第133話 ルクス・マギナ攻略作戦 ⁉其の八
セルフィの怒りは限界を超えていた。
目の前に立ちはだかるのは、黒焦げになりながらも瘴気をまとい立ち続けるリーダー格の魔人。
その姿は、リリカが倒された証として彼女を挑発しているかのように見えた。
「リリカ様の仇……！」
セルフィは全身が震わせ、風の槍を構えた。
彼女の手は力強く握りしめられ、槍にありったけの魔力を注ぎ込んでいく。
槍は青白い光を帯び、風が唸りを上げるようにしてその力を増幅していった。
「これで終わりにしてやる！」
セルフィは決意を込めて叫び、全身の力を込めて魔人に突進しようとした。
だが、その瞬間――
背後から何かが彼女に触れる感覚があった。
セルフィは驚き、心臓が一瞬止まりそうになった。
何者かが彼女に抱きついてきたのだ。
「セルフィ、慌てないで」
その声は、驚くべきことに聞き覚えのある声だった。
セルフィは目を見開き、驚きの声を上げた。
「リ、リリカ様……？」
「うん！また勝手に六隠密が発動しちゃったみたい。この通り、ピンピンしてるよ！」
セルフィは信じられない思いで周囲を見渡した。
しかし、リリカの姿はどこにも見当たらない。
リリカの声だけが耳に響いていた。
「あ……見えないか」
リリカの声には、笑いが含まれていた。
「魔人の瘴気を粉砕して、口の中に火炎龍をぶち込んでやったの！」
その言葉の直後、魔人は苦痛の咆哮を上げた。
その巨大な体が突然痙攣し、口の中から炎の光が漏れ始めた。
それは徐々に大きくなり、やがて彼の全身を内側から突き破って、火炎龍が宙を舞った。
「すごい……！」
セルフィは目を見開いたまま、炎が魔人の体を貫く光景を呆然と見つめていた。
火炎龍が魔人の体内から放たれた直後、魔人の巨体は徐々に崩れていった。
やがて、全身が黒い塵となり、風に舞い散って消えていく。
重苦しい瘴気が消え去り、辺りには静寂が戻った。
セルフィはその光景に圧倒され、放心したままその場に立ち尽くしていた。
だが、その静けさの中で、ようやく安堵の息を吐いた。
「やったのね……リリカ様が……！」
セルフィはようやく、リリカの無事を確信した。
無事に戦いを終えたことを喜び、リリカの凄まじい力を実感していた。
その時、突然リリカの姿が目の前に現れた。
彼女はいつものように軽やかに立ち、微笑みを浮かべていた。
「いやあ、六隠密がやっととけたね、ちょっと大技を試してみたんだけどね、うまくいったみたい！」
リリカは軽快に笑いながら、自分の手を見つめていた。
「それにしても、この剣……もう使えないね」
リリカの持っていた剣は、完全に焼け焦げており、かつての威力を持つ武器とはほど遠い状態だった。
リリカは剣を手に取り、肩をすくめた。
「うう、メルヴィルさんに怒られないかな……」
セルフィはリリカの無事に安堵しつつも、剣の状態を見て苦笑した。
「王宮御用達の魔法具ですよ、これ以上の法具は存在しません。リリカ様がすごすぎるんです。でも無事でよかったです、本当に……」
セルフィの声には、涙が混じっていた。
あまりに緊張が続いた戦いの中で、ようやくリリカの無事が確認できた瞬間、彼女の感情が一気に溢れ出したのだ。
リリカはセルフィの頭に手を置き、優しく微笑んだ。
「ありがとう、セルフィ。でも、これで終わりじゃないわよ。
まだ先があるから、気を引き締めていかないと！」
リリカは自信に満ちた笑みを浮かべ、周りを見渡した。
するとレオンがこちらに手を振りながら駆け寄って来るのが見えた。
「リリカ様！セルフィ！」
「もう、本当に子供みたい。レオンったら」
ステラ、チャチャもそれに続き勝利の喜びをわかちあった。
「リリカ、セルフィよくやったわ」
とステラが褒めたとたん、リリカはステラに抱きついて甘えだした。
「ねえ、ねえ？ステラ、もっと褒めて！」
するとステラはリリカの猫耳を優しく撫でて、その耳元に優しく囁いた。
「私のかわいいリリカ。よく頑張りました。戦うあなたは最高に素敵だったわ」
リリカは満面の笑みで
「ありがと！ステラ！」
とステラに頬ずりした。
そんな二人のやり取りを見守っていたセルフィは思った。
「はあ、私もステラ様に抱きつきたい。耳元であんな風にささやかれたら……。いっそリリカ様になりたい……」
そんなステラとリリカを羨望の眼差しで見つめるセルフィを見て、レオンは思った。
「あれだけの死闘を繰り広げて……なんか女子会みたいになってる……猫耳三姉妹恐るべし！」
セルフィは絶望的な状況に直面しながらも、リリカの敵討ちのため魔人に立ち向かおうとする。だがリリカは「六隠密」の能力を発動し消えていただけだった。安堵するせるをよそに、驚異的な力で魔人を討ち倒すリリカ。今は目の前にいる戦闘メイドと化したリリカと、いつもの天真爛漫な甘えん坊のリリカに、なぜかギャップ萌えしてしまうセルフィであった――。
