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思いがけない伯母の目論見

 アイラと伯母様が苦い顔をしている。


 特にアイラは悔しそうだった。バイエルの小隊長と諜報員から聞き出した内容は、完全に、あの頃の彼女たちの隙を衝いたものだった。


「痛恨のミスでした。私も含め大人達は皆、その程度に思っていたのですよ。

 昔から二人を見ていたし、一時の事だと。逆に、先入観のない者達のほうが、その危うさに気が付きやすかったのでしょう」


「そこは、笑えないわね。私も、シャノワールを通して貴族の情報を集めて、見えていなかった事と、見方を誤っていた事の多さに気が付いたわ。わかったつもりでいるのが、一番危ないのよ」


 バイエルの干渉については、今回の誘拐事件に絡めて、ロブラール王家に伝えている。レンティスに対してと同様に、ロブラールにも仕掛けてくる可能性はあるのだ。

 未婚の王子が二人いるので、今後の結婚問題にも用心が必要だ。現に、婚約を打診された中に、バイエルの紐が付いた縁がいくつか紛れていた。


「イリスが結婚相手になってくれてもいいのよ。二人の内のどちらか。どっちが好み?」


「伯母様ったら、冗談じゃないです。二人共絶対に家出しますよ」


「わかってないわね。そんなの言っているだけよ。エドワード王子と同じく、年上のあなたがまぶしいだけ。それに、料理長をこの国に留めて置くために、結婚しなさいと言えば、考えるでしょうね」


 アイラがうれしそうな顔になった。


「料理長、貰って行ってもいいんですか」


「勝手に付いて行くでしょうよ。止めるのは諦めているわ」


 イリスは二人の従弟の顔を思い出し、一応考えてみた。


 う~ん、どっちも駄目だわ。小さい頃から、よくスカートの端を掴んでくっついて来るのを、引きずって遊んでいたのだ。ゼノンが知らん顔をするので、弟達の面倒を見なさいよと言ってケンカしたものだ。しかも、取っ組み合いの。

 それに比べると、シモンとエドワードは天使だった。


 そのまま伯母に言うと、そうよねえ、と言われた。


「イリスには、できたらレンティスの王妃になって欲しいのよね。国同士の友好が続くように。それに、友好国は強いほうがいいもの。あなたが王妃になってくれると何かと心強いわ」


 アイラが、ほーっと感心したような声を上げた。


「それは両国とも安泰だ。変な女が王妃になって傾国の憂き目に遭うなんて、御免です」


 伯母様がそんな事を考えていたなんて思わなかった。だが、近隣の王家の世代交代や、婚姻に関しては、お互いが目を光らせている。

 婚姻の相手によって、国力や友好関係は変わっていくのだから。


 

「次期国王のゼノンとはよくケンカしたし、私が王妃では、険悪な仲になるかもしれませんよ」


伯母様はケンカの様子を思い出たと言って、笑った。


「小さい頃は、子猫のじゃれ合いのようでかわいらしかったわ。そこにシモン達三人が交ざって、コロコロしているうちに眠ってしまったりして。もう少し大きくなると、ゼノンとイリスとがいい勝負になって、弟たちは応援のみになったのよね。危ないから手を出すなと、二人が近寄らせなかったわね」


 そんな感じでしたねえ、とイリスも思い出して笑っている。


「大丈夫よ。ケンカ友達でしょ。男同士、こぶしで語り合うというやつね」


 アイラも笑いながら、いいですね。安心して王妃の座を狙ってください、と言った。エドワードが聞いたら、どう思うのだろう。とんでもない会話だ。


 笑い終わったアイラが、王妃の座を狙う女といえば、とザルツ侯爵家令嬢エミリーの名前を出して来た。


「マイルズ様にバイエルの息が掛かり始めた同時期でしたね。同時に手を伸ばしたのか、目に付いたから後から引き込んだのか、どっちにしても国の危機でした」


「年末のパーティーで委員を一緒にやってから、エドと仲良くなっていたのよ。それにしては、エドへの接近が一気だったわね。急に前に出てきた感じで、私はただ驚いていたわ」


