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第100話 六隠密を会得せよ⁉ステラとリリカの挑戦!

 翌朝、昨日の雨模様とは打って変わって、澄み渡る青空が広がっていた。


 猫耳三姉妹とチャチャは、朝食を終えて訓練のためメルヴィルの研究所に向かった。


 研究所にある魔法訓練場には朝の少し冷たいさわやかな空気が漂っていた。三人は訓練服に着替えてメルヴィルを待つ。


 各々、無言でストレッチをしたり訓練服の着心地を確かめる。


 ステラは真剣な表情で手のひらから湧き出る光の粒子を見つめながら思った。


「まじかにルクス・マギナ遺跡の偵察任務が控えている。猫耳魔法部隊の大隊長として自ら提案し実行する任務。訓練の時間も限られている……」


 その緊張感がリリカ、セルフィにも伝わっていた。


 そして静かに扉を開けメルヴィルが現れた。


 そして静寂を破り、穏やかに微笑みながら口を開いた。


「セルフィ、昨日の講義ご苦労様。ただ講義を聞いただけではその真髄はまだまだ理解できないわ。ステラ、リリカ、実際に体験してみて、それが一番効果的だと思うわ」


 二人はその意見に同意し、真剣な表情で頷いた。


「確かに。聞いただけではなく、実際にその技術を体験して、自分のものにしないと、任務で役に立たないものね。実戦で使えるように、私たちも訓練を始めましょう」


 リリカも興奮気味に声を上げた。


「そうだよね! 実際にやってみたい! 私もセルフィの隠密技術を使えるようになればもっと強くなるよね? でもなんか難しそう」


 セルフィはそれを聞いて笑いながら


「リリカ様、まずはやってみないと分からないですよ! 隠密技術も経験が大事です。最初から完璧にできなくても、訓練を重ねていけば、少しずつ上達するはず」


 と励ました。


「じゃあ、セルフィ。任せるわ」


 とメルヴィルがセルフィの肩を叩いた。


 セルフィは微笑んで、ステラ、リリカの前に立ち、話し始めた。


 セルフィが中心となり、「六隠密」の技術を教えることになった。


 彼女は、孤児院で子供たちに指導した経験を活かし、丁寧に話し始めた。


「いいですか?『六隠密』全ての取得は時間的に無理があります。そこで基本の「気配遮断」と「無音歩法」の二つの取得を目指して短期訓練を行います」


 セルフィのもっともな提案にステラとリリカも思わず頷く。


 二人の同意を確認してセルフィは続けた。


「では、これから実際に訓練を行いましょう。まずは、気配を消す技術から始めますね。呼吸を整え、心拍をゆっくりと安定させることが大事です。焦らず、自分の体のリズムを感じてください」


 するとセルフィの体からみるみるうちに魔力の気配が消えていく。


 その変化は二人から見ても明らかだった。


 セルフィの指導のもと、ステラ、リリカはそれぞれが静かに呼吸を整える訓練を始めた。


 部屋の中は、穏やかな空気に包まれ、二人は全身の魔力の流れに集中した。


 セルフィは孤児院の子どもたちに護身術やサバイバルの基本を教える役割も担っていた。


 孤児たちが過酷な環境の中で生き抜くために、彼女は時に先生のような立場で、実践的な技術を教えていたのである。


 特に、自然の中でのサバイバル訓練は、彼女の得意とするところで教え方に大きな影響を与えていた。


 孤児たちが自然の中で安全に過ごせるよう、危険を察知する感覚や、いかにして目立たずに動くか、そして自分の存在感を消す技術を教えてきた。


 これにより、セルフィは教えることの難しさと重要さを学び、教える技術を磨き上げていったのだ。


「私が子どもたちに教えた時も、最初はみんな苦戦していました。でも、訓練を続けていくうちに、彼らはどんどん上達していったんです。だから焦らずに、少しずつ自分のペースで進めていきましょう」


 とセルフィは優しく語った。


 セルフィが解説したように、まずは「気配遮断」の技術が訓練の第一歩だった。


 セルフィは自身の呼吸を一定のリズムで整え、心拍をコントロールする技術を見せつつ、二人にも同じようにやってみるよう促した。


「心拍を安定させて、自分の体の中から発するエネルギーを抑えるんです。これが基本です」


 とセルフィが言い、目を閉じたまま静かに呼吸を整えている姿を見て、リリカも真似をしようとした。


 しかし、リリカはすぐに目を開けてしまい、


「うーん、なんか難しいな」


 と不満げに口をこぼした。セルフィは微笑みながら


「最初は誰でも難しいわ。大事なのは焦らずにゆっくりと体を感じ取ることです」


 とアドバイスを送った。


 一方、ステラは少しずつコツをつかんできたようで、心拍が落ち着き、彼女自身の存在感が少しずつ薄れていくのを感じた。


 彼女は光と水の魔法使いであり、そのコントロール力はすでに相当なものだったため、隠密技術の初歩にも適応しやすかった。


「少しずつだけど、分かってきた気がするわ」


 とステラは自信を見せた。


 リリカは苦戦しながらも、呼吸を整え、魔力の流れを感じるようになった。


「分かる……これが魔力の流れ。でもこういう集中力を要する訓練は苦手だな」


 と弱気になりかけたが、セルフィは


「大丈夫、続けていけば少しずつ上達します。自分のペースでやってみましょう」


 と優しく声をかけた。


 次に、セルフィは「無音歩法」の技術を教え始めた。


「無音で歩くためには、地面への圧力を最小限に抑え、体重をうまく分散させることが大切です。最初はゆっくりと動いてください。足を置く瞬間、音が立たないように意識してみましょう」


 そして訓練場の隅に用意された一画に二人を案内した。


「ここは『無音歩法』訓練用の砂利場です。音の出やすい砂利をわざと敷き詰めてあります。この上を魔力を抑えて音を出さずに歩くのは至難の業です」


 セルフィは軽やかに歩いてみせたが、全く音は聞こえず、その動きは驚くほど静かで、まるで彼女の存在が空間に溶け込んで、浮いているかのようだった。


 それを見たリリカは


「すごい!私もやってみる!」


 と張り切って歩き始めたが、足を地面に置くたびに大きな音が「じゃりじゃり!」と立ってしまった。


「うーん、難しいなぁ」


 とリリカは困り顔を見せたが、セルフィは笑顔で


「焦らずに、もっとゆっくりで大丈夫です。足を置くタイミングを意識して」


 とアドバイスを送った。


 ステラも慎重に歩き始めたが、彼女はすぐにコツをつかみ、音をほとんど立てずに移動することができた。


「歩くリズムと体重のかけ方を調整すると、音が消えるのね」


 と彼女は納得した表情を見せた。


 リリカはあいかわらず


「これは本当に難しい……」


 と苦戦していたが、セルフィは根気強く指導を続けた。


 訓練場の片隅ではチャチャがジッと三人の様子を見つめていた。


 こうしてセルフィの指導のもとで「六隠密」の技術を少しずつ体得し始めた二人。ルクス・マギナ遺跡での偵察が、彼らにとって大きな試練となることは間違いなかったが、新たな技術と共に、彼らはその試練に立ち向かう決意を固めていたのであった――。

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