表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/70

卒業パーティーのパートナーチェンジ

「エスコートを替わってもらえる相手が他に居なかったのです。申し訳ありません。エドワードの症状は軽いものですが、さすがにパーティーは無理だと、医者から言い渡されています。イリス嬢にはパーティを楽しんでもらいたいから、と頼まれてしまったのです」


 そう言って謝るマイルズに、納得したイリスだった。このパーティーは皆全力で準備をしている。今更パートナーがいない人を探すのは無理というものだ。


「マイルズ殿下のパートナーは、いらっしゃらなかったのですか?」


「僕のパートナーも数日前から寝込んでいて、欠席になったのです。寒さで風邪が流行っていますから。すごい偶然ですが、お互い一人で会場入りするのもかえって不自然なので、ご一緒しませんか」


 そう言われたらそうなのだ。話題の二人が、二人共にパートナー無しでやって来る。何が起きたのかと思われるだろう。なんて困った偶然なのだろう。


 両親も困惑顔で話を聞いていたが、こうなったら二人で行く方が、まだましだと判断した。


 

 二人が揃って登場した時、会場が沸いた。驚きと興奮の熱量が一気に盛り上がった。なにせ、秘めた思いを胸に目を逸らす二人を期待していたのに、堂々とパートナーとして登場したのだ。

 

 いったい何が起きたの? どっちにしろそう思われた。



 何が起きたかというと、昨日、エドワードが急に体調を崩したのだった。午後の、学園からの帰宅時間には、発熱と吐き気がひどくなっていた。それは、ヘンリーも同じだった。

 二人に共通するのは昼食だった。同じメニューを選んだのだ。

 ただ、他の学生に症状は出ていないので、二人の皿だけだったようだ。ポールが二人分のシチューを注文して運んだせいで、両方に仕込んだと思われる。


 イリスに言われたように、銀のスプーンを常に使っていたら良かったと思ったが、もう後の祭りだった。


 念のため、ポールも王宮に泊まらせて一緒に様子を見ている。きつい毒ではないようで、発熱と吐き気、脱力感のみで済むようで、しばらく安静にしていれば治ると言われている。


 めでたい式に支障が出ないよう、極秘で厨房関係者を当たっている所だ。


 しかし卒業パーティーには出席できなくなってしまった。ポールも巻き添えにしてしまい申し訳ない。


 この一年でかなり背も伸び、やっとイリスと並んでも、少しは見られるようになったのに、残念でならなかった。ああ、銀のスプーン! 自業自得だ。


 兄にエスコートを替わってもらうついでに、毒の事は内密にしてもらった。絶対に叱られるからだ。



 会場のざわめきが収まらない中、二人は入り口付近の会場の端に立ち止まった。出掛けのごたごたで入場するのが遅くなり、開始時間直前だった。


 その少し後に王と王妃が入場した。皆、頭を下げている中を二人が壇上に上がり、卒業祝いを述べた。そして、楽しい夜を過ごしてくれと言う言葉で、音楽の演奏が始められた。


 王夫妻が人々の中を歩きながら、挨拶を受けている。卒業生には祝いの言葉を掛けていく。目立たないよう入り口付近に居る二人の元に来たのは、最後になってからだった。


「今夜は二人共、散々なスタートだな。あまり注目されないよう、控えめに過ごしてくれ」


 お祝いではなく、忠告を受けてしまった。


 お二人が会場を後にするのを見届けてから、マイルズ殿下は苦笑して、では控えめに踊りますかと言い、イリスの手を引いてダンスフロアに出て行った。

 さすがに王子だけあって所作がきれいだし、ダンスも抜群にうまい。控えめにと言っても目立つのは仕方がなかった。


「今日は特別にお綺麗ですね」


「ありがとうございます。エドワード殿下とお揃いのドレスを張り切って仕立てたのに、すごく残念です」


「エドワードも落ち込んでいましたが、病気には勝てません。今頃泣いていそうだな」


「ひどいお兄様ですね」


 そんな軽い話をして、笑いながら踊っている様子を、周囲はじっと見ていた。


 戻って来た二人にロイドが近付いて来て、イリスをダンスに誘った。


 マイルズに断り、フロアに出て踊り始めると、ロイドが問いかけてきた。


「殿下の容体をお聞きになっていますか? ヘンリーも一緒に王宮に留まり看病されているはずです。二人共大丈夫なのですか?」


「軽い風邪で発熱したって聞いているけど、違うの?」


「二人がお昼に食べたシチューに、何か盛られたのではないかと思っていたのですが」


「そんな話は聞いていないわ」


 ロイドが昨日の午後の様子をイリスに説明した。初耳だった。そして、なぜマイルズとパートナーになったのか問われたので、マイルズのパートナーも体調を崩したのだと話した。


「誰かがこの状況をお膳立てしたとしか思えませんね」


 確かに出来すぎている。エドワードの体調不良が風邪ではなく、毒を盛られたのなら、全ての見え方が変わって来る。


「私、このままエドワードのお見舞いに行くわ。マイルズ殿下に断ってくるわね。とにかく部屋の外からでも声を聞きたいわ」


 イリスはマイルズの元に行き、エドワードの見舞いに行きたいので、パーティーから抜けたいと話した。


 ちょうど、そこにエミリーがやって来た。


「マイルズ殿下、イリス様、ご卒業おめでとうございます。ところで、今日はなぜイリス様がマイルズ殿下とご一緒なのかしら? 昨日、殿下が急に体調を崩されたのはなぜなの? それに、マイルズ殿下のパートナーも体調を崩されたそうね。なんて都合のいい偶然かしら」


 そう一気に言うと周囲を見回した。彼女の両親や、友人達が疑惑を口にし、それが周囲に広がって行った。


 ロイドが割って入って助けようとしたが、焼け石に水だった。

 イリスはとにかくエドワードの元に行こうと、その場を離れようとした。


「私は、エドワードのお見舞いに行くわ。失礼するわね」


「それならば、僕も一緒に行きます」


 マイルズがそういい、イリスの手を引いた。エミリーが、自分も一緒に行くと言い出した。


 ロイドが、エミリーを引き離そうとした。

「君は関係ないだろう」


「関係あるわよ、恋人だもの」


 まさかこんな衆人環視のなかで、そんな大法螺を吹くとは思わなかったので、あっけにとられたが、周囲の人々にとって、それは事実にしか聞こえなかった。


 仕方なく、ロイドも付いて行き、四人でエドワードの元に向かった。

 あなたは関係ないでしょと、エミリーから言い返されたが、ヘンリーの見舞いに行くのだと言い張り粘った。この三人では不穏な気がしたのだ。


 マイルズ殿下はイリス嬢の腕を掴んでいて、なんとなく様子が怖い。イリス嬢も戸惑っているようだ。そのまま、庭に出て、歩いていく。王宮には不慣れなので、マイルズ殿下について行くしかない。


「マイルズ殿下。エドワードの部屋でしたら、こちらの方です。方向が違いますわ」


 同じく王宮内に慣れているイリスが、不審げに言った。


「病気なので、別の部屋に寝かされているのです。付いて来て下さい」

 

 その時木陰から人が出てきたのに、ロイドが気付き、振り向いたところを、後ろから殴られた。しまった、と思ったが目隠しをされ、後ろ手に縛りあげられて、茂みの中に転がされた。


 一瞬の事で、何が何かわからなかったが、イリスが叫んだのが聞こえた。

 それも、すぐにくぐもった唸り声に変わったので、同じように縛りあげられたのだとわかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