ルイスの幸せな結婚
第3.5章の最終話です。
次から第4章で、シャノワールの最終話です。帰国までのあれこれの話+イリスが婚約を解消した事件を回想する話になります。
旅の出発には大勢の人が見送りに集まった。
なにせ、社交界でも話題の上、王妃様がシャノワールを通して旅の仲間を紹介したのだ。話題性は抜群だった。
ミカエルはグレイのマントを羽織り、袋を背負っている。ルイスは普通の旅装だが、同じようなマントを着て、あっさりした帽子を被っていた。
二人の後ろにがっしりした男が騎士の旅装で立っていた。赤いたてがみのような髪が目立ち、国王軍の軍団長と言っても通る。
今から壮大な冒険の旅に出発するといった雰囲気だ。こういう人物を探していたのなら、そこらの男では駄目なのが納得できた。
そこには、バーンズ侯爵夫妻も来ていた。
息子がしでかした不始末に、可愛らしい天使が幕引きをしてくれるのだ。
それ以上に、侯爵はミカエルが可愛くて仕方なかった。愛くるしさや、小さいながら気概がある所など、めったにいない素敵な子供だと思っていた。
「ミカエル君、よろしく頼むよ。悪いものは全部捨ててしまってくれ」
「わかりました。僕、行ってきます」
キリッとした顔つきで言うのが、可愛すぎて、そのまま連れて帰りたくなる。観ていた野次馬達も同じだった。
そして後ろに控えているルーザーに問いかけた。侯爵は彼の事を国王軍の軍事教官として知っていた。彼にすごく惚れこんでいて、よく屋敷にも招いており、親しくなっている。
「なぜ君が選ばれたんだ? 私でも、うちの新しい後継者でも、その他の誰でも駄目だったのに」
「なんとなく、だそうです」
「そうか。あまり目立つ行動はしなかった君が、こんなに人目に立つことを引き受けるとはね。意外だよ。しかも今日はすごくゴージャスだね」
ルーザーが笑った。
「これは大切な人との大切なイベントですからね」
ミカエルが横に来て先を続けた。
「旅から帰ってきたら結婚式をして、ルイスお姉様は幸せな花嫁になるんだよ」
周囲がざわっとした。公爵がルイスを見ると、真っ赤になって下を向いている。
ルーザーとルイスがちらっと目線を合わせた。皆、ああ、そうなんだと納得した。
「また、君か」
横にいた侯爵夫人が、扇子で侯爵の腕を軽く叩いた。
「あなた、変な言いがかりはお辞めになって。みっともない」
そしてルイスに向かって微笑んだ。側に寄って、ちょっといたずらっぽい目で、本当なの、と聞いた。
「いいえ、ミカエルがそう言い出しただけで、私は、わかりません」
「そう?旅の間にわかるかしら。お祝いの品を山程揃えておくわ。侯爵はルーザーを自分の配下に欲しくて、ずっと口説いていたの。さっきのはただの嫉妬なのよ。ごめんなさいね」
ルイスは困っていた。ミカエルに合せてくれただけなのに、こんなに広まってしまって、申し訳ない気分で一杯だった。
「あれは、この旅に合わせたお芝居だと思うのです」
「彼は何て言ったの?」
「結婚しませんか、と一言。ミカエルとの話の流れで言ったので、だから」
ルイスの言葉を夫人が遮った。
「それは本気よ。夫が何人の美女を紹介したと思う?全く無関心。お芝居でもそんなこと言わないわね」
そしてルイスをルーザーのもとに連れて行った。
「あなた、ルイス嬢と結婚するの?」
「はい」
「そう、じゃあ、私もお祝いさせて貰うわ。何か必要なものはある?」
「私はありませんので、ルイス嬢と相談してください」
何故かルイスを置き去りにして、周囲で話が進んで行く。ルイスは焦った。
「あの、結婚って本気なのですか?」
「私では駄目ですか」
「いいえ、そんな事ありません」
「ありがとう」
わっと周囲が沸いた。声の種類は色々だったが、ルイスの親族は明らかに喜びの歓声を上げていた。
旅の打ち合わせで顔合わせをした時から、ジリジリしていたのだ。主にルイスの鈍さと奥手さに。
もしかして、私の結婚が決まってしまったのかしら。今更ながら気付くルイスだった。そして、急に気恥ずかしく、嬉しい気分が湧き上がって来た。
ミカエルがやってきた。少し不満そうだ。
「指輪を捨てるのが先って言ったでしょ。大人ってしょうがないなあ」
ルイスとミカエルは馬車に乗り、ルーザーは馬で、横を前後しながら進んだ。御者はと言うと、出歯亀をしたいミラだった。
守りは完璧だ。ミラもミカエルに、付いて来てもいいよ、という程度に仲間に入れてもらえた。
カイルとケインも手を挙げたが、なんとなく駄目、と言われてしまった。
旅は楽しかった。
夜は四人で一緒に食事を摂り、色々と話をした。
ルイスはダニエルの時との違いに驚いていた。
話したいことや、聞きたいことがたくさん湧き出てきたし、もっと一緒に居たかった。
そして時間が経つのがものすごく早かった。
そうして湖に到着し、二隻の船に分かれて乗り、真ん中辺りまで漕いだ。ミカエルが二つの指輪をポチャンと落とした。そしてスーっと消えていく二つの輝きを、四人で見つめた。
岸に着き、船を降りると、ルーザーが指輪を懐から取り出した。
「これを受け取ってくれるか?」
ミラが、もう用意したの、早いな、と叫んだ。
ミカエルは、悪い指輪がなくなったから、もういいよ、と許しを与えた。
神秘的な湖の畔、二人の証人の前で、ルーザーとルイスは指輪の交換を行った。
結婚式はその後だったが、二人の結婚記念日は、その日になった。




