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学園にエドワードが入学してきてから

「あれからは、頻繁に彼に会いに行くようになったわね。週に一回のお茶が2回になり、王太子妃教育の帰りには顔を出したけど、エドは嫌がってはいなかったと思うの。

でも、彼が王立学園に入学してからは、よそよそしくなっていったのよ」


「それは、イリス様が十六歳になった辺りから、急に雰囲気も体つきも大人っぽくなったので、それまでのように無邪気に振る舞えなくなっただけです。何かあったのか、なんて思う人もいたようだけど、体が育っただけでしたね」


「嫌な言い方しないでよ」


「学園に入学する前に、制服の試着を見に来られましたよね。あのときは大変だったのですよ。

少しでも大人っぽく見せたいと、ヘアスタイルを直したりタイの結び方を変えたり」


「覚えているわ。いつもと違う髪型で大人っぽく見えたわ。私、確か褒めたわよね」


「ええ、大人っぽくて素敵よっておっしゃっていました」


「良かった。正しい答えを出したってことね」


「でも、そう言いながら、頭を撫でては台無しですよ」


 イリスは思い出した。そういえば変な顔をしていたような。そして、これからは一緒に学園に通えるわね、と言ったら一人で通うと言われたのだった。


 もちろん、その言葉は無視して、朝迎えに行った。



 お昼は学園の食堂を使うのが普通なので、大抵の学生が昼には食堂に集まる。一緒に昼食を取る約束をしていたイリスは、早めに食堂に来て待っていた。


 エドワードは、同じ学年らしい男子学生三人と、一緒にやってきた。


 手を振って居場所をアピールすると、ビクッとしたような様子で慌てている。どうかしたのかしら、と不思議に思い、四人の所に急いだ。エドワード達は何か揉めている。そしてイリスに軽く頭を下げてから、三人が去っていった。


「エド、学園はどう?今の子達とは仲良くなったの。

‥…何か嫌なことでもあった?」


 うつむきがちなエドワードを案じ、顔を覗き込む。学園初日なので、イリスも心配なのだ。


 同学年の友人達と一緒でないのが不思議だった。先ほどの子達は初めて見る顔だ。


「彼らは同じクラスなの?」


「ああ、一緒に昼食を取ろうと誘ったんだ。ザッカリー達は君に遠慮して、別行動するって言うから」


「そんな気を遣わなくていいのに。今の子達は、どうして行ってしまったのかしら」


「うん、君に気を遣ったみたいだね」



 イリスは目立つし、最上級生だ。ここでは王太子の婚約者の肩書より、学年が物を言う。

 その上、もう二歳くらい歳上だと言ったほうが良いくらい大人びている。

 それで、年下の学生をかわいがってくれるなら、素敵なお姉様として懐きたいところだが、彼女はエドワードしか見ていない。新入生の十五歳男子には荷が勝ちすぎる相手だった。

 それを知っている友人達に逃げられ、何も知らない新たな友と一緒に来たのだ。そして同様に逃げられた。


 二人は好みの品を選び、お金を払った。エドワードにとって、自分で小銭を払うのは初めてのことだったので、イリスが手伝った。嬉しそうなエドワードを見て、イリスも嬉しかった。


 食事を自分で運ぶのも、席が自由なのも、全てが物珍しい。貴族の子女ばかりの学校なので、皆似たような状態だ。兄弟や、知人の上級生が、もたもたしている新入生に、教えてあげたり、手伝ったりしている。あちこちで、うれしそうな声や、からかうような声が上がっていた。


 食堂はいつもと違って、賑やかで華やいでいた。


 本日はサービスでデザートが付くらしかった。イリスは彼に銀のスプーンを渡した。毒殺未遂事件以降、必ず銀のスプーンで確かめることにしていたので、学園でも使うよう勧めていたのだ。


 忘れた時のため、イリスも一式用意していた。


「学園では大丈夫だよ。どの料理を選ぶか分からないから、毒の仕込みようが無いよ」


「油断しては駄目よ。絶対にいつも銀のスプーンを使って」


 そう言うとスプーンを押し付けた。そんなやり取りをしながら食事をした。


 周囲の学生はチラチラと二人を盗み見ていた。さすがにオーラが違い、自然と目が行くのだ。美形なので、それだけで目立つのだが、それ以上の何かがあった。

 王太子殿下は、ロイヤルオーラだろうか。まばゆい。

 イリス様は、それとは違うが、気になる雰囲気を持っている。


 恋人同士というより姉弟だが、美しい二人が一緒にいると、そこだけが別世界だ。皆、今年は二人の寄り添う姿が毎日見られると、喜んでいた。



 そんな風に過ごして一ヶ月が経った頃、エドワードが、時々昼食を別に取らないかと言ってきた。


「何故」


「同じクラスの友人とも一緒に雑談したりする時間が欲しい。イリスと一緒にと誘っても、皆遠慮してしまうので無理なんだよ。良いかな」


 確かに、毎日二人きりで、他の学生は近付いてこない。エドワードに友人も連れて来てと頼んでいたが、誰かと来ることは一度もなかった。


「そうね。じゃあ、週に二回は一緒にお昼を食べましょう。他の日は別々で」


 そう決まり、休み開けの昼と、休み前の昼を一緒に過ごすことにした。


 それでも気になってしまい、遠くからエドワード達が話しながら食べている姿を見つめてしまう。周囲がそれに気付くと、また気を遣わせてしまい、結局庭で一人、昼食を取るようになった。


 二人共学園にいるので、会える時間は前より減っていた。姿を確認したくて、エドワードのクラスの前をウロウロしてみたり、帰宅時間を待ち伏せたりするようになっていった。


 イリスの生活は、学園の勉強、王太子妃教育、これは王宮に出向いて受ける、家の訓練場での剣や体術の訓練、それ以外は、エドワードに当てられていた。

 なかなか忙しい生活で、自分の友人を作ったり、社交活動をする時間はほとんど作れなかった。


 十六歳で社交界にデビューしていたが、公的な行事にしか参加しておらず、情報にも疎かった。


 それにたまの夜会でも、エドワードの側にずっといて、他の男性と踊ることも、ほとんどなかった。他の人と会話をしていても、常にエドワードを意識していたし、彼が他の女性と踊っている時もずっと見守っていた。


 危険がないか見守る護衛官と化していたのだった。


 これが、他の人達からしたら、とんでもなく嫉妬深い女性に見えた。


 しかし、それはごくたまのことであり、噂が広まることはなかったのだが、学園の生活は毎日なので、イリスの過干渉な態度は少しずつ影を落としていくことになった。



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