魔法陣を包み込んだ。
周囲の空気が緊張に満ち、セルフィたちは息を詰めてその様子を見守っていた。
しかし、その瞬間、セルフィが突然叫んだ。
「お止めください、ステラ様!」
セルフィの声は鋭く響き、一瞬その場の空気を凍りつかせた。
ステラは振り返り、驚きの表情を浮かべながらセルフィを見つめる。
「どうしたの、セルフィ?」
セルフィは肩で息をしながら、必死な表情で言った。
「ステラ様、これ以上は危険です。この扉には、おそらく私たちの予想以上の罠が仕掛けられています。無理に力で突破しようとすれば、逆に強力な反撃を受ける可能性が高いです。」
セルフィは少し息を整え、冷静さを取り戻しながらステラに説明を続けた。
「もしこの扉が単なる封印であれば、ここまで強力な魔法陣を施す必要はないはずです。恐らく、この封印を無理やり解除しようとした者に対して攻撃魔法が働く可能性があります」
ステラはその言葉を聞き
「要は防御魔法が働かなければいいのよね?」
ステラが声をかけると、彼女は渾身の魔力を扉の鍵穴に向けて放ち、魔法陣がものすごい勢いで回転しながら粉々に砕け散った。
扉も同時に崩壊し、大きな穴が空いた。
セルフィとレオンはその圧倒的な魔力に驚愕し、息を呑んだ。
「ステラ様、あの魔法陣を無効化して破壊するなんて……」
セルフィが声を震わせる。
リリカもステラの力を目の当たりにし、目を輝かせて叫ぶ。
「ステラ、すごい!」
ステラは満面の笑みで
「ありがとう、リリカ」
とリリカの頭を撫でた。
扉の向こうに進むと、突然広がる大空間が目の前に現れた。その広々とした空間には異様な静けさが漂い、彼らはその先を慎重に見据えた。
「広い空間ね……?次の出し物は何かしら?」
ステラが呟いた。
その時、空間の中央に黒い瘴気の渦が現れ、そこから何十体もの甲冑を纏った騎士たちが姿を現した。
ステラは戦闘態勢を取り、前へ一歩踏み出すと叫んだ。
「行くわよ!」
彼女は先陣を切って甲冑騎士たちに向かおうとしたが、セルフィがすぐさまその前に立ちふさがり、強く言った。
「お待ちください、ステラ様!」
「セルフィ、邪魔しないで」
ステラがセルフィに冷たい眼光を向けたがセルフィはひるまなかった。
闇のコアリスの影響で幼児化し、体が小さくなったリリカは無邪気にレオンに甘え、その可愛さに皆心を奪われる。そして一向が進む先に巨大な扉が現れるが、ステラが魔法陣を無効化し破壊に成功する。扉の先には無数の敵が立ちはだかり、ステラが撃退しようとするも、必死で止めるセルフィ。彼女の予想外の行動に、動揺を隠せないステラとレオンであった――。




