第135話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の十
ザイラスが去った後、闇の騎士の分身三体がリリカの前に立ちはだかる。
リリカは苛立たしげに叫んだ。
「何なの、あいつ!訳の分からないことばかり言って、勝手に消えちゃうなんて!」
セルフィがすかさずリリカの横に立ち、剣を構えながら応じた。
「リリカ様、援護します!」
セルフィの脳裏に、以前この黒騎士の分身に倒された苦い記憶が蘇る。その屈辱が、今再び彼女の胸を締め付けた。
「私は……分身にさえやられた……」
セルフィはその悔しさを噛みしめる。
しかし、すぐに冷静さを取り戻した。
「分身でさえあの強さ……ザイラス本体の魔力は一体どれほどのものなのか。ここはリリカ様を支え、全力でサポートしなければ……」
セルフィとリリカは無言のうちに阿吽の呼吸で理解しあい、互いにうなずいた。
セルフィは一歩後退し、リリカが黒騎士と対峙する。
黒騎士たちの体からは、黒い瘴気が絶え間なく溢れ出し、眼球が赤く異様な光を放っている。
その不気味な光景に、セルフィは思わず足が震えたが、気を引き締め、風の槍を構えた。
セルフィは心の中で叫んだ。
「しっかりしなさい、私……リリカ様のために!」
一方で、リリカは冷笑を浮かべながら言った。
「三体ごときで、私に勝てるとでも思っているの?……なめないで!」
その言葉と共に、リリカの体は突然まばゆい光と赤い炎に包まれ、その姿が徐々に変貌していった。
彼女の全身は漆黒のメイドアーマーで覆われ、胸元には猫耳の紋章が輝いていた。
その黄金の瞳は赤く燃え、炎がその中でゆらめいていた。
その圧倒的な変貌に、セルフィとレオンは呆然と立ち尽くす。
まさにその姿は戦士そのもので、いつもの天真爛漫なリリカとは別人だ。
「リリカ……まさか、この姿……!」
セルフィが呟いたその瞬間、ステラが静かに言った。
「リリカは、この姿で黒騎士を粉砕したのよ……」
リリカは両手を広げ、その手の中に炎の剣を現出させた。
「ファイヤーブレード!」
剣を持っていないはずのリリカの手には、真紅の炎が形を成し、鋭い刃となった。
黒騎士たちは、三方から一斉に攻撃を仕掛けてきた。
鋭い剣を持った三体の黒騎士が、リリカを取り囲むようにして攻撃の間合いを詰めていく。
だが、次の瞬間、リリカの姿は忽然と消えてしまった。
「……リリカ様、消えた!?」
セルフィが焦りの声を上げる。
しかし、その瞬間、一体の黒騎士が悲鳴を上げ、背後からファイヤーブレードで貫かれた。
黒騎士はもがき苦しみ、次第に塵となって崩れ落ちていった。
「残り二体……」
リリカは薄ら笑いを浮かべ、残る二体の黒騎士をじっと睨みつけた。
「こんなに弱かったっけ?……六隠密を使うまでもないわね」
彼女はファイヤーブレードを消し、倒れた黒騎士の剣を手に取った。
その剣に呪文をかけると、赤黒い不気味な光が放たれ始め、剣は異様な姿に変貌を遂げていった。
「これが闇の騎士の力……?」
リリカはその剣を眺め、次第に自分自身の体が赤黒い瘴気に包まれていくのを感じた。
彼女の周囲に広がるその瘴気は、まるで生き物のようにうねり、彼女の全身を包み込んでいく。
「気持ちいい……」
リリカはその快感に酔いしれるように呟いた。
だが、その変貌に、セルフィとレオンは恐怖と困惑を隠せなかった。
「これ……いつものリリカ様じゃない……なんで黒い瘴気が……」
セルフィは言葉を詰まらせ、目の前のリリカを見つめた。
普段のリリカとはあまりに違うその姿に、彼女は恐怖を覚えた。
リリカが別の存在に変わってしまったかのようだった。
だが、その時、ステラだけが冷静にその場を見つめていた。
「とうとうこの時が来たのね……」
ステラは無表情でそう呟き、リリカをじっと見つめ続けた。
彼女は以前から薄々感づいていたのだ。
リリカは、闇の力に引き込まれるようにその剣を握りしめ、残る二体の黒騎士に向かってゆっくりと歩み寄った。
彼女の背中からは黒い炎が立ち昇り、その体は完全に黒い瘴気に包まれていた。
「さあ、終わりにしてあげるわ……」
その言葉と共に、リリカが腕を突き上げ叫ぶ。
「黒炎龍!」
黒い瘴気でできた大きな龍が現れ二体の黒騎士に絡みつき締め上げる。
リリカが突き上げた拳を握りしめた。
「終わりよ」
次の瞬間黒騎士たちは粉砕されて黒い瘴気となった。
黒い瘴気は黒炎龍と共にリリカの手のひらに吸収されていった。
セルフィ、レオンは恐怖で動けなくなっていた。
「リリカ様、待って!……それ以上は……」
リリカは天を仰ぎ、狂おしいほどの満足感に浸っていた。
しかし、その瞳にはもはや温かさも、光の慈しみも残っていなかった。
彼女は、完全に闇の力に目覚めたようだった。
セルフィはその光景を見つめ、恐怖に震えながら呟いた。
「リリカ様……あなたは、もう……」
彼女は信じられない思いで、変わり果てたリリカを見つめていた。
ステラがその場に歩み寄り、リリカの肩に手を置いた。
「大丈夫? リリカ」
「ステラ……」
リリカは一瞬、戸惑いながらも、ステラの言葉に応えるように微笑みを返した。
その笑顔には、まだ微かな光が残っていた。
だが、その一方で、闇の力がリリカを蝕んでいることは明らかだった。
セルフィとレオンは、そんな二人を見つめながら、ただ途方に暮れるしかなかった。
リリカが闇の力に目覚め、圧倒的な力を発揮しザイラスの分身を撃退する。彼女の変貌が、仲間たちにとっては恐怖と混乱を引き起こしつつも、ステラだけが冷静にその事実を受け入れていた。リリカの闇の力がどこまで進行するのか? そして彼女が再び光の側に戻ることができるのか? 見守ることしかできないセルフィとレオンは歯がゆさを感じるのであった――。




