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マイルズ殿下の豹変

 

 そのまま足音が遠ざかって行く。

 ロイドが見た人数よりも多めの足音が聞こえる。いったいどうなっているのか全く分からない。


 ここは王宮で、警備されているので、賊が入り込むことはないと思っていた。絶対とは言えないが、難しいはずだ。

 しかも、この道を通ることを事前に知っていなければ、こんなにピンポイントで襲えるとは思えない。そこまで考えて、これは計画的な誘拐なのかもしれないと思いついた。


 誰かに知らせようと、思い切り唸り声をあげた。こんな所に来る人間は少ないだろうが、それでも誰か通り掛かることを祈った。


 がさっと、茂みをかき分ける音がした。


「あなた、エドワード殿下のご友人のロイド様ですか?何があったのです」


 そう言いながら器用に足と手を縛る縄を切り、目隠しとさるぐつわを外してくれた。イリス様の侍女だった。


「イリス様が攫われたかもしれません」


 自分は一番初めに殴られて、目隠しされたので見ていないが、イリス様の悲鳴と、さるぐつわをされたような声が聞こえたこと。

 他にマイルズ殿下とエミリー嬢が一緒だったが、彼らの事は全くわからないことを話した。


 そこまで聞くと、侍女はすぐにパーティー会場に向かって走り出した。



 会場に給仕係として居たカイルとケイン、侍女姿のアイラを捕まえすぐに事情を話した。


 アイラとケインはすぐにロイに話を聞きに行き、カイルは他の二人に連絡を取りに走った。すぐに五人全員が集まり、後を追い始めた。


 ロイの話から、たぶんマイルズ殿下とエミリーは犯人側の人間だと推測している。全く声を上げていないし、争うような雰囲気も感じなかったと言うのはおかしかった。


 犯人は複数いる。ロイの気を惹いた人間と、殴った人間。もしかしたらマイルズ殿下だったかもしれないが、それ以外にも数人の足音が聞こえたと言う。二人以外に三、四人と考えておくことにした。後は向かった先だが全くわからないので、まだ余り遠くまで行っていないことを祈り、馬で爆走した。


 王宮の周囲を一周したら、一台の馬車が走っているのが遠目に見えたので、三人がそちらを追い、二人が他の道を走った。

 

 少しすると、三人が戻って来て合流した。違ったようだ。

 むやみに走っても無駄だと思い、賭けだが、ザルツ侯爵家の方へ向かうことにした。



◇・◇・◇



「あの時はね、心臓の音がうるさかった。五人共顔が引きつっていたはずです。人の顔を見ている余裕はなかったんですけどね」


 アイラが言う。


「今回の誘拐事件とは色合いが違って、人質だとか身代金とかではなく、イリス様自身が目的だとわかっていましたから」


 なにせ、王子殿下と、王太子妃の座を狙う女がグルの可能性がある。非常にまずい。何事もないうちに見つかってくれと、祈るような気持ちだった。今も思いだすと気分が暗くなる。


「ありがとう。そしてごめんなさい。マイルズ殿下に気を許していたので、何の用心もしていなかったのよ。情けないわ」


「無事でよかった。あの時の襲撃者達も、結局バイエルの人間だったのですね。今回もっと大掛かりに破壊工作してやればよかった。改めて腹が立つ」


「皆が必死で探してくれている間、私は気絶した振りをして二人の話を聞いていたの」



◇・◇・◇



 木陰から男が三人出てきた。振り返ったロイの頭を、マイルズ殿下がいきなり殴りつけ、男たちが彼を縛り、茂みの中へ放り込んだ。


 イリスもマイルズ殿下に腕を掴まれたまま、他の男達にさるぐつわをかまされ、手を後ろで縛られてしまった。


 エミリーは黙ってその様子を見ている。この二人は何をしているのだろう。訳が分からなかった。


 腕を掴んで引かれ、その先に停まっている馬車に放り込まれた。その時に頭をドア枠にぶつけ、少し意識が遠のいた。


 男達が言い争っている。もう少し丁寧に扱えとマイルズ殿下が言うの聞こえた。


 何が目的なのか知りたかったので、そのまま意識を失ったふりをしておいた。

 そのうちに馬車は急ぐ様子もなく、普通に走り始めた。



「予定取りに運んだので一安心ね。後は明日の朝、あなた達が二人でベッドに居るところを、王宮の騎士達に見つけさせるだけよ」


 何ですって? 冗談じゃないわ。遠慮します。


「君がちゃんとエドワードを嵌めてくれたら、こっちは何もしなくても自然にことが運べたのに、全く」


 この人、こんな人間だったの? 友人だと思っていた私って、馬鹿もいいところね。


「そっちの用意してくれた薬が効かなかったのよ。あなた達が悪いんじゃない。人のせいにしないでよね」


 薬? なんの話? エドワードに何をしたの?


 むかつく状況だった。取り合えず縄抜けに専念した。幸い女性だから大丈夫だと思ったのか、かなり緩めに結んであったので、簡単に抜けることが出来た。こういう実戦対応も教わってきている。


 イリスが訓練を受けていることを外部に秘していたのは、父に言われての事だった。女性なのだから、男性より力が劣る。相手を油断させるために、なるべく力を隠せと言われた。それは正しかった。


 手の縄が解け、何か得物が無いか目を薄く開けて探してみた。馬車の座席下に二本剣が置いてある。今の状況を知る人はいないだろう。自力で逃げるしかない。


 馬車がガタンと揺れて停まり、その揺れでイリスは目を開けた。頭を振ってから二人を見て問いかけた。


「ここはどこ?何があったの?」


 何も知らない態で、どう説明するか出方をみた。


「王宮に賊が侵入していたみたいなんだ。君は捕まって縛られていたけど、助け出して逃げてきたんだ。ザルツ侯爵の持っている街中の部屋の一つに、ひとまず隠れようと思っているんだよ」


 どう反応したらいいのかわからなかった。そんなわけのわからない説明で、納得するとでも思っているのだろうか。黙っていたら、探るような目で見られた。


「どうしたんだい」

 

 考えながら言ってみた。


「それなら、早く王宮に戻って、衛兵に伝えないといけないのじゃないの? 隠れるのではなく」


 エミリーがふっと鼻で笑った。


「賢いわね。さすが未来の王子妃様だわ」


「王子妃って何のこと?」


 マイルズ殿下が、勝ち誇ったように笑っているエミリーを止めた。わざわざ事を荒立てなくてもいいだろう、と言っている。

 どう荒立てない気でいるのだろう。イリスが自分に靡くとでも思っているのだろうか。本当に私は人を見る目が無いと、悲しくなってしまった。


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