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エドワードとイリスのすれ違い

 アイラがブランデーを出してきた。

 ブランデーならチョコレートが欲しいですねと言って侍女を呼び、今度はブランデーのつまみを持って来てくれと頼んだ。


 しばらくしてつまみと共に伯母がやって来た。

 なんて目敏いのだろう。おいしいものが通るのを見張っているのかしら。いや侍女に連絡をするよう言い含めているのだろうな。


「伯母様、何しにいらしたの?」


「もちろん、おいしいものを食べに。そしてアイラのとっておきのブランデーが出たのよね。見逃すはずがないでしょ」


 やはり、侍女をスパイに使っている。

 全く、このお姉様達には、敵わない。


 アイラがブランデーグラスに琥珀色の液体を注ぎながら、笑っている。


「さすが、王妃様です。今から一番きついところです。お付き合いくださるなんて、ありがたい」


 ああ、そうね。ここからはきつい。イリスは、思い出してすっと寒くなった。


 侍女に、温かいものが欲しいわ、となんとなく言ってしまった。すぐに数枚の暖かいひざ掛けと、温かいこってりしたスープが運ばれて来た。


 イリスも笑いながら、魔法みたいね、と言った。



◇・◇・◇



 年末のパーティー以降、エドワードとの関係がぎくしゃくしている。

 彼が勧めてくれたことなのに、なぜこんなことになったのだろう。


 そう思って、エドワードに聞いてみた。何が問題なの。その態度はいったい何?だけど、はっきりした答えは返って来なかった。ただ嫌な雰囲気はしっかり伝わって来る。



 年始の皇宮のパーティには、婚約者として一緒に出席したが、お互いに目を逸らしていた。


 両親から何かあったのか、と聞かれたが、何もないわとしか答えられなかった。言葉にするようなことは何もなかったから。


 その状態は学園でも同様だった。相変わらずイリスはエドワードの姿を目で追っていたが、直接話をすることは無くなっていた。


 エドワードは、年末のパーティーで実行委員をしたメンバー数人と仲良くなっていった。男子学生二名に女子学生一名の三人で、彼らと一緒に過ごす姿が、良く見られるようになった。


 イリスは、マイルズと一緒に昼食を取るのもやめ、また一人で過ごすようになった。

 マイルズは、エドワードの態度は一時的なものだから、気にせず普通にしていたら、そのうちにもとに戻るよ、と言ってくれたが、そんな気はしない。


 何かが、まずい方向に進んでいる気がして仕方がなかったが、だからと言って、できることも無かった。

 


 ある日、昼休みに庭で昼食を取るイリスの元に、マイルズがやって来た。


「イリス、沈んだ顔をしていますね。エドワードのせいで悩ませてしまいすみません。私からも、態度を改めるよう言い聞かせます」


「いいえ、何もしないでください。彼が話をしてくれるのを待ってみます」


 マイルズは向かい側の椅子に座り、目の前にチョコレートの小さいケーキを置いてくれた。


「甘いものを食べると、気持ちが柔らかくなりますよ。一緒に食べませんか」


 久しぶりに優しい気持ちを向けられて、テーブルを見詰めていた目をふと上げた。マイルズが心配そうに見つめていた。

 

 その日から、また一緒に昼食を取るようになった。彼の思いやりがとてもありがたかった。



◇・◇・◇



 アイラがブランデーを舐めながら聞いている。彼女も知ってるのだろう。何かを思い出すような顔をしていた。


 伯母様は見ていないのに、なぜか苦笑いだ。


「ねえ、なぜ笑うの?あの時は辛かったのよ」


「それは、見なくてもわかるからよ。王子さまが嫉妬しただけでしょ」


 今ならイリスもわかるが、あの頃は悩んだのだ。軽くそう言われると、へこむ。


 アイラが自分から見た当時の事を話しますね、と言った。


「あの時は、そのうち元の状態に戻ると思って、ただ見守っていたのです。まさか、こんな風に利用されるとも思わずにね。私達が迂闊でした」



◇・◇・◇



 入学して半年が経つ頃、エドワード殿下が悩んでいた。アイラは理由を聞いてみた。


 学園でイリス様と一緒にお昼をする時間が取れなくなるそうだ。なんでも、昼からの授業の教室が遠く、準備も必要なので、早目に移動しなくてはいけなくなったということだ。


 学園のスケジュールに文句を言いたいところだが、王子が文句を言ってはまずい。モンスター何とやらに直結だ。なにせ、学園側は逆らえない。


 アイラは、そんなエドワード殿下を微笑ましく見ていた。


 その内、マイルズ殿下に相談し、自分の代わりにイリスとお昼休みを過ごして欲しいと頼んだようだ。

 イリス様が自分をいつも見つめている事も、それ以外は一人で居る事も知っているので、申し訳なくてたまらないそうだ。


 心変わりされてもいいのか? と驚いたが、そういった心配はみじんもしていない様子だ。よほど自信があるのか、イリス様を信じているのか。


 不安に思ったが、イリス様も納得して楽しくマイルズ殿下と過ごし、毎日エドワード殿下の日常生活の話を聞いていると聞き、安心したのだった。


 そして、年末の学園のパーティーの実行委員になった。普段あまり交流が持てない分を、この機会に挽回しようと思うのが普通では? と思ったが、委員に決まった後で覆すわけにもいかないので、そういう苦言は言わずにおいた。


 しかし、マイルズ殿下にエスコートまで頼むとは、なんて事をするのだろう。これは非常にまずい。そう思ったアイラは、エドワード殿下に忠告した。


「イリス様はなんておっしゃっているのですか」


「一人で出席するからエスコートは気にしなくていいと言ってくれたよ。

それに、運営側の手伝いをしたいとも言っていた。でも、楽しんで欲しいし、他の男がエスコートするのは嫌だから、兄に頼もうと言ったんだ」


 アイラには嫌な予感しかしないが、王子はピンと来ていないようだった。


「兄ならいいのじゃないか? 兄も受けてくれたよ」



 そして、やはりアイラの予感は当たっていた。


 イリス様とマイルズ殿下のカップルは目立ちすぎたのだ。ハイクオリティな大人のカップルとして、学生たちの注目の的になった。そして二人を見た殿下自身が、いかに二人が似合いのカップルかに気付いた。そして自分と並んだ時との差にも気付いた。


 馬鹿なことをしたものだ、としか思えなかった。


 その後しばらく、エドワード殿下は不機嫌だった。だがほおっておくしかない。今まで見えていなかっただけで、大人びた十七歳と、年相応の十五歳の差は致し方ない。


 だが後二年もして大人の仲間入りをする頃には、ほぼ解消される問題なのだ。それを大人達は知っているので、しばらくすれば元に戻ると、そのまま触れずにおいた。


 その隙を、バイエル国に利用された。


 そのころに、バイエルがマイルズ殿下に接触し始めたらしい。エドワード殿下とイリスの不仲と、マイルズ殿下との噂を好機と見て、工作活動を始めたのだった。


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