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昔の事を話してみる

シャノワールの最終章16話です。

イリスが国を出るきっかけの事件が切れ切れに語られます。王権争いと婚約者の座争いが同時に発生します。残酷シーンありなので、苦手な方は14話目を飛ばしてください。

10月27日完結です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。



 アイラと、一緒に残ったメンバーが、潜入を終えて戻って来た。


 あの後、ブルーネルの庶子の潜伏場所の調査が行われ、カンザスの支店にも人がやって来たそうだ。


 その頃にはアイラは、少し似ているけど全然違う男に変身していた。毎日少しずつ変化させていけば、いつも一緒にいる人はすぐに慣れてしまうそうだ。

 しかも、花嫁に逃げられて、しょぼくれている男でもあって、調査に来た男たちに気を落とすなよと慰められた。


 ダニエル達は決行日以降、数日息を殺して生活していた。花嫁の馬車が翌朝に戻って来たのも驚いたが、残る予定のアイラが戻らないのが不安だった。


 ケインが情報を集め、レンティスに向かう街道で何か揉め事と、火災があったことを掴んできた。

 そこで戦闘があり、ミラの仕掛けたトラップを使い逃げたか、捕まったか……


 四日ほどしてアイラが戻るまで、気が気ではなかった。


 調査の兵士が来て一週間過ぎてから、ロブラールに向けて全員で帰国した。これで完全撤収だ。ダニエル達は仕事の引き継ぎが終わる一ヶ月ほど後に、レンティスに引っ越す予定だ。



 アイラは二人に対し、今回のことは何もかも忘れて欲しいと、帰国前に念を押した。


「今度会うときには、初めましての挨拶からですよ」


「承知しました。また、会える日を楽しみにしています」


 理解が早くてダニエル達と付き合うのは楽だ。そして彼から手紙を受け取り、渡すことを約束して帰国の途に就いた。


 帰国したアイラが驚いたことがあった。イリス様にまとわりついていた影が消え、透明な印象に変わったこと。これは喜ばしいことだ。


 皆、闇を抱え込んだままのお嬢様を密かに心配していたのだ。大変な出来事だったが、甲斐があったというものだ。

 ノワールの変装をしても、三十歳には見えなくなった。今度衣装の変更を提案しようと思う。白や水色が似合いそうだ。



 それと、ルーザーの結婚だ。

 この短期間で、なんでそうなった? そこにはミカエルという天使の働きがあったらしい。天使には敵わないか。


 

 そして、ダニエルからの手紙を王妃様に渡した。


 すぐに内容を読み、中にもう一通入っていた封筒を、こちらは私が渡しておくわね、と受け合ってくれたので、ありがたくお任せした。



 ところで帰国後、イリス様に偽イクリスの変装のまま会いに行ったら、すごく嫌がられた。他のメンバーにも嫌がられた。イクリス様を汚すな、と言われる。ただ一人、王太子殿下だけは満足げだった。

似ていて品下がる人物が気に入らないのはわかるが、なんだかひどくないか?


 今度はアイラが、グレた。



「アイラ、ありがとう。すごく感謝しているのよ。ご機嫌直して頂戴」


 イリスが宥め、ミラも珍しく、フォローする。


「そうよ。アイラのお陰で全てが隠し通せたのだもの。感謝してるよ」


 ぼそっと、イクリスのままでいようかな、というのが聞こえ、それは、ちょっと勘弁してと皆が思う。やはり嫌なのだ。


「ねえ、アイラ。今ね、1年半前の事件を思い返しているの。あなたは王宮で警護の仕事をしていたでしょ。私から見た事と、あなたから見た事と、すり合わせしてみたいのだけど。お願いできるかしら」


