相談したら怖い答えが返ってきた 1
その夜、急だが伯母を訪問する許可を取った。
ヘレン様とチェスをしているところにお邪魔し、しばらく二人の勝負を見守っていると、ヘレン様がチラリとこちらに目くばせした。
チェスの勝負はヘレン様が大きく優勢で、このままだと負けず嫌いな伯母が、もう一回と言い出すのが目に見えている。
つまり、割り込んで止めろ、ということだ。
「ごめんなさい。勝負の途中でお声掛けして申し訳ないのですが、急いでご相談したいことがあるので、この勝負が終わったら、少し時間をいただけないでしょうか」
「急ぎなの?仕方ないわねえ。
お行儀悪いわよ」
伯母が文句を言いながら、勝負をお流れにした。
負けそうだったものね。
ヘレン様が澄まして援護射撃をしてくれる。
「まあ、何かしら。よっぽどのことね」
「はい。ビクター様からの依頼が思っていたより緊急度が高くて、お二人の知恵をお貸し願いたいのです」
「いいわよ。ちょっとワインでもいただきましょうか。辛口の白がいいわね」
伯母が侍女を呼び、ワインと軽食を言いつけた。
キリッと冷した白ワインと、摘まみやすいカナッペと一口サイズのサンドイッチが盛られた皿が届けられる。夜でも暑いので、冷たい白ワインが喉に心地よい。
薄い胡瓜を挟んだサンドイッチが白ワインによく合う。ここの料理長は小さいころからイリスをかわいがってくれ、イリスの絡んだ依頼の場合、大抵本人が作ってくれる。
すると、どんな簡単な料理でも、他と一味違うものがサーブされるのだ。
よく従弟達に文句を言われたが、こちらの皇室には女の子がいないからかな、と思っている。
グラスからクイッと大きく一口飲んで、
「で、どんな状態なの」と聞いてきた。
イリスは、今まででわかった事をかい摘んで話した。
二人共黙って最後まで聞いていたが、途中から顔付きが変わっていった。
熟年美女二人の厳しい顔を前に、自分が叱られているような気分になってくる。
伯父様はいつもどう感じているのかしら。もう慣れた?でも怖いわよね。
今度、聞いてみよう。
「それで、あなたはこの問題、どう対処するつもりなの」
「まずはアンヌ嬢を王宮に引き取って、体を回復させてあげたいと思います。何かしら理由を付けてこちらに呼ぶことはできませんか」
「ヘレン。あなたはカイン伯爵家のサーラ様と親交があったわね。その伝手で、私の臨時の侍女としてアンヌ嬢を推薦して頂戴。病で急に辞める侍女の代わりが来るまでの繋ぎということでね。明日すぐに、使者を送って」
話が早いわ。さすが、頼りになる。
「彼女の安全が確保できたら、ビクター様に事実を伝えて、どうするか決めてもらいます。それによってアンヌ嬢の身の振り方が変わりますので。内容に関しては絶対の秘密保持を誓約してもらいます」
伯母様が頷いた。
「婚約解消するなら、アンヌ嬢には王宮内で病気になってもらって時間を稼ぎ、先のことを考えます。
もし結婚を望んだら、侯爵邸に逃げ込ませて、そのまま事実婚に持ち込んでしまおうと思っています。強引な手ですが、婚約者で結婚間近なので、摩擦は少ないかと思います」
「そうね。そのまま結婚まで住み込んで、婚家の家風に慣らすのはよくあるものね。その手配はあなた方で充分に出来るでしょう。何を相談したいの?」
「アンヌ嬢の気持ちの問題です。
令嬢にとって瑕疵が付いたわけだし、そこの負い目が痛々しいほどで、どうしたらいいのか、いい案が浮かばなくて」
ブルーシャドウの皆にも考えてもらったのだが、大雑把すぎた。
忘れろ、とか、記憶を消そうか、とか。
記憶が無くなれば、兄が危険人物だということも忘れてしまうので、余計に危ない。
ケインに期待したけど、恋愛方面は苦手分野だと言って白旗を上げられてしまった。
「そうねえ、ヘレン、どうかしら」
「そういう王妃様こそ、何かしら思い付いたのではありませんか。その目付きは」
「嫌だわ。今はリセルと名前で呼んでよ」
「では、リセル様。良い案がありますわよね。何年前だったかしら? のあれとか」
「あなたが言ってよ」
「お譲りしますわ」
「若い頃から意地悪なのよ、この人。
王妃命令を発令しちゃおうかしら」
「わかりました。じゃあ、二人からのとっておきを教えますね。
あのね、処女を失ったのなら、他の初めてをあげたら良いと思うの。
ちょっと別の方の」
? ナンノコトカシラ。