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婚約解消か、飲み込んで結婚か 

「調査結果をお伝えします。かなり重い話になるので覚悟してください」


 そう告げると、ビクターの頬のラインに緊張が走るのが分かった。

 きつい内容だからこそ、感情を含めず事実のみを淡々と伝えた。


「今から彼女の置かれた状況をお話しします。それを聞いた後で、彼女との婚約を解消するか、結婚を望むかお答えください。

 まず、彼女のあなたへの気持ちは変わっていません。ですが半年前、実の兄に体を奪われ、乙女でなくなったため、結婚を諦めています」


 彼の顔が真っ青になった後、真っ赤になった。


「実の兄って、チャールズのことですか。本当に? 何かの思い違いではないですか。あり得ない」


「残念ながら事実です。潜入していたスタッフが確かめています」


「まさかまだ続いていると!」


「そう。この半年の間、彼女が手を尽くして回避しているのと、妊娠しないように、できやすい期間をチャールズが避けているため、回数はさほどではありませんが、そういうことです。

 私の方で手を回して、王妃様の臨時の侍女として王宮に避難してもらいました。しばらくは私が守れると思います」


 雨が窓を打つ音のみが響いていた。ビクターは手を握り合わせ、背を丸めて俯いている。

 浅い息をして背中が小刻みに動いている様は、傷を負った獣のようだ。

 黙りこくって内に内に籠っていくように見えたが、やがてぽつりと言った。


「僕は何も気付かなかった。何てことだ」


「侯爵家の嫡男の花嫁なら、処女でないと認められないでしょう。彼女は資格を失ってしまったわけです。婚約解消しますか。それとも、承知の上で結婚を選びますか」


 ビクターはゆっくりと顔を上げてイリスを見つめた。


「もちろん結婚します。彼女の苦しみも知らず、ただオロオロしていただけの僕の方こそ、許しを請いたい」


「良かったわ。その言葉を聞けて、私もほっとしましたわ」


 肩に力が入っていたのはイリスも同じだったようで、ほっとしたら力が抜け、言葉遣いも砕けたものに変わった。

 この段階で婚約解消を選ぶ可能性は7割と考えていた。

 躊躇うことなく即座に結婚を選ぶとは驚いた。優しげな見た目と違い、案外肝の太い男なのかもしれない。


「では、もう少し具体的な話ですが、結婚に至るまでに2つハードルがあります」


 1つ目は現在進行中のチャールズの計画の阻止。2つ目はアンヌ嬢の気持ちの救済、と言ってからチャールズの目論見を説明した。


「恐ろしいことに、チャールズはアンヌ嬢を自分の妻にする気でいるようなの。具体的には、体調不良と婚約解消の傷を癒すという名目で、領地に彼女を連れていき、子供を産ませようとしているの。そのカモフラージュ用に、急遽別の女性との結婚を決めているわ」


 ビクターが驚いている。イリスだって驚いたもの。ありえないって思うわよね。

 イリスは先を続けた。


「正妻が産んだ子供とアンヌ嬢の産んだ子供を交換しようと考えているようね。たぶん侍女のマーサに赤ん坊の面倒を見させて、正妻にはわからないように入れ替えるのでしょう。

 それができるくらい近い時期に二人が妊娠したらいいのだけど、すごくずれた場合は、正妻の命が危険かもしれないわね。結婚の噂をお聞きになっていませんか?」


 想い当たる事があるようで、はっとしたような顔になる。


「突然のチャールズの結婚話については、社交界で今一番の話題ですし、婚約者として近々お祝いに伺おうと思っていました」


「ずっと決まった相手を作らなかった引く手あまたの男が、地味で後ろ盾が弱い子爵家令嬢に、一目惚れでの結婚宣言。運命の恋ともてはやされていますわよね。それがカモフラージュのための結婚だなんて、誰も考えないわ」


「まさか。そんな不自然なことが出来るはずがない。そんなこと、周りが許さないでしょう」


 ビクターがかすれた声で言う。


「そうかしら。体が弱いとか、何らかの問題のある夫人に変わって、夫の未婚の姉や妹が屋敷の采配を振るう。よく聞く話ではなくて」


「あぁ……それは、そうですが」


 そう言うビクターの唇から色が引いていた。


「アンヌ嬢に子供が生まれ、その子を奪ってチャールズ夫妻の子として表に出してしまえば、アンヌ嬢は子供の傍に留まるしかなくなる。対外的に体裁は整っているし、数年後にお飾りの妻を排除したら、チャールズの理想の家族の完成ということよ」


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