 イリスが初めて彼女の事を意識したのは、二月中旬の雪祭りの時だった。



◇・◇・◇



 レンティスでは二月の中旬の週末に雪祭りが行われる。その季節には雪が積もり、そこらじゅうが真っ白に塗り替わる。


 王宮の広場に雪の祭壇が造られ、王と王妃、王太子が春の訪れを願い、祈りを捧げる。

 春を呼ぶ行事なのだ。


 祭りの間は白い衣装を着ることになっているため、国民は二日間、白い衣装で過ごす。他国からも旅行者や、行商の人間が多数訪れて賑わい、屋台などが立ち並び、街は様変わりする。


 もう一つの見どころは、初日に選ばれる春を呼ぶ乙女だ。


 自薦他薦で出場者が集まり、その中から四人が選ばれ、祭りのフィナーレで祭壇を囲んで踊るのだ。踊りは単純で、緑の枝を持ち、回転しながら歩くだけなので、誰でも出来る。 


 時には十歳くらいの少女が選ばれたこともあった。要は春を呼びこめそうな美しい乙女であれば、誰でもいいのだ。


 春を呼ぶ乙女には白い冠が贈られ、それを被って踊る。その後で白い冠を外し、花の冠に替えるのだが、恋人や家族が花冠を用意する。

 時には求愛者が複数人集まり、いくつもの花冠を贈られた乙女が、その一つを選ぶというハプニングが起こることもある。色々と華やかな行事だ。



 例年通り、イリスは白い古風な衣装に白いローブを羽織り、白い手袋をはめ、祭り中の街を見物に出掛けた。侍女のベスがお供をしている。


 例年通りなら、王宮での祭礼が終わった後、エドと一緒に街を歩いて回ったのだが、今年は年末からの嫌な雰囲気のまま仲直りできていないため、約束もできなかった。


 寂しかったが、周囲の浮き浮きした雰囲気につられて次第に楽しくなり、小物を見て回ったり、可愛い花束を買ったりした。

 ベスも、あれこれと、楽し気なものを探しては教えてくれる。沈んでいるイリスを気使ってくれているのだ。

 かわいらしい飴を選んで買っていると、一つ向こうの筋をエドが歩いているのを見つけた。


 この楽しい雰囲気に勇気をもらって、声を掛けてみようと思った。

 しかし、近付いたら、隣に女性がいるのが見えた。エドと同じ年くらいのきれいな少女だった。


「イリス様、エドワード殿下にお声を掛けないのですか。あら、あの女、何でしょう。あんなにくっついて、いやらしいわね」


 二人の距離はとても近かった。イリスの足はそこで止まってしまい、動かなかった。


 あれはどういうことなの? いつもは私と来るお祭りに、なぜ今年は他の女性と来ているの? そんなことが頭の中をぐるぐると回っていた。


 ベスがさっさとイリスを彼らの方に引っ張って行った。


 エドワード達もこちらに気が付いたようで、バツの悪そうな顔をしている。


「こんにちは。お祭りを見に来たの?」


 そう声を掛けたが、目を逸らしている。そんなに自分のことが嫌になってしまったのだろうか。先程までの楽しい気分が急激にしぼんでいった。


 横にいた女性が、エドワードの袖を軽く引き、紹介を頼んだ。


「彼女はザルツ侯爵家のエミリー嬢。年末のパーティの実行委員で一緒だったんだ。エミリー、こちらはブルーネル公爵家のイリス嬢だよ」


「初めまして。去年のパーティの際に、マイルズ殿下とご一緒のお姿を拝見してから憧れていたのです。とても素敵でしたわ」


 うん? 褒められているが、ここでマイルズの名は出して欲しくなかった。途端にエドワードの顔がこわばった。


 なんとなく引っかかりを感じたが、イリスは一番気になっていることを聞いた。


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