第110話 セルフィの帰還⁉リリカの懺悔!
セルフィが猫耳ハウスに戻ると、ステラが玄関で出迎えてくれた。いつもと変わらないステラの落ち着いた笑顔が、セルフィの心に安堵感を与えた。
「セルフィ、おかえりなさい。お疲れ様。レオンはどうだった?」
ステラは少し心配そうに聞きながらも、期待を込めた目でセルフィを見つめた。
「ありがとうございます、ステラ様。レオンはもうすっかり良くなりましたよ。ガレット団長の指示で、しばらく自宅で休養することになりましたけど、食欲もあるし、元気そうでした。」
「そう……それはよかった」
ステラはほっとした表情を浮かべ、胸を撫でおろした。
そのとき、ふらふらとリリカが現れ、眠そうな顔をしてセルフィに駆け寄ったかと思うと、突然彼女に抱きついてきた。
「セルフィ、おかえりなさい!」
リリカは抱きつきながら、何か込み上げてきたものを抑えられなかったのか、目には涙が浮かんでいた。
「リリカ様……どうしたんですか?」
珍しく涙ぐんでいるリリカを見て、セルフィは驚き、そして少し戸惑った。
それでも彼女の頭を軽く撫で、少しでも彼女を落ち着かせようとした。
しかし、リリカは涙を拭いながらも、何も言わずに笑顔を見せただけだった。
「あの、二人ともお腹は空いてませんか?今すぐ夕飯を準備しますね。それと、お風呂も沸かしておきますので、夕飯の前にいかがですか?」
セルフィはすっかり猫耳ハウスのメイドの顔つきになり、さっそく家の中で忙しなく動き始めた。その手際の良さに、ステラは感心したように頷いた。
「さすが、セルフィね。やっぱりあなたがいると、家の中が急に回りだす感じがするわ。」
ステラはそう言うとリリカを背後から抱きしめた。
「それじゃあ、リリカ、先にお風呂に入りましょうか?」
ステラはリリカの耳元で優しく囁いた。
「うん……そうする。」
リリカは目を真っ赤に腫らしながらも、ステラと共にお風呂に向かった。
セルフィはその間に夕飯の準備を手際よく進めていく。
「今日は特製ビーフシチューですよ。実は、レオンのお母さんがお礼にと持たせてくれたんです。それに、孤児院の子供たちが焼いたパンもありますよ。こんがり焼いたパンシチューに付けて食べてるんです。本当に美味しいですよ!」
セルフィの声が響くと、浴室から顔を覗かせたリリカが、目を輝かせた。
「わあ、おいしそう!」
さっぱりとお風呂から出たリリカは、すっかりいつもの元気なリリカに戻っていた。
セルフィは少し気になっていたが、リリカが元気を取り戻したことに安堵した。
その時、チャチャが足元に擦り寄り、愛らしくおねだりをしてきた。
「チャチャ、今日はごちそうだよ!」
セルフィが笑顔で言うと、チャチャも嬉しそうに小さく鳴いた。
食事が終わると、ステラとリリカが片付けを担当し、セルフィはお風呂に入ることにした。
ステラが
「なるべくセルフィを手伝おう」
と提案してくれたことで、二人は積極的に家事を分担するようになったのだ。
お風呂から上がったセルフィが寝室に入ると、ステラとリリカが待っていた。いつものように三人で女子会を始めると、リリカが少し不安そうな表情を浮かべながら口を開いた。
「セルフィ……今日、謝らなきゃいけないことがあるの。」
「謝る?……何のことですか?」
セルフィは驚きながらも、穏やかに尋ねた。ステラが優しくリリカを促すように微笑んで言った。
「リリカがセルフィにどうしても謝りたいことがあるみたい。聞いてあげて。」
リリカは一瞬、迷いながらも、意を決して話し始めた。
「今日ね、朝に孤児院へ行ったんだ。それで、昨日の六隠密の訓練で調子が良かったから、セルフィを驚かせようと思って、気配を消してみたの。最初はうまくいって、光の粒子で身体を包んでみたら誰にも見つからなくて、確かめたら透明人間になってて、思わず『しめしめ』って思ってね……」
リリカは少し息を整え、恥ずかしそうに視線を落とした。
「それで、セルフィを探して診察室に行ったの。そしたら……レオンとセルフィが一緒に寝てるのを見ちゃって……それだけじゃなくて……その……キスしてるのも見ちゃったの……」
セルフィは驚いて、思わず顔を赤くした。
「えっ……透明?……え?……そんなところまで見られてたんですか……?」
リリカはますます申し訳なさそうにうつむいた。
ステラが優しくフォローに入った。
「リリカには悪気はなかったのよ。彼女も、驚かせようとしたら逆にびっくりしちゃったみたいなの。それで、固まっちゃって……」
今度はステラが申し訳なさそうに言った。
だが、セルフィはすぐにリリカの手を取り、優しい声で答えた。
「リリカ様、気にしないでください。そんなことで泣かないでください。もともと、二人には話すつもりだったんですから、私の方こそ気が付かなくて、ごめんなさい。」
するとステラがすかさず
「聞いて、一番悪いのは私よ。ちょっと忙しいからって、リリカを一人で行かせた私に責任がある!」
「そんな、ステラ様、私がリリカ様に気が付いていればこんな事には!」
二人の言い合いにリリカは驚き、目をぱちぱちと瞬きした。
「セルフィ?……怒ってないの?」
「もちろんです。それよりもリリカ様!透明ってどういう事ですか?そちらの事の方が重要なのでは?ステラ様!わたしなんかのことより……」
セルフィがいきなり興奮して捲くし立てるので、ステラとリリカは呆気にとられてしまった。
その様子を見てセルフィは我に返り、その顔を少し赤く染めた。
「二人とも、この話はもうおしまい!だれも悪くないってことでいいわね?リリカ?セルフィ?」
とステラが言うと、リリカとセルフィは笑顔で頷いた。
「それじゃあセルフィ?レオンと何があったのか、私にだけ教えてくれる?リリカは一部始終を見て知ってるみたいだから」
とリリカに視線を送りながら囁いた。
「ええっ!?」
と、リリカは驚きの声をあげながらも、すぐに拗ねた表情に変わった。
「もう……二人だけでなんてずるい!私もまぜて!」
リリカのその姿に、ステラとセルフィは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。リリカがすっかり元気に戻り、三人での女子会はいつものように楽しく、ますます盛り上がっていったのであった――。




