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雪まつりでの仲直り

「護衛の姿が見えませんが、どちらに?まさか護衛なしで出掛けて来たわけではありませんよね」


「いや、今日は無しだよ」


 イリスの頭に血が昇った。きっと顔も赤くなっているだろう。


 素早く周囲を見回すと、少し離れた場所にアイラの姿が見えた。目立たない格好で気配を消している。カイルも別方向にいた。


 これなら安心だ。しかし、エドワードの心構えの点では大問題だった。


「こういった人混みの中に、護衛無しで出掛けるのは無謀です。今後はご注意ください。それに二人きりでは無防備すぎます。常に3人以上でお過ごしくださいね」


 ベスは残念だった。こういう時婚約者としてより、護衛とか保護者の意識が上回ってしまう。なかなか恋人同士の雰囲気にならず、修羅場が修羅場にもならないのは、このせいだ。


「他に二人、一緒に来たのだけど、先程からはぐれてしまって探している所なんだ」


「では一緒にお探しします」


 その時、少し離れたところから、呼びかける声が聞こえてきた。


「おーい、こんな所にいたのか。二人で急に消えたから慌てて探したんだよ」


 小走りで、エドと同年代か少し上に見える男性二人がこちらにやってきた。


 そしてイリスを見、それに対峙するエドワードとエミリーを見た。エミリーは殿下のコートを軽く掴んでいる。

 そしてイリスは怒っていた。


 修羅場だ。ロイドは、瞬時に理解した。彼は姉二人に鍛えられ、自身も恋愛経験を積み、恋愛の機微やトラブルの経験は豊富だった。


 ロイヤルカップルの修羅場になぞ、関わり合いたくない。即座に判断し、ヘンリーに逃げるぞと目で訴えた。ヘンリーも大雑把に見えて鋭い男だった。


「殿下、僕達は体が冷えきってしまったので、そこの店で温かい物でも頂いていますね。では、お先に失礼いたします」


 そう挨拶して、二人でとっとと逃げた。



 彼らを見送った後に、エドワードはまだ周囲を見回している。


「何かお探しですか?」


「そういうわけではないけど、イリスは一人で来ているの?」


「そうですが、ベスを伴っていますわ」


 ベスは侍女兼護衛だ。そして、イリスだって令嬢兼、実質はエドワードの護衛だ。だから二人で充分なのだ。心なし胸を張って言ってしまった。


 エドワードはなんとなく嬉しそうにしている。

 イリスには訳が分からなかったが、ベスにはわかった。マイルズ殿下と来ているかもしれないと疑っていたのだ。


 はあ~この二人は全く、とベスは呆れ、先ほど買った飴の可愛らしい袋をイリスに渡した。


「こちらは、エドワード殿下に差し上げようと、先ほどイリス様が選んで買った飴なんです。殿下の好きなクランベリー味を中心に、色がきれいで珍しい味のを探したのですよ」 


 そう言って、イリスから渡すよう、促した。

 イリスは言われるまま、どうぞ、気に入ると良いのだけど、と言いながらエドワードに袋を渡して、少し気恥ずかし気に微笑んだ。


「ここで渡せるとは運が良かったわ」


「ありがとう。嬉しいよ」


 今までの強張った雰囲気が消えた。たったそれだけで殿下のこじれた気分が解消され、イリスの怒りも消えていた。



 近くの店に入り、窓辺に陣取ってその様子を観ていたロイド達二人は、黙って温かいコーヒーを飲んだ。


「エドワード殿下は相変わらず、イリス様にぞっこんだよな」


「うん、どう見てもそうだ」


「このまま元に戻ってくれると、俺達も助かるな。

 でもエミリー嬢のやる気に、火が着いちまっているよなあ。今日もわざとだろ、俺たちを撒いたの。なんだか危ういよ」


「何か出来ると思うか?」


「無理」


「だな」


 二人がイリスと別れ、店に向かって歩いてくるのが見えた。エドワード殿下は嬉しそうで、エミリーは悔しそうだった。二人は一緒に居るが、心は違う人を映していた。


 こういうのは見ている方も、居心地が悪いものだ。チョコレートのケーキとコーヒーを追加で頼み、二人が着くのを黙って待った。



◇・◇・◇



「この時のことを、ベスが後で喋りまくったのですよ。小娘がお嬢様に一丁前に吠えかかったって。もう散々にこき下ろして、オチは、エドワード殿下は横に立つ女に見向きもしなかった、です」


「そうだったかしら」


「そうでした。私も見ていましたから。ベスの機転は素晴らしかった。一瞬で元のお二人に戻っていましたね」


 エミリーは悔しそうな顔をしていた。あのときはどういった関係だったのだろう。お互いに意識し始めた所?まだエミリーの片思い?


「イリス様、また勘違いが始まっているようだから言いますよ。

 エドワード殿下は特上の美形です。イクリス様とはまたタイプが違うけれど、とびっきり美しい男です。そこのところ、わかっていますか?」


「わかっているわよ。あの頃も綺麗だったし、今も綺麗だわ」


 伯母様が、私はイクリスの方が好み、弟の小さい頃を思い出すわあ、と思い出に浸り始めた。


 そして、どちらが好みか統計を取りたいとか、ツーショットの姿絵をぜひ画家に描かせようとか、二人で脱線し始めた。


「ねえ、アイラ。さっきの続きは? 気になるじゃないの」


「あ、そうでした。

 ……そんな美しくて、富も権力も持った男に憧れない女性はいないと思いませんか。そういう話が全然出なかったのは、殿下がイリス様一筋、他には目もくれなかったからです。

 普通は脚の引っ張り合いや、さや当てや、家門間の勢力争いが山程もあって、その挙句に婚約者が決まるものです。そして、その後もあれこれ揉めたりします。でも何もなかったでしょ」


「そうね、なんだか当たり前だと思っていたわ」


「だから、お二人の仲が微妙になった瞬間に、それらの指を咥えて見ているしかなかった女や親やらが、一斉に獲物に襲い掛かったのです。

 別になんら不思議ではありませんからね。その中で、運営委員で同じ班になっていたエミリー嬢が、一歩先んじただけなのですよ」


 分かったわ。

 なんだか、更にエドワードを守りたくなってしまった。


「ちなみに、イリス様がロブラールに来てから一年半、彼は女を一人も寄せ付けていません。有力貴族から寄せられた縁談やらなにやら、全てを拒んでいます。さあて、なんででしょうか」


「まさか、私を待っている?」


「珍しく当たりです。王妃様、シャノワールの一年半は無駄ではなかったですね」


「そうね、やっと十五歳くらいにはなったかしら。伯母としてうれしいわ」

 

 わざとらしく泣きまねをして、目頭をハンカチで拭う。


「あ~、まだまだですけどね。もふもふもいいけど、サラサラもいいですよ。大きくなったエドワード様をかわいがってあげてください。サラサラの良さもきっとわかります」


「あら、意味深ね」

と、伯母が言う。


あ、駄目だ。酔っているわ、この二人。


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