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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : シャノワール・王妃様の相談所   作者:
第三章 王太子妃誘拐事件の裏側

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バイエル新支店に到着

 出発の前日、伯母さまから呼ばれ、伝言を預かった。

 ダニエルの母からのものだった。


 ダニエルの母親は、長年関わっている、教会のボランティア団体を動かし、草の根作戦でダニエルの行方を探り、居場所を突き止めた。そこにシャノワールが割り込み、彼らをバイエルに移動させた。また、消息が途切れてしまったわけだ。


 落胆していると、侯爵家に王室からの呼び出しがかかり、国家間のトラブルに関して、ダニエル達の手を借りることになったと告げられた。

 危険はないと思う。一切、声も手も出さないように、と言い渡された。概要もわからなければ、質問も受け付けないという強硬なものだった。


 その後、有力な夫人会の代表として、王妃様に謁見を申し込んできた。彼女の思いを聞き、ダニエルに伝言を伝えることを約束したそうだ。


 伝言は、『侯爵家から除籍しても、私はずっとあなたの母よ』

 ただし、返信は、全てが終わった後だと追加すること、これは伯母さまから。



 商会のロブラール支店からの出発の朝、見送りの人々に交じってルーザーが来ていた。


 緊張感を湛えながらも、生き生きした面持ちの出動メンバーと比べ、ルーザーはしおたれている。


 可哀想で慰めたくなってしまうが、ぐっと我慢していると、アイラが慰めてあげてください、と言う。


 珍しいことだと思いつつ、近づいて背中と髪の毛を撫でて慰めの言葉を掛けた。切なげな目で見つめられると、連れて行ってあげると言いたくなってしまう。


 その様子を観ていた見送りの皆さんが、嬉しそうに口元を押さえていた。


 なんなの?


 出発後に馬車の中でミラに聞いてみたら、明るく言った、


「見応えありました。冷たい美貌の青年と、目で訴えるライオンの絡みはゾクッときました」


 商会の女性社員達も、キャッキャッと嬉しそうだった。そういう華やいだ雰囲気のまま旅をし、なんなくバイエルの国境を越えた。さすがにカンザス商会の力は強い。


 それに隊の雰囲気が明るすぎて、不審に思う余地がなさそうだった。


 理由の一つがイリスとカイルの絡みだった。ごく普通の業務連絡でも、何故か女性たちの嬌声が上がる。


 もう一つがイリスとアイラの絡みだった。こっちは息を飲んで見つめる様子になる。


 途中、浮かれ気味の商団の雰囲気を、引き締めようかと思ったが、このままのほうが都合が良さそうだった。緊張しないでいられる方がいい。


 その雰囲気のまま、バイエルの首都にある支店に到着し、ダニエル達に迎えられた。まだ午前中だったので、荷解きをし、遅いランチの後で解散ということになった。



「お疲れ様でした。イクリス達はこちらに。報告をお願いします。他の者は荷の搬入を頼む」


 そう言うダニエルは、すでに支店に馴染んでいるようだった。


 副支店長室に通され、早速報告会を始めた。


「お疲れとは思いますが、まずは状況をお伝えしたいと思います。

ところで、あなたはノアール様でしょうか」


「ええ、ノアールよ。そんなに雰囲気が違うかしら」


「ええ、ずっとお若く見えますし、もしかして、男性だったのですか?」


 男性に間違うのは許すが、年に関しては、一言だけ言いたかった。


「私はね、…..」


 言い始めると同時に、アイラが遮った。


「秘密のサロンですから、詮索は一切なしでお願いしますね」


「そうでしたね。失礼しました」


 すぐに問いを引っ込めた。


 

「依頼されていた、隠れ家、作業場、材料の調達についてですが、隠れ家兼作業場として、商会が新たに開業する予定の居酒屋を考えています。

 まだ改装工事中で、そこにメンバーが集まっても、夜間に人がいたり、工事をしていても不自然ではないでしょう。

 必要に応じて、職人の手配を調整しますよ。


 指示された材料の手配はほぼ終わっていますので、そこに運び込みます」


 工事中の酒場とは気が利いている。何をするにしても、どうにでも言い繕えそうだ。


 酒場の見学は午後に回した。まずはお湯を使いたかった。


 来客用らしき、大きくて豪勢な部屋に案内されると、そこにはすでお湯を張った湯船が用意されていた。ダニエルにお礼を言い、母親からの伝言と、伯母様からの伝言を口頭で伝えた。

 彼は何か考え込むような顔をして、部屋から出て行った。



 イリスは有頂天だった。今1番欲しいものが、ここにある。


 さっさと風呂に飛び込み、のびのびと体を伸ばした。一人で身の回りの用がこなせるように、訓練してあるし、今は男装しているので、全てが単純だ。男装バンザイだ。


 気を利かして、薔薇の香料も置いてあった。いい匂いで、ここ数日の埃っぽい中での生活を、きっぱり過去の事にできた。気持ちの良い秋の昼間、湯の中でのんびりできるのは至福だった。



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