第102話 レオンの危機⁉ステラ渾身の治癒魔法!
レオンが倒れたとの急報が、すぐにメルヴィルの研究所に届いた。
訓練を行っていたステラ、リリカ、セルフィは、瞬時に訓練を中断し、孤児院に向かう準備を整えた。
その時、メルヴィルが冷静に言葉を発した。
「私も一緒に行くわ。」
その静かな決意に満ちた声を聞き、ステラとリリカは頷いた。
リリカは手を伸ばしてチャチャを呼び出すと、焦り混じりの声でお願いをした。
「お願い、チャチャ。私たちを孤児院まで連れて行って!」
その呼びかけに応じるように、チャチャの小さな体が徐々に大きくなり、4人はその大きな背中に乗り込んだ。
セルフィがリリカの後ろに座り、視線をしっかりと前に向けて告げる。
「私が案内します!」
リリカの炎と光の融合魔法をまとったチャチャは、強大な力で一気に空高く舞い上がった。
まるで天の風を切るように、彼女たちは風のような速さで孤児院へと向かった。
チャチャの滑らかな飛行により、空の青さと陽光が彼女たちを包み込む。しかし四人の心は不安でいっぱいだった。
リリカは小さな声呟いた。
「レオン、大丈夫かな……」
ステラは遠くに見える雲を見つめながら、静かに頷いた。その瞳には決意が宿っている。
「必ず助けるわ。私の治癒魔法を信じて!」
チャチャは風を切り裂くように孤児院の近くに降り立った。
彼女たちが孤児院に到着すると、ガレット団長がすでに待っていた。
彼の顔には深い疲労がにじんでいたが、彼の目には希望が見て取れた。
「みんな、来てくれてありがとう。すぐに医務室へ案内する。」
ガレット団長の案内に従い、四人は医務室に駆け込んだ。
そこには、青白い顔をして横たわるレオンの姿があった。
彼の呼吸は乱れ、胸元は上下に激しく揺れていた。
ステラはすぐに彼のそばにかがみ込み、手をかざして治癒魔法を施そうとしたが、その瞬間、彼女は何か異様な気配を感じた。
「これは……」
ステラは一瞬、目を見開いた。レオンの体から放たれる異質な魔力の気配が、彼女に異常を知らせていた。
それは普通の怪我や病気ではない、何か強力で異質な存在だった。
彼の体全体に黒い魔力が広がっているのが視覚的にも感じ取れる。
ステラは、すぐにリリカに視線を向けた。
「リリカ、見える?」
リリカは眉をひそめ、レオンの胸に視線を集中させた。
彼女の視線は、レオンの胸元から広がる黒い血管のような魔力の筋を追っていた。
「うん、見える。胸のあたりから、黒い血管みたいなものが全身に広がってる……何なの、これ?」
彼女たちには黒い魔力が見えていたが、セルフィ、ガレット団長、そしてメルヴィルには、その異質な現象が見えていないようだった。
彼らはレオンを見つめながら首を傾げる。
「何も見えないけれど、二人にはわかるのね?」
と、メルヴィルが不思議そうに尋ねる。
ステラは頷きながら答える。
「これは……異質な魔力ね。それも、かなり強力で邪悪なものだわ。たぶん、黒騎士との戦いで受けたダメージが原因だと思う。普段、魔力を持たないレオンの体に、突然強力な魔力が流れ込んでしまったせいで、彼の体がそれに耐えきれず拒絶反応を起こしている。おそらくこの魔力が体を蝕んでいるのよ。」
メルヴィルも深く頷きながら
「黒騎士の呪いかもしれないわね。これはかなり厄介だわ」
と言葉を添えた。
「だけど、この異質な魔力を消すには、光の治癒魔法しかないでしょう。私がやってみるわ」
と、ステラは言葉を続けた。
彼女はすぐに集中し、レオンの胸に手を当てた。
まばゆい光の粒子がステラの手から湧き出し、レオンの体を包み込むように浸透していった。
その光はレオンの体内で黒い魔力に立ち向かい、浄化するかのように彼を癒していった。
「リリカ、どう?」
ステラがリリカに尋ねると、リリカは目を凝らして見つめながら答える。
「うん、見て!黒いものが少しずつ消えていってる!胸のあたりから、黒いものが出てきてる……もう少し!」
レオンの顔色が少しずつ良くなり、彼の呼吸も次第に落ち着いていった。
体の中を覆っていた黒い魔力が、まるで煙のように体外へと消えていく様子がリリカには見えていた。
ガレット団長とメルヴィルにはその光景が見えないまま、ただレオンの変化を見守ることしかできなかったが、二人の言葉と表情から、その魔法の効果を信じていた。
「どうやら、私たち二人にしか見えていないみたいね……」
ステラが少し息を整えながらリリカに向けて言った。
ステラの光の治癒魔法によって、黒い魔力は完全に消え去り、その代わりに彼女の光の魔力がレオンの体内に残った。
ステラは安堵の表情を浮かべながらメルヴィルに向けて言った
「これでレオンは回復に向かうでしょう。黒騎士の呪いは消えたわ。レオンの体に残っていた魔力が浄化されて、これからは私の光の魔力が彼を守ってくれる」
セルフィも安心して頷きながら
「レオン、もう大丈夫だよ」
数時間後、レオンはゆっくりと目を開けた。彼の瞳はまだぼんやりとしていたが、次第に意識が戻り、周りの人々の顔を見つめ始めた。
「セルフィ……?」
と、かすれた声で彼は呼んだ。
セルフィは彼の手を握り、優しく微笑んだ。
「レオン、大丈夫!もう安心して、無事よ」
レオンは少し微笑み返しながら、
「ありがとう……俺、倒れたんだよな?本当に……何が起こったんだ?」
その瞬間、ステラ、リリカ、ガレット団長、メルヴィルもレオンのベッドのそばに集まり、彼の回復を祝福した。
ステラは静かに言葉をかけた。
「レオン、今はまだ安静が必要よ。完全に回復するまで、体をしっかり休めてね」
リリカも笑顔を浮かべながら、
「セルフィがそばにいるから、何も心配しないで」
セルフィも少し照れながら
「本当に……無事でよかった。でも、もう無茶はしないで!」
レオンは皆の言葉に頷き
「皆さん、俺に一体何があったんですか?……。まったく記憶になくて。セルフィ、お願いだから教えてくれ?」
「全く、無事退院出来たら教えてあげるわ」
と冷たく突き放した。
レオンの命を救うためにステラが光の治癒魔法で治療にとりかかる。レオンは全身を黒い魔力でむしばまれていたがステラはその浄化に成功し、レオンは一命をとりとめる。その後、意識を取り戻したレオンの傍にはセルフィの姿が。レオンの無事を再確認し、ホッとむねを撫で下ろすセルフィであった――。