 興味をそそられたのか、アイラの表情が晴れた。


「それはいいことです。私は侍女として内部にいましたから、そこそこ見ているし、聞いています」


「じゃあ私が話すから、次にそちらの視点で見たことを話してね」


 イリスは、5年前のことから話し始めた。



◇・◇・◇



 シモンの葬式に、王一家がやってきた。

 エドは青い顔をして、王の後ろに付いて来ていた。


 大人達が密やかな声で短く挨拶し合う。

 エドは何も言わず、誰とも目を合わさず、ユリの花を棺に入れて下がっていった。イリスも黙って、それを見つめていた。


 何を言いたいのか、自分でも分からなかった。だから、ただ黙っていた。


 棺を閉じる時、母が泣き、父も涙を流したが、イリスの目は乾いていた。何故泣かないのかも、分からなかった。


 エドも泣いていなかった。一瞬だけ目が合ったが、すぐ逸らされてしまった。



◇・◇・◇


 イリスはアイラに言った。


「多分、あのときは、悲しいより悔しさと怒りが勝っていたのね」


「イリス様。今だから言えますが、あの時のあなたは恐ろしかったです。年齢のわからないような空虚な目をしていて、人でない者のようでした。

その後、普通に戻りましたけど、あの時のあれが少しだけ、ずっと残っていたように思います」


「そうかもね。その後すぐに、お父様に頼み込んで訓練を受け始めたでしょう。

 とにかく死に物狂いだったわ。シモンの代わりに強くなりたかった。そのうち、シモンに代わって、私がエドを守ろうと思い始めたの」


「一見、普通の仲の良い婚約者でしたよ。姉弟にも見えるくらいに」


「本当に?」


 話していて、イリスは気がついた。シモンを守れなかった後悔を、エドワードに向けていたのだと。


「私はエドをシモンの代わりにしていたのね。弟扱いのはずだわ。

 そして、彼を死なさない、絶対に守り切る、そのためにずっと側にいたのだわ。恋などに割く心の余裕はなかった。アイラ、私恋したことも、恋愛に意識を向けたこともないみたい」


「そうですね。十四歳で止まっていたのかもしれませんね。

 でも外から見ると、イリス様はエドワード王太子にゾッコンで、いつも側にいたがる、重めの女性に見えました。エドワード王子の十四才の誕生日に、事件がありましたね。あれから特にだったかな」



◇・◇・◇


 エドの十四才の誕生日に、盛大なパーティが開かれた。

 イリスは婚約者として、華やかに装い、両親と共に王宮に早めに到着した。王と、王妃に挨拶した後、エドに会いに行く。パーティ用の正装に身を包んだ彼は立派に見えた。



……そういえば、素敵とかじゃなく、立派とか大きくなったとか保護者目線ね……


……近しい者たちは気付いていましたよ。もちろんエドワード殿下も……



 

 エドワードはとても嬉しそうだった。

 誕生日から半年間だけ、イリスと二歳違いになるのだ。その後は、また三歳も年下になってしまう。そういう意味で誕生日が待ち通しいし、楽しみにしていると言っていた。


 幾つ違いでも気にしなくていいのに、とイリスは苦笑して聞いていた。シモンはイリスの2ヶ月後、エドワードは六ヶ月後が誕生日だった。だから、シモンが上の弟、エドワードが下の弟というような意識はずっとあった。


 広間での会食の最後、エドワードの前に運ばれたデザートのシロップに、毒が仕込まれていた。

 たまたま苦手ないちじくが載っていて、イリスがそれを自分の皿に移した。その時、銀のスプーンを使ったのが幸いした。フォークでは気がつかなかったかもしれない。


 変色したスプーンを見て、すぐに、皿を取り上げ、護衛を呼んだ。そしてエドワードを守るよう言った。


 周囲がざわつき、衛兵たちが厨房を封鎖し、会場係の者たちを、他の部屋に追い立てていく。


 客たちは、その場に待機させられた。客が犯人の可能性もあった。


 しばらく後に、会場係の古参の侍女が一人、首を絞められて死んでいるのが見つかった。王を始めとする重要人物への配膳を担当している女性だった。


 この日より、イリスのエドワードに対する干渉が強くなっていった。今回は偶然助けられたが、もしかしたら、また目の前で弟が死んだかもしれない。

 

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