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一年半ぶりの我が家への帰宅

 白いシャツを着ただけの、ラフな格好で食堂に入っていくと、同じように開放感に満ちた顔つきの同行者達が待っていた。


 思っていたよりお風呂タイムが長かったかしら、と慌てて席に着いた。


 隣に座ったカイルが、


「わあ、バラの香り?さすがイクリス様。おしゃれ」


 と無邪気に声を上げ、顔を寄せてクンクンしている。


 子犬にじゃれ付かれているようで、思わず口元に笑みが浮かぶ。


 また、いつもの嬌声が上がった。ここでもやるんだ。いい加減慣れたので、スルーした。


 向かいに座っているダニエルとケイトが、変な顔をしている。どうかしましたか?と聞くと、いいえ、と言いながらも落ち着かなげだ。


 反対の隣に座ったアイラが、悪い男モード全開で、イリスに体を寄せてきた。


「なんだ?」


「バラの香りがお似合いですね。イクリス様」


 すり寄られた側の頬の産毛がボっと立ち、眉を寄せてしまう。その色気、しまえよ。


「ダニエル様達のお心遣いだよ。ありがとうございます」


 そう言って顔を向けると、二人はイリス達を凝視していた。他の面々はいつも通りだ。じーっと見つめている。何かを期待しているようだが、女同士なので、何も起こらないです。見た目は、男同士なので、そっちでも何も起こらないのだけど。



 夕方まで休憩し、メンバー全員とダニエル達とで改装中の居酒屋に出掛けた。商会から十分程度の街中であって、裏は森というベストな立地だ。つくづく、この二人は有能だ。


 居酒屋の内部は広々としており、2階には個室が数室並んでいる。居酒屋兼宿屋だったようだ。

 これなら宿泊も密談も監禁もいける。外には、大きな納屋と、厩、馬車の停留場所もあった。



 ミラはすぐに納屋に駆け込み、歓声を上げると、このまましばらく、こっちに泊まり込むと言い出した。


 まずは爆弾と煙幕と催涙弾と、投石機と、とブツブツ言っている。


「イリス様、ボウガンは100台、投げナイフ千本、撒菱千個、火攻め用の灯油、導線用の縄や布類、落下トラップ用の綱等を仕入れてもらいましたけど、他に何か必要なものは?

 あ、しまった、毒蛇と毒蜘蛛を忘れていた」


 一体どういった規模の戦いを想定しているのだろう。


 ダニエルを見ると、頷いていた。


「早速取り寄せます。もし使わなかったら、薬や酒の材料に回すから大丈夫ですよ。元々、その用途で手配するので、疑われることもないでしょう」


 煽らないで欲しい。


 ミラは、何でもありだし、何でも手に入るとご機嫌だ。


 彼女はほっておくことにした。



 一番重要な、潜伏先の捜索に関しては、最近この国に現れた団体を、ダニエルが先行して調査してくれている。


 首都内では四つ見つかっている。

 そちらの捜査はカイルとケインに託した。特定したら、なるべくたくさんの人間から情報を引き出すこと。手段は問わず、だが痕跡は残さないこと。


 イリスとアイラはレンティスに布地の納品に向かう部隊に便乗し、ブルーネル家にも、注文の品を納入に寄り、父と情報共有する予定だ。


 明後日には出発だが、バイエルでの基盤がしっかりしているので、背後への不安はない。



 

 5日後、レンティスに入り、取引先に商品を納入後、ブルーネル公爵家に向かった。1年半ぶりの我が家だ。


 守衛にカンザス商会と名乗り、案内を請うと、すぐに父の執務室に通された。


 父と母、その他十名ほどが集まっていた。


 秘密作戦なんですけど。この人数はちょっと、と引いていたら、騎士団長がまっさきに声を上げた。しかも大声だ。


「イリス様ですか?イリス様というより、公爵様の若い頃にそっくりだ」


 その他もそこそこの年齢のため、同じことを思っていたらしい。そうか。二十代のあの頃の公爵様だ、と盛り上がっている。


 母も口元を押さえていた。


 感傷と緊迫感が何処かへ飛んでいった。




「お父様、皆様、ただいま戻りました。変わりはない?」


「イリスか。後ろに居るのは、…アイラか?2人共、なんていうか、...」


 言葉を探す父に代わり、母がさらっと言った。


「いい男ね。

 それで、今の状況はどうなっているの?」


 相変わらず、男共が馬鹿になっている時に、引き締めるのは母の役目だな。


「座っても?」


「こちらへどうぞ」


 促されて父の向かいに座る。ちょうど良いタイミングで、侍女たちがお茶を持ってきた。顔を見知っている子もいたので、帰って来た実感がぐっと盛り上がった。


「イクリス様、先に商品を改めていただきましょう」


 アイラが、持参した箱をテーブルの上に積み、ご確認をお願いしますと父達に示した。商人らしい控えめな態度だ。


 侍女たちが部屋を出ると、態度が一変した。笑顔が怖かった。


「公爵様方も、イリス様も、ここに来ていることは極秘だと言うことを、お忘れなく」



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