第124話 二人の世界⁉明日への誓い!
朝陽が高く昇り、城を後にする王宮の馬車は静かに国境へと向かっていた。
朝の冷たい風が頬を撫で、澄んだ空気が馬車の窓から心地よく流れ込んでくる。
その中、アレクとステラは向かい合って座り、柔らかな光の中で微笑みを交わしていた。
馬車の中は、二人だけの穏やかな空間。
アレクはステラの顔をじっと見つめ、ステラもまた、その視線を優しく受け止めていた。
「こんな風に、ただ一緒に過ごす時間を持てるなんて、最近は本当になかったわね」
と、ステラが静かに笑みを浮かべながら呟いた。
アレクはその言葉に頷き、ステラの手をそっと握った。
「そうだね。君とこうして穏やかな時間を過ごすことが、どれだけ大切か改めて感じているよ」
ステラの手を握りしめたまま、アレクは優しく彼女の目を見つめた。
「私も、アレクとこうして一緒に過ごせることが、どれほど貴重かを感じているわ。任務が続くと、ついつい忘れがちになってしまうけれど、こういう時間があると心が癒されるの」
と、ステラは穏やかに答えた。
窓の外には、美しい田園風景が広がり、風が優しく草原を撫でていた。
鳥のさえずりが微かに聞こえ、まるで二人のためだけに奏でられる音楽のように感じられた。
「本当だな……まるで、世界が二人だけのものになったみたいだ」
とアレクは感慨深げに言った。
ステラはその言葉に微笑み、そっと頷いた。
「そうね……」
馬車は静かに進み、アレクとステラはそのゆっくりと流れる時間の中で、自然と会話を交わすようになった。
「ステラ、絶対に無事で帰ってきて。」
アレクは真剣な表情で、ステラに語りかけた。
彼の言葉には、彼女を守りたいという強い思いが込められていた。
ステラはその言葉を聞いて、一瞬考え込んだ後、優しくアレクの手を取り返した。
「アレク、ありがとう。あなたが私のことを心から心配してくれているのはよく分かるわ。でも、私は大丈夫よ。リリカもセルフィも一緒にいるし、私たちはしっかりと準備をしてきたわ」
ステラの言葉は、自信に満ちていた。
アレクはその強さを感じつつ、同時に彼女への愛情と心配が募った。
「君がそう言うなら、僕も君を信じるよ。でも、無理だけはしないでくれ。君が無事でいることが、僕にとって一番大事なことだから」
とアレクは静かに言い、ステラを見つめ続けた。
ステラは彼の言葉に微笑み
「ありがとう、アレク。私もあなたのことを思って頑張るわ」
と、彼の手を優しく握り返した。
その後、二人は言葉少なに、ただお互いの存在を感じながら、馬車の中での静かな時間を楽しんだ。
アレクは、ステラが話す次の任務について、時折真剣な表情を見せながらも、彼女の強さと決意に安心感を覚えていた。
ステラはそんなアレクを見つめながら、少し照れくさそうに笑った。
「でも、あなたがこうして心配してくれるのは、正直嬉しいわ。私のために、こんなにまで気を遣ってくれて」
アレクは少し恥ずかしそうに頷き、
「僕にとって君は……大切な存在だからね」
と小さな声で言った。
そして、アレクは懐から小さな箱を取り出し、ステラの前に差し出した。
「ステラ、これを君に渡したかったんだ」
ステラは驚いた顔でアレクを見つめ
「これは……?」
と尋ねた。
アレクは箱を開け、中から美しいペンダントを取り出した。
「これは僕の母が大切にしていたお守りだ。魔法で防御の力が付与されているんだ。君が危険な任務に出るとき、少しでも僕が君を守れる気がして……」
ステラはそのペンダントを見つめ、感動のあまり一瞬言葉を失った。
「アレク……ありがとう。本当に大切にするわ」
アレクはステラの首にペンダントをかけた。
その重みとともに、アレクの温かな気持ちがステラの胸にしっかりと刻まれた。
「君が無事に帰ってくることを心から願ってるよ」
とアレクは優しく言い、ステラの手をしっかりと握った。
ステラはその手を握り返し
「必ず無事に戻るわ。そして、またこうして二人きりで会いたい」
と微笑んだ。
アレクとステラの会話が一段落すると、静かな空気が二人を包み込んだ。
ステラはアレクの隣に座り、彼の肩にそっと頭を預けた。
心地よい揺れの中、アレクは優しくステラの猫耳に手を伸ばし、そっと撫で始めた。
ステラは目を細めながらその心地よさを感じていた。
アレクの手が優しく猫耳を撫でるたびに、身体中に微弱な電気がはしり心地よかった。
そして穏やかな気持ちが広がっていく。
彼のぬくもりが感じられるたびに、ステラは自分が守られていることを再確認するかのように、さらに彼に寄り添った。
「猫耳って不思議ね。こうやって撫でられると、安心するの」
と、ステラは冗談交じりに呟いた。
「そうかい? これからもいっぱい撫でてあげるよ」
と、アレクは笑って、猫耳を撫で続けた。
二人はしばらくそうして寄り添い合い、静かに揺れる馬車の中で時がゆっくりと流れていった。
目を閉じたステラは、彼のぬくもりを全身で感じながら、心の中でアレクに対する深い感謝を感じていた。
「アレク、ありがとう。こうして一緒にいられること、本当に嬉しいの」
「ステラ、僕こそ、君に感謝している。君が隣にいると、どんな困難も乗り越えられる気がするよ」
と、アレクは真剣な表情で答えた。
その言葉に、ステラは胸が温かくなり、彼の顔を見つめる。そして、彼女はアレクの手を取り、ゆっくりと唇を寄せた。自然と二人の距離が縮まり、唇が重なる。
馬車の揺れとともに、二人のキスは長く深いものとなり、すべての時間が止まったかのように感じられた。その静かなひとときが、二人にとってどれほど貴重で、特別なものであるかを、改めて感じさせた。
二人は顔を少し離し、再び見つめ合う。
その視線の中には、言葉では表現しきれない、深い絆が感じられた。
「ステラ、僕はいつも君のことを想っているよ。どこにいても、君が大切だという気持ちは変わらない」
「私もよ、アレク。どんなに遠くにいても、あなたのことを想っているわ」
馬車が国境に到着すると、ステラはチャチャとともに馬車を降り、アレクの手をしっかりと握りしめた。
「アレク、ありがとう。公務がんばって!」
と言い、最後にもう一度彼を見つめて微笑んだ。
「どうか無事で……」
別れ際、二人は自然に見つめ合い、ゆっくりと顔を近づけた。お互いの温もりを感じながら、そっと唇が重なり、静かなキスを交わした。
アレクとステラは国境への旅路で甘いひと時を過ごす。アレクは母から譲り受けたペンダントをステラに贈り、彼女の無事を祈る。帰路に就くステラはぎゅっとそのペンダントを握りしめた。その顔つきはすでに戦士の顔そのものであった――。




